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[83] 続・脳卒中のリハビリテーション

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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2010年11月1日 発行

-話すこと、食べることの障害への対応-

国立循環器病研究センター
循環器病リハビリテーション部
言語聴覚士 大畠 明子

話そう! 食べよう!

話そう! 食べよう!
もくじ

はじめに

脳卒中になると、手足が麻痺(まひ)して力が入らなくなるだけでなく、言葉が出てこなくなったり、ろれつが回らなくなったりすることがあります。また、飲んだり食べたりしたとき、ひどくむせたり、食べ物が口からこぼれたり、飲み込めずに口の中に残ってしまうこともあります。

患者さんは、脳卒中になったこと、しかも手足が麻痺したというショックに加え、今までごく普通にできていた会話や食事ができなくなり、強いストレスにさらされます。ご家族も、患者さんへの接し方に戸惑い、果たして回復できるのか、不安に思われるでしょう。

このページでは[81]脳卒中のリハビリテーション」に続き、脳卒中による言葉の障害とそのリハビリテーション(言語聴覚療法)と、飲んだり食べたりすることの障害とそのリハビリテーション(摂食・嚥下(えんげ)機能療法)について解説します。

言葉の障害への言語聴覚療法

脳卒中による言葉の障害には「失語症」と「運動障害性構音障害(麻痺性構音障害)」があります。

失語症とは?

ほとんどの人は、大脳の左側(左半球)に言語領域という言葉の能力に関わる部分があります。失語症は、この言語領域の働きが脳卒中や頭のけが(頭部外傷)、その他の病気(脳腫瘍など)によって障害され、言葉がうまく使えなくなった状態です。

失語症というと、単に話すことができないだけの状態で、話すことができなければ字を書けばよい、50音の文字板を指差せばよい、と思われがちですが、失語症になると「話すこと」だけでなく、「聞くこと、読むこと、書くこと」も難しくなります。

また、話すことができない、自分の名前もアイウエオも言えないという状態は、呆(ぼ)け(認知症)と誤解されることがありますが、失語症の患者さんは、言葉を使わない(非言語性の)知的能力は保たれています。だから、子供扱いやプライドを傷つけるような接し方は禁物です。

失語症のタイプ

失語症にはいくつかのタイプがあります<表1>。脳の前方の損傷では、聞いて理解することは比較的良好ですが、流暢(りゅうちょう)さを欠いたぎごちない話し方になったり、ほとんど話せなくなったりします。このような失語症を「ブローカ失語」といいます。

また、脳の後方の損傷では、聞いて理解することが難しく、流暢に話すことはできるものの、言い間違い(錯語(さくご))が多く、また、その言い間違いに気づかず、会話がかみ合いにくくなります。このような失語症を「ウェルニッケ失語」と呼びます。

失語症のタイプは他に、聞いて理解することは良好で、話し方も流暢なのに、物の名前が出てこない「喚語困難(かんごこんなん)」のために、回りくどい話し方になる「健忘失語」や、「聞く、話す、読む、書く」の言語機能全体が重度に障害された「全失語」などがあります。

表1 失語症のタイプ


言葉を聞いて理解する能力 話す能力 読み書きの能力 その他
ブローカ失語(運動性失語) 話す能力に比べて障害が軽い 聞いて理解する能力に比べて障害が重い。自分の思うことが話せず、話せてもたどたどしいしゃべり方になる 仮名に比べ、漢字の方が能力が保たれる ほとんどの人が右片まひを伴う
ウェルニッケ失語(感覚性失語) 話す能力に比べて障害が重い なめらかにしゃべり多弁だが、言い誤り(錯語(さくご))が多いため、聞き手には非常に理解しにくい話し方になる 一部を除き、仮名に比べ、漢字の能力の方が保たれる例が多い 右片まひを伴うことはほとんどない
全失語 相手のいうことはほとんど理解できないが、日常のあいさつや、本人の状態などに関する質問は理解できることもある 残語(ざんご)程度しか話せなくなる 強く障害される ほとんどの人が右片まひを伴う
健忘失語 障害が軽く、相手の言うことはよく理解できる なめらかにしゃべるが、喚語(かんご)困難があるため、ものの名前がすぐに出てこない。迂言(うげん)(回りくどい言い方)が多い 読解や音読は保たれる。書字能力には個人差がある
伝導失語 比較的保たれている 字性錯語(言葉の一部の言い誤り)が多く、誤りに気づいて言い直そうとするため、発話の流れが妨げられる 漢字より仮名の方が障害されることが多い 復唱が言語理解に比べ際立って障害される
◎「失語症リハビリテーションマニュアル」(大阪府発行)から
失語症の症状と対応の仕方
(1)聞いて理解することの障害

