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脳|循環器病あれこれ|

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

[81]脳卒中のリハビリテーション

-理学療法と作業療法-

国立循環器病研究センター
循環器病リハビリテーション部
主任理学療法士 尾谷 寛隆

継ぎ目のない医療

継ぎ目のない医療

もくじ

はじめに

ミスター・ジャイアンツといえば長嶋茂雄氏のことです。ミスターが脳卒中のうち最も多い脳梗塞(こうそく)で倒れ、右半身に麻痺(まひ)が残ったのは2004年のことでした。

機能を回復するため、連日、病院のスタッフに支えてもらいながら、階段の上り下りなど懸命に「リハビリ」に取り組むミスターのことを、野球ファンの方なら覚えておられるでしょう。

よく「リハビリ」と略していいますが、正式には「リハビリテーション」(rehabilitation)です。re-「再び」、habilis「適した」という意味で、「人間らしく生きる権利の回復」を目指した一連の活動のことをいいます。

広くいうと、医学的・教育的・職業的・社会的リハビリテーションの四つの分野に分かれ、病院で行うのは主に医学的リハビリテーションです。

脳卒中によって手足の麻痺などが生じた場合、その程度はさまざまですが、多くは何らかの後遺症(障害)が残ります。後に残った障害をもったまま、いかに人間らしく生きていくかがリハビリテーションそのものなのです。

それには麻痺した手足を回復させ、併せて、残った機能を最大限に活用します。さらに、失った機能を補う手段の補装具や、コミュニケーションを助ける用具(コミュニケーション・エイド)の使用、住宅の改造、ベッドや車いすを借りるなど公的な支援制度を生かし、「日常生活活動」(ADL:activities of daily living)の幅を広げるだけでなく、「生活の質」(QOL:quality of life)の向上を図っていきます。

このページでは、リハビリテーションの中でも特に重要な役割を担っている脳卒中のリハビリについて解説します。

まず脳卒中を理解してください

脳の血管が破れたり、詰まったりして起こる病気を総称して「脳卒中」といいます。脳卒中には、大きく分けて「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3種類があります。

脳卒中になるといろいろな症状が出ます。典型的なのは、半身(体の右、または左半分)の手足が麻痺して力が入らなくなる片麻痺です。しかし、その他にも半身の手足がしびれたり、傷害された部位によって言葉が出てこなくなったり、話しにくくなったり、視野が狭くなったり、めまいがしたりと、症状はさまざまです<図1>。

脳卒中になって患者さんが困るのは、こうした症状が原因で日常生活に支障をきたすことです。例えば、麻痺のために立てない、歩けない、手が使えないなどです。こうした状態を回復させ、日常生活を取り戻すためにリハビリテーションが必要になります。

図1 脳卒中になると
【図1.脳卒中になると】

リハビリテーションはだれが行うのですか?

脳卒中の患者さんたちに、リハビリテーションをするのは、セラピスト(療法士)です。国家試験にパスして資格が与えられる理学療法士、作業療法士、言語聴覚士をセラピストといいます。三つの職種にはそれぞれ専門があり、役割を分担しています。

●理学療法士(PT:Physical Therapist)

起き上がる、座る、立つ、歩くなど生活をするうえで、基本となる動作を「基本的動作」といいます。理学療法士は基本的動作に必要となる各関節の動きや筋力などをチェック(評価)し、基本的動作能力を向上させたり、獲得させたりするための運動や練習を行います。

●作業療法士(OT:Occupational Therapist)

ご飯を食べる、トイレに行く、着替えをする、歯を磨く、字を書くなどを「応用動作」といいます。作業療法士は不自由になった腕や手の機能などについて評価し、応用動作能力を向上させたり、獲得させたりするため、主に作業を取り入れながら練習を行います。

●言語聴覚士(ST:Speech Therapist)

言語聴覚士は「聞く」「話す」「読む」「書く」などの言語機能の障害をもった方の評価を行い、必要な練習や助言をします。

チーム医療の大切さ

リハビリテーション医療は「チーム医療」といわれます。

脳卒中になったら、医師が中心になり、病状の進行を抑え、障害を最小限にくい止めるため急性期(病気になって間もない時期)の治療をします。それと並行して、医師の指示によってリハビリテーションが始まり、服薬指導や栄養指導なども行われます。