言葉は聞こえているのに、その意味が分からない状態です<図1>。どのタイプの失語症にもみられますが、ウェルニッケ失語の場合は特に重度です。

聞いて理解することが障害されている場合は、ゆっくりと分かりやすい言葉や文章で話しかけるようにします。また、要点を文字や絵で書いて見せたり、ジェスチャーで示したり、実物を見たりしてもらえば、「聞いて理解することの障害」を補うことができます。

図1 聞いて理解することの障害
図1 聞いて理解することの障害
(2)喚語困難(かんごこんなん)

何か言いたいときに、言うべき言葉が出てこない、いわゆる「のどまで出かかっているのに・・・」という状態で、程度の差はありますが、どのタイプの失語症にもみられます <図2>

言葉の出にくさは場面によって変わり、ある場面では言えた言葉が、その後、別な場面では言えないこともよくあります。

患者さんが喚語困難で困っているときは、ゆったりとした態度で待ち、適当なところで「~のことですか?」などと思い当たる言葉を挙げ、言いたい言葉を引き出すようにします。

いつまで待つか、どのような助け舟を出せばよいのかは、患者さんの話す能力によって違います。普段からよく観察しておきましょう。

図2 喚語困難
図2 喚語困難
(3)錯語(さくご)と失構音(しつこうおん)

錯語とは、言葉を言い間違えてしまうことです<図3>

例えば「時計」と言おうとして、「とてい、とけん」など、音の並び方がうまくいかないような言い間違いをする場合もあれば、「めがね」とまったく別な言葉に言い間違う場合もあります。

それらの言い間違いに、患者さんは気づくこともありますし、気づかないこともあります。

失構音は、発音しようとするとぎごちない発音になったり、音が歪(ゆが)んだりすることです。後で説明します「運動障害性構音障害」と違い、唇や舌の麻痺はなく、また、いつも同じように発音しにくいのではなく、きれいに発音できることもあります。

錯語も失構音も、患者さんの言い間違いや発音の誤りを、一つ一つ訂正したり、言い直させたりする必要はありません。場合によっては「~のことですね」などと、さりげなく確認したり、注意を促したりしましょう。

図3 錯語
図3 錯語
(4)ジャーゴン

ジャーゴンとは、流暢ではあるものの意味不明な言葉のことです。ジャーゴンを話す患者さんは、聞いて理解することも重度に障害されていますので、先に説明しました「聞いて理解することの障害」への配慮が必要です。

(5)残語(ざんご)と保続(ほぞく)

失語症が重症の場合、「はいはい」「でもね」など限られたいくつかの言葉が、繰り返し出てくる場合があります。このような残語は会話の流れに沿って出てくるとは限りません。

また、患者さんが繰り返し言うつもりはないのに、同じ言葉を繰り返してしまうことを保続と言います。患者さんが疲れたり、興奮したりすると、そのような状況になりやすいので、患者さんの話す言葉だけをとらえて、問い詰めたり、言い争ったりしないようにしましょう。

失語症のリハビリテーション
・ベッドサイドでのリハビリテーション

脳卒中で入院して直後のリハビリテーションは、言語聴覚士(ST:Speech Therapist)がベッドサイドに出向いて行います。患者さんにあいさつしたり、リハビリテーションについて説明したりしたときの反応は、患者さんの状況判断や現状認識を推測する手がかりになります。

可能であれば、氏名や年齢、住所など個人についての質問や物品呼称(STが見せる物の名前を言う)、単語や短文の復唱(STが言う通りに言う)、動作指示の理解(STが言う通りの動作をする)など、ベッドサイドでできる簡単な検査をします。

STはこの最初の面談・検査で、患者さんの失語症の程度や特徴的な症状を把握して、患者さんへの話しかけ方や、患者さんからの反応(言葉など)の引き出し方、今後のリハビリテーションの方針を考えます。

これらの情報は医療スタッフで共有する一方、患者さんとご家族にも説明し、失語症という事態に対する不安を和らげるようにします。

・言語室でのリハビリテーション<写真1~3>

患者さんの病状が安定し「ベッドから起きる」練習が進み、車いすに一定の時間、乗れるようになれば、リハビリテーションは原則として言語室で行います。

患者さんの体力や心理状態、失語症の程度によりますが、可能なら「標準失語症検査」を行います。この検査は、言葉の能力を「聞く、話す、読む、書く」の四つの分野に分けて、簡単なものから複雑なものへと、系統的・段階的に評価するものです。