これには医師、看護師、セラピスト(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、薬剤師、栄養士、医療ソーシャルワーカーなど多くのスタッフのチームワークが不可欠です。

とくに大切なのは、それぞれが職域を超えて連携を密にし、情報を共有しながらチームとして医療を実践することです。多くの職種が大きな輪を描くようにさまざまな形でかかわりますが、輪の中心にいるのは患者さんとその家族です。これがリハビリテーション医療の大きな特徴です。<図2>

図2 リハビリテーション医療=チーム医療
【図2.リハビリテーション医療=チーム医療】

いつから始めるのですか?

現在は発症して間もない早期からリハビリテーションを始めるのがよいとされています。

『脳卒中治療ガイドライン2009(協和企画)』にも、「廃用(はいよう)症候群(後で説明します)を予防し、早期のADL(日常生活活動)向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもとに、できるだけ発症早期から積極的なリハビリテーションを行うことが 強く勧められる」と記されています。

急性期のリハビリテーション

1.ベッドサイドリハビリテーション その(1) 臥床期

脳卒中の患者さんに行う急性期のリハビリテーションとは、どのようなものでしょうか。

大切なのは、急性期のリハビリテーションは治療と並行して行われるということです。急性期は病気になって間もない時期のことだと説明しましたが、言い換えると、病院でさまざまな治療や検査が行われている時期のことです。

急性期では病気の進行を防ぐために、病床で安静にしなければならない(ベッドから起き上がれない)時期があります。この時期から病床にセラピストが訪問して、急性期のリハビリテーションを開始します。病床で行われるのをベッドサイドリハビリテーションといいます。

なぜベッドサイドリハビリテーションが必要なのでしょうか。ベッドで寝ていることを臥床(がしょう)といいますが、臥床が続くことで、麻痺した手足の関節が硬くなったり、麻痺していない手足の筋力が弱くなったりすることがあるからです。

このように、安静や臥床によって二次的に生じる症状を総称して廃用症候群<図3>といいます。これを予防するため、姿勢を整えたり(良肢位保持)、手足の関節を動かしたり(関節可動域運動)、筋力をつけたり(筋力増強運動)する練習をします。

こうした練習は、集中治療室にいるころから開始します。

図3 廃用症候群
【図3.廃用症候群】

2.ベッドサイドリハビリテーション その(2) 離床期

ある程度病気が落ち着いてきたら、「ベッドから起きる」練習が始まります。

しかし、脳卒中の患者さんの場合、急に起き上がると血圧が下がる起立性低血圧によって症状が悪化することがありますので、ベッドに寝た状態から徐々に頭を上げていき、症状に変化がないかどうかを確かめます。これを頭部挙上負荷(きょじょうふか)試験といいます。

この試験は<図4>のように血圧や心拍数、症状の変化などをこまめにチェックしながら、挙上角度(起き上がり角度)30°、60°、90°の順で行います。

90°まで頭を上げられるようになれば、今度は足を床に下ろして座る練習(端坐位(たんざい)練習)が始まります。端坐位練習が行えるようになれば、次のステップはいよいよ車いすです。

ベッドで安静にしていた患者さんが初めて車いすに乗る瞬間は、病気になって初めてベッドから完全に離れることを意味します。このベッドから離れることを「離床」といいます。

ベッドサイドリハビリテーションは、離床に向けた練習といえるでしょう。

図4 頭部挙上負荷試験の方法
【図4.頭部挙上負荷試験の方法】

3.リハビリテーション室でのリハビリ

離床が進み、車いすに乗れるようになれば、患者さんの移動範囲は大幅に広がります。その頃になると、多くの患者さんは集中治療室を出て一般病棟へ移ります。リハビリテーションを行う場も、ベッドサイドからリハビリテーション室に変わります。

急性期のリハビリに3段階があることを説明しましたが、次に理学療法と作業療法がどう行われるかを説明します。

理学療法の実際

患者さんはベッドから起きて車いすに乗り、リハビリテーション室へ移動、そこで立ったり、歩いたりといった、それまでよりもさらに実践的な練習をします。

病気になってから、初めて立つか、歩くかするわけですから、必ずしもうまくいくとは限りません。

一人では立つことができないとしても、手すりを使ったり、セラピストの介助、さらに杖や装具などを使ったりすることで、動作が可能になることもあります。

●一般的な歩行練習

立てるようになれば歩行練習を始めます。最初は平行棒などの手すりを用いて練習します。

手すりを用いた歩行が安定したら、杖を使う歩行練習を始めます。歩行は(1)杖をつく→(2)麻痺した足を出す→(3)健常側の足を出す、の順に進めます。右半身が麻痺した方の場合は<図5>のように(1)杖→(2)右足→(3)左足の順になります。

図5 杖歩行練習(右半身が麻痺した方の場合の順序)
【図5.杖歩行練習(右半身が麻痺した方の場合の順序)】

●杖にはどんな種類が

杖は大きく分けて3種類あります。

平行棒内での歩行練習から次のステップとして<図6-A>の安定性の高いサイドケインを用いた歩行練習を行い、その後、<図6-B>の4脚杖、そして<図6-C>の一本杖での歩行練習へと進みます。

なお、患者さんの麻痺の程度により、初めから一本杖での歩行練習へ入る場合もあります。

図6 杖の種類
【図6.杖の種類】

●装具はどうか

麻痺した足をコントロールできず、立っていることや歩行が困難な場合は、主に足関節の固定を目的とした短下肢装具を用いることがあります。短下肢装具はいくつかの種類があり、よく使われているものを<図7>に示しました。

どれを選ぶかは、基本的にはふくらはぎの筋肉の緊張の度合いによって決めます。ふくらはぎの緊張が高く、足関節の強固な固定が必要な場合には<図7-A>を、緊張が低い場合に<図7-D>を使います。

装具の特徴を理解し、患者さんの症状や回復に合わせて、最適な装具を使います。装具は、医師の処方に従って作製すれば、健康保険の適用となります。

図7 短下肢装具の種類
【図7.短下肢装具の種類】

作業療法の実際

食事、更衣、トイレ、入浴などの応用動作ができるようになるのを目的に、主として作業を組み入れた練習をします。

●サンディング

麻痺した手の機能回復や、関節の動きの改善を目的に、傾斜したボード上を上下方向に滑らせるサンディング<図8-A>や、机の上で輪入れなどをします。

この練習は、麻痺した手だけですることもありますし、麻痺が重度で、一方の手で補助する必要がある場合は、両手で行うこともあります。

●ペグボード

手指の巧緻(こうち)性(つまんだり、離したりする機能)を高めるため、麻痺した手でペグ(木釘)をつまんだり、ボードに差し込んだり、ペグを指先で反転させたりします<図8-B>。

●利き手交換

利き手に軽い麻痺が残っている場合は、書字や箸練習などもします。もし、利き手に障害が残ると判断される場合は、利き手交換の練習を始めます。今までは利き手でしていた、もろもろの動作を、非利き手で行うとなると、とても困難になります。

非利き手で箸動作の練習をする際には<図8-C>のようなバネ付き箸を使って、ものをつまんだり、離したりする練習をします。

図8 作業療法の実際
【図8.作業療法の実際】

●更衣動作

更衣動作は患者さんの自立を促すために、とても大切な練習です。この動作には、安定して座れること、麻痺した手を認識できること、段取り・動作の順序立てができること、といったさまざまな能力が必要になります。

そこで、左半身が麻痺した方の更衣動作の手順を<図9>に示しました。半身が麻痺した方の更衣動作のポイントは「着る時は麻痺した手から」「脱ぐ時は健常の手から」です。ズボンの着脱も同様です。