例えば「聞く」の分野では、単語の理解、短文の理解、口頭命令に従うという順序で、聞いて理解する能力がどの程度保たれているか、あるいは、どのような困難さがあるかを調べます。

「話す」の分野では、物の名前を言う、動作する場面を描いた絵の説明、まんがの説明という順序で、それぞれ物の名前を言ったり、文章で話したりする能力をみます。単語や文章を復唱したり、音読したりする能力をみる項目もあります。

「読む」や「書く」の分野でも、同じ単語や文章を使って、それらの能力を段階的に調べます。失語症のリハビリテーションを実際にどのように行うかは、標準失語症検査などの結果や、その患者さんの生活にどの程度の言葉の能力が必要かなどが異なるため、一概には言えませんが、共通するいくつかのポイントを挙げます。

写真1 言葉の障害のリハビリテーション「言語聴覚療法」
写真1 言葉の障害のリハビリテーション「言語聴覚療法」
写真2 標準失語症検査に使う図 写真3 標準失語症検査に使う物品
写真2 標準失語症検査に使う図
写真3 標準失語症検査に使う物品
1)言葉の能力を最大限に回復させます

一般的に、症状の改善を目的とした訓練は、患者さんに適切な刺激(言葉を聞く、文字を見るなど)を与え、何らかの反応(YES/NOのサインを出す、文字を指差すなど)を引き出す形で進めます。

絵カードや文字カードを使うだけでなく、患者さんの能力や興味に合わせ、言葉を思い出すように援助しながら会話をしたり、新聞や雑誌を見てもらったりして進めます。

2)残っている能力でコミュニケーションが図れるようにします

「刺激―反応」の訓練をする一方、言葉を話すことだけではなく、他の方法によるコミュニケーションを図るようにします。

「とにかく伝えること、通じ合うこと」を目的に、ジェスチャーや絵を描くことなどを積極的に取り入れ、患者さんの側からもコミュニケーションができるように働きかけます。

3)患者さんに関わる人が失語症について理解を深め、適切な関わり方ができるように援助します

リハビリテーションは発症して間もない早期から始めるのがよいとされています。失語症のリハビリテーションも、患者さんの意識がはっきりして、STとのやりとりに関心を示すようになれば、できるだけ早期から始めます。失語症の回復は、患者さんによって差はありますが、一般には発症から一年ぐらいの間は回復が期待できます。

失語症について説明しましたが、次に脳卒中によるもう一つの言葉の障害、運動障害性構音障害(麻痺性構音障害)について説明しましょう。

運動障害性構音障害(麻痺性構音障害)とは?

脳卒中によって、言葉を話すのに必要な舌や口唇、声帯などの発声発語器官の動きが悪くなったり(麻痺)、それらの動きをうまくコントロールできなくなったり(失調)することがあります。

そのために大声が出なくなったり、声がかすれたり、ろれつが回らず発音が不明瞭になったりする状態を「運動障害性構音障害」といいます。

脳卒中を何度か繰り返し、大脳の左半球にも右半球にも障害のある患者さんによくみられます。小脳が障害され、運動失調がみられる患者さんでは、声の大きさの変動や話し言葉のリズムの乱れが目立ちます。

失語症とどう違うのか

失語症は言葉の能力全体の障害なのに対し、運動障害性構音障害は「話す」ことだけの障害です。つまり、「話す」ことが困難でも、代わりに「書く」ことでコミュニケーションを図ることができます。

発音が不明瞭になるのは、失語症の場合の失構音と似ていますが、運動障害性構音障害の患者さんの発音は、いつも同じような不明瞭さになります。また、「声質」自体に異常があり、声が出にくくなったり、声がかすれたりします。

脳卒中が起こる場所によっては、失語症と運動障害性構音障害の両方が現れる場合があります。発音の不明瞭さにどの程度、失語症や運動障害性構音障害が関わっているかは、失語症や発声発語器官の麻痺の程度、発音の不明瞭さの傾向をみて判断します。

運動障害性構音障害のリハビリテーション

失語症と同様に、リハビリテーションはベッドサイドから始め、患者さんの状態に合わせて言語室で行います。

検査は、声質や発声持続時間(「アー」の発声をできるだけ長く続ける)、発声発語器官(舌、口唇など)の運動の範囲や速さ、発音(50音、単語、短文、長文)について調べます。

運動障害性構音障害も、障害そのものの改善と、その障害を補うことを考え合わせたリハビリテーションをします。その内容は、患者さんの障害の程度や必要な言葉の能力によって異なりますが、いくつか共通するポイントがあります。

1)発声発語器官の運動能力を改善させます

声を出しやすい姿勢で座り、肩や首の力を抜いて、深呼吸をします。口や顔の体操をして、声を出す練習をします。

2)発音の不明瞭さを改善させます

50音や単語、短文、長文などで発音練習をします。話す速度をゆっくりにしたり、区切って言ったりすることで発音の不明瞭さが改善します。発音の不明瞭な音を集中的に練習することや、イントネーションやリズムを工夫することも有効です。

3)発声発語を補う装置を導入します

50音の文字板やそれに代わるパソコン画面を指差したり、目線で追ったりして、「話す」ことの代用となるコミュニケーションの手段を体得してもらいます。

全般的な留意点

失語症でも運動障害性構音障害でも、患者さんに話す意欲があるときに、あれこれ先回りをして言ったり、言い間違いを笑ったり、責めたりすると、話す意欲が損なわれてしまいます。

障害の重い患者さんには、聞き手の側から積極的に援助することも必要ですが、患者さんが「通じ合えた、うれしかった、楽しかった」という気持ちになれることが最優先です。

次に、このページのもう一つのテーマである、食べたり、飲んだりすることの障害と、そのリハビリテーションに話を進めます。

食べたり、飲んだりすることの障害への摂食・嚥下機能療法

脳卒中をきっかけに、飲んだり、食べたりすることが難しくなる患者さんがいます。症状は、飲み物や食べ物が飲み込めない、口の中に残る、むせる、食後に痰がからむ、食べ物のかけらがのどに残る感じがするなどです。

これらの症状は、脳の特定の場所が障害されたために急に起こる場合もありますし、脳卒中を何度も繰り返すうちに次第に重症になっていく場合もあります。

摂食と嚥下

摂食は、食べ物を食べ物と認識して口に入れ、もぐもぐと噛(か)み砕き(咀嚼(そしゃく))、徐々にのどの奥の方(咽頭(いんとう))へと送り込み、ごっくんとすばやく反射的に飲み込み(嚥下(えんげ))、その食べ物が食道を通過して胃に至る一連の運動です <図4>

この運動がどこかの段階で障害されると、食べるのは難しくなります。

図4 摂食・嚥下の段階
図4 摂食・嚥下の段階
誤嚥(ごえん)

呼吸器である肺へと続く気管と、消化器である胃へと続く食道は、咽頭の下部で分かれ、それぞれ肺と胃につながっていきます。咽頭から食道を経て胃に送り込まれるべき飲食物が、気管から肺へと流れ落ちてしまうことを「誤嚥」 <図5>といいます。

通常、嚥下の瞬間に咽頭の各部が反射的に連動し、気管の入り口を塞いで誤嚥を防ぎますが、咽頭各部の反射的な動きが遅い場合や感覚が鈍くなった場合は誤嚥が起こりやすくなります。

さらさらの水では誤嚥してしまう患者さんでも、少しトロミをつけた水であれば飲める場合があるのは、トロミをつけることで咽頭を通過する水の動きがゆっくりになり、咽頭各部の動きの鈍さを補えるからです。

気管の上部にある声帯は発声だけでなく、気管への異物の侵入を防ぐ役割もあります。飲んだり食べたりする度に、痰がからんだような声になるのは、誤嚥した飲食物が声帯に付着している危険な状態です。

誤嚥が原因で起こる肺炎を「誤嚥性肺炎」といい、高齢者や体力の低下している人では命にかかわる事態になりかねません。

むせるのは、誤嚥したものを気管から出そうとする反射的な体の働きです。むせていれば誤嚥していることは明らかですが、誤嚥をしていてもむせないこと(不顕性誤嚥(ふけんせいごえん))があり、注意が必要です。

図5 誤嚥
図5 誤嚥
摂食・嚥下障害のリハビリテーション <写真4>

この場合のリハビリテーションも「チーム医療」が欠かせません。

医師、看護師、リハビリテーションのセラピスト、栄養士・調理師がそれぞれ専門性を生かして密接に連携し、検査や直接的訓練(実際に飲食して摂食・嚥下しやすい姿勢と方法を指導)、間接的訓練(飲食物は用いずに摂食・嚥下の能力を高めるための基礎的な訓練)をします。

写真4 チームワークで行われる嚥下回診
写真4 チームワークで行われる嚥下回診
嚥下機能の検査

脳卒中で入院後、患者さんの意識がはっきりしていて、病状の進行がなければ、医師と看護師とで嚥下機能の検査をします。

・水飲みテスト

患者さんの首の前側(前頸部)に聴診器をあてた状態(頸部聴診)で、スプーン1口(3cc)の水を3口飲んでもらいます <写真5>。飲み込む音(嚥下音)が素早くはっきりと聞こえ、3口のうち2口以上むせずに飲めれば、食事を始めることができます。