また、患者さんの家庭での役割、社会的な役割に応じて、家庭生活の場面を想定した炊事や掃除などの指導や練習、さらには復職に向けた指導や練習なども行います。

図9 更衣動作の手順
【図9.更衣動作の手順】

急性期脳卒中の患者さんにはどのような注意が必要か

さて、このようにさまざまな練習ができるようになった患者さんですが、それでもまださまざまなリスク(危険性)があります。

1.再発、悪化

急性期の患者さんは治療中の身です。病気自体が安定していない状態で、さまざまな練習を始めるわけですから、病気が再発したり、悪化したりする危険性があります。

それを未然に防ぐため、必ず血圧を測定し、患者さんによっては心電図で監視しながらリハビリテーションを行います。

2.薬の影響

急性期の患者さんの多くは、点滴を受けるか、何種類もの薬を服用しています。その中には注意が必要なものもあります。

例えば、脳梗塞の患者さんでヘパリンという薬の点滴をしている方、ワルファリンという薬を飲んでいる方が少なくありません。

これらはともに病気の進行や再発を予防するために血をサラサラにする薬ですが、なんらかの出血があった場合、血が止まりにくくなる副作用があります。転倒したりして出血があった場合、それがたとえ少量であったとしても、医師や看護師による専門的処置が必要になることもあります。

3.合併症に対する注意

脳卒中を起こした患者さんには、もともと高血圧や糖尿病、もしくは心臓病などを抱えた方が少なくありません。そのため、それぞれの病気について、どのような特徴や危険性があるのか、さらに、どのような運動をどの程度まで行っても差し支えないのかを医師に確認しながら、リハビリを進めます。

急性期リハビリテーションのあとは

急性期リハビリテーションを終えた患者さんは、その後どのような過程をたどることになるのでしょうか。たいていは (1)退院し自宅へ戻る方 (2)回復期病院または療養型病院へ転院される方の二つに分かれます。

国立循環器病研究センターでは、各職種が参加する合同リハビリテーションカンファレンスを開いて、医学的な情報と、患者さんやご家族の希望を考慮して検討し、それぞれの患者さんについての方針を提案しています。

このカンファレンスには、医師、看護師、セラピスト、メディカルソーシャルワーカーが参加します。リハビリテーション医療はチーム医療であるとすでに説明しましたが、大切な方針の決定も、それぞれの領域から意見を募り、チームで行っています。

1.退院し自宅へ戻られる場合

リハビリテーションによって自宅での生活が可能になれば、退院となります。しかし、たとえ自宅での生活が可能になったとしても、何らかの不自由が残っている方も少なくありません。あるいは、退院後の生活で外出の機会が減ったり、運動する機会が極端に少なくなったりして、廃用症候群に陥ってしまう危険性もあります。つまり、自宅に帰ってからの生活が、後の生活を決定するかもしれないのです。

自宅に帰ってからも、多くの患者さんは継続して練習を行っておられます。適切な練習メニューを生活の中に取り入れることで、退院後の機能の改善や維持につながります。

デイケアや訪問リハビリテーションなど、介護保険を利用したリハビリテーションサービスを継続される方も少なくありません。いずれにしても、リハビリテーションは病院に入院中に完結するものではなく、自宅に帰ってからも続けることが肝心です。

2.回復期病院または療養型病院へ転院される場合

急性期病院は「病気を治療するための病院」です。しかし、急性期を脱して病気自体が落ち着いたとしても、後遺症などの影響で退院が難しく、リハビリテーションがまだまだ必要な患者さんもいらっしゃいます。

こうした患者さんは、回復期リハビリテーション病院や、療養を専門とした病院や施設へ移り、ここでリハビリテーションを継続し、自宅への退院を目指すことになります。

継ぎ目のない医療

国立循環器病研究センターでは、脳卒中の“継ぎ目なき医療”を目指し、病院間での情報の共有を目的とした「脳卒中ノート」を取り入れています<図10>。

このノートは、患者さんの急性期から回復期、維持期にわたる医療・看護・リハビリテーション・介護などの情報を病院・施設の担当者が記入する診療記録です。A5サイズのバインダーに綴じたもので、患者さんに携帯してもらいます。

脳卒中のリハビリテーションは急性期病院で完結するわけではありません。どの病期、どの病院でも継ぎ目なく効果的なリハビリテーションが提供されることが必要です。

自宅に帰るにしても、また他の病院や他の施設に転院するにしても、急性期の病気や障害についての情報は極めて重要です。

転院先のスタッフやかかりつけの先生、あるいは介護支援専門員(ケア・マネジャー)などが、急性期、そして回復期といった一連の情報を共有することによって、より適切なサービスを受けられます。

このページを通じ、脳卒中のリハビリテーションについて、正しい理解と支援の輪が広がるのを願っています。

図10 脳卒中ノート
【図10.脳卒中ノート】

最終更新日 2014年03月12日

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