2口以上むせたり、遅かったり弱かったりする異常な嚥下音、のどの奥に何かたまっているような雑音(咽頭部貯留音)が聞こえるときは、嚥下障害が疑われますので、次のフードテストをします。

写真5 頸部聴診で嚥下音をチェック
写真5 頸部聴診で嚥下音をチェック
・フードテスト

水飲みテストと同様、頸部聴診を行いながら、スプーン1口のゼリーを3口食べてもらいます。咽頭部貯留音や呼吸の異常が特になく、2口以上むせずに食べられれば、摂食・嚥下障害のために特別に調理された食事(嚥下食)を始めます。

2口以上むせたり、咽頭部貯留音や呼吸の異常が明らかであれば、食事は無理です。改善するまで、点滴や鼻からのチューブで栄養をとることになります。

・その他の検査

食事ができるようになっても、しばしばむせるようなら、嚥下造影検査(実際に食べたり、飲んだりしてもらい、嚥下の状態をX線で透視)や嚥下内視鏡検査(喉頭ファイバースコープを使って咽頭や声帯などの状態を見る)による詳しい検査が必要な場合もあります。

食事の際の留意点
その1 直接的訓練

「食事は姿勢を正してとるものです」「普通に座って食べたい」とおっしゃる患者さんは少なくありません。

しかし、摂食・嚥下障害の患者さんは、ベッドや車いすの背もたれの角度を調節して、体を少し後に傾け、あごを引いた姿勢をとる方が飲み込みやすく、誤嚥の危険を減らせます <図6>

図6 誤嚥を防ぐ姿勢

図6 誤嚥を防ぐ姿勢


飲食物が重力によってのどの奥の壁を伝い、食道から胃へと送り込まれやすくなるからです。背中がまっすぐに立っていると、飲食物は気管と食道の分岐部で、どちらにでも流れ落ちやすくなります。

また、麻痺のない側の体をやや下にして、頭は少し麻痺のある方に向けて、軽く首をひねった状態で食べると、嚥下しやすいことがありますし、1口食べて、2、3回意識的に飲み込むこと(追加嚥下)も、嚥下 を確実に行う工夫です。

誤嚥を防ぎつつ安全に食べるには、少しずつ、ゆっくりと、「嚥下を意識」しながら食べることが必要です。

もし、患者さんが、うまく飲み込めていないのに次々に食べ物を口に入れるなど、一人では安全に食べられない場合、患者さんに声をかけたり、介助したりして、ペースや1口量を守れるようにします。

嚥下食は、障害の程度によって嚥下食1(ゼリー)、嚥下食2(ペースト)、嚥下食3(粒のあるペースト)、嚥下移行食(軟らかい食材の粗いみじん切り)と、段階的に普通の食事に近づけていきます。先に説明 しましたように、水分にはトロミをつけます。トロミ剤には市販品もあります。

その2 間接的訓練

検査の結果、食事の開始は無理と分かった場合、深呼吸や発声・発音、舌や口唇の運動、空(から)嚥下(口の中を清潔な状態にして唾液を飲み込む)など、摂食・嚥下に関わる器官の運動訓練をします。

脳卒中の急性期では、意識状態や注意集中力、全身的な運動能力の回復に伴い、摂食・嚥下の能力も回復していくことがよくみられます。

口腔のケアも忘れずに

口の中(口腔)が清潔に保たれていないと誤嚥性肺炎になる危険性が高まります。口の中で繁殖した細菌も飲食物と共に誤嚥されるからです。

飲食後だけでなく飲食前も、また摂食・嚥下障害がひどくて飲食できないときも、口の中は常に清潔にしておくことが大切です。

口腔ケアは、口の中やのどの感覚を鋭敏にし、摂食・嚥下障害予防の間接的訓練にもなります。

おわりに

このページで解説した言語障害と摂食・嚥下障害のリハビリテーションは、一般的な内容です。患者さんの状態には個人差が大きく、すべての患者さんに同じリハビリテーションが当てはまるわけではありません。

患者さんお一人ごとの状態、必要なリハビリテーションについては、担当の医師、言語聴覚士によく相談してください。

私たちは普段はあまり意識せずに、話したり、食べたりしています。しかし、話すこと・食べることは、私たちが生きていくうえで非常に重要な活動であり、また日々の生活の「楽しみ」でもあります。

患者さんが話すことと、食べることの楽しみを早く取り戻せるように、言語聴覚療法と摂食・嚥下機能療法への理解が広く深まることを願っています。

END

 

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