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[66] 未破裂脳動脈瘤と診断されたら

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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2008年1月1日 発行

元国立循環器病研究センター
脳神経外科
部長 飯原 弘二

早く見つけて治療を受けよう

イラスト:早く見つけて治療を受けよう

もくじ

未破裂脳動脈瘤とは

脳の動脈のある部分がコブ状に膨らんだ状態。これを脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)といいます。「瘤」はコブのことです。

このコブは、通常、脳の底にある大きな血管の分岐部、つまり血管が枝分かれした部分が、血流に押される形で膨らんで形成されます。ときには、血管の枝分かれした部分とは関係がないところにもできます。

未破裂脳動脈瘤とは、脳動脈にできたコブが破裂しないままの状態であることをいいます。この脳動脈瘤が破裂すると、脳を包んでいる「くも膜」という膜の内側に出血を起こします。これがくも膜下出血です。いったん、くも膜下出血が起こると、約半数の方が生命にかかわります。また社会復帰できる方は、ざっと3人に1人です。助かった場合でも重い後遺症が残ることがあります。医療が進歩した現在でも、大変恐ろしい病気です。

これだけ医療が進歩しているのに、なぜくも膜下出血の治療成績は向上しないのでしょうか? 治療成績の向上を阻んでいるのは、くも膜下出血を起こした患者さんの回復の程度を決める最も重要な因子が、発症した時のくも膜下出血の程度にかかっているからです。

つまり、くも膜下出血の程度がひどく、発症時から意識状態が悪い患者さんは、その後の治療によっても良好な結果となる可能性が、より低くなります。逆に意識が正常で、「ふだんより少し頭が痛いかな」といった程度で、ご自分で医療機関を受診し、適切な治療を受けられた場合には、90%程度は問題なくその後の生活を送ることができます。

このように、くも膜下出血の治療成績のかなりの部分が、患者さんが病院に来られる前に決まっているといえます。治療にあたる脳神経外科医は、こうした治療の限界を感じており、これが、まず破れる前にコブを発見し、その破裂によるくも膜下出血を予防しようという世界的な取り組みの土台となっているのです。

脳動脈のコブができやすいところは?

動脈瘤は、前に述べましたように、一般的には血管の枝分かれした部分にできます。ここから、血流に押される形で徐々に風船のように大きくなると考えられています。これを嚢状(のうじょう)動脈瘤と呼びます。「嚢」は袋の意味です。

この袋が大きくなればなるほど、壁の中に薄い部分ができてきて破裂すると考えられています。風船の薄い部分が破裂するのと同じです。

動脈瘤は、コブができた血管の周囲、つまり動脈瘤の根元の部分を「ネック」(頚部(けいぶ)、つまり首です)と呼び、その先の膨らんだ部分を「ドーム」といいます<図1>。このドームは滑らかなカーブを示すものもあれば、ドームの中の一部がさらに膨らんだ状態になったものがあり、この部分を「ブレブ」(鶏冠(けいかん)ともいいます)と呼びます。

また脳動脈瘤は、しばしば多発性で、2か所以上にできることもあります。動脈瘤が破裂する部位は、一般的にはドームの場合が多く、ネックで破裂することは少ないとされています。

図1 コブの形とクリッピング術
図1:コブの形とクリッピング術

未破裂脳動脈瘤の治療はどうするのか?

くも膜下出血を予防するには、どうすればよいのでしょうか? 脳動脈瘤が破裂して、くも膜下出血が起こるのですから、破裂する前に治療すれば、効果的に予防することができます。

予防手段として、現在、効果があると考えられているのは、未破裂脳動脈瘤の外科治療です。

具体的には、頭蓋骨(ずがいこつ)を開けて動脈瘤をクリップで閉塞(へいそく)(塞(ふさ)ぐこと)する「クリッピング術」<図1>と、最近、急速に普及してきた、マイクロカテーテル(極めて細い管)を用いた脳血管内治療である「コイル塞栓術」<図2>とがあります。

残念ながら、薬で脳動脈瘤を閉塞する方法は現在のところありませんが、高血圧の治療と禁煙は必ず実行してもらいます。

図2 コイル塞栓術
図2:コイル塞栓術
高血圧の治療と禁煙は必ず実行していただきます
イラスト:高血圧の治療と禁煙は必ず実行していただきます

くも膜下出血の予防手段として脳動脈瘤を外科的に治療するには、当然のことですが、破裂前に脳動脈瘤を発見する必要があります。

一般に人口の2~6%の人が、脳動脈瘤を持っているとされています。最近の画像診断の進歩によって、特にわが国では脳ドックを受診することによって、無症状の方に脳動脈瘤が発見されることが多くなってきました(これを無症候性動脈瘤と呼びます)。

また脳動脈瘤は、破裂してくも膜下出血を起こすほか、大きくなることによって、周囲の組織を圧迫して、頭痛や他の症状(ものが二重に見えるなど)を引き起こして発見されることもあります(こちらは症候性動脈瘤と呼びます)。

いずれのきっかけで発見されたにせよ、脳動脈瘤の存在を知らされた患者さん(無症候性動脈瘤では、まったく症状がありません)は、大抵の方が大きな戸惑いと不安を感じます。

ここで、担当医は患者さんに二つの点について説明します。それは破裂率と治療合併症率です。突然、脳の血管にかかわる重大な事態を告げられた患者さんは、冷静に話を聞いて十分理解することができない場合もあります。大切なことですから、ご家族の方とともに、何回にも分けてじっくりと説明を受けられることをお勧めします。

脳動脈瘤があると、頭痛やものが二重に見えることがある
イラスト:脳動脈瘤があると、頭痛やものが二重に見えることがある
ご家族と一緒に、何回も医師の説明を受けましょう
イラスト:ご家族と一緒に、何回も医師の説明を受けましょう

コブ破裂の確率は?

さて、脳動脈瘤があると診断された時に、患者さんが最も知りたい情報は何でしょうか? それは、その動脈瘤の破裂する確率(破裂率)です。

しかし、現在のところ、個別の動脈瘤について、破裂率あるいは、いつごろ破裂するのかを知る方法はありません。指紋と同じように、動脈瘤も一人一人異なっています。ですから、これまでの多くの研究結果を踏まえ、患者さんの動脈瘤のおおよその破裂率を説明します。

日本脳神経外科学会の事業として行われた、未破裂脳動脈瘤の全例調査(UCAS Japan)の結果では、6646例の登録をもとに解析し、年間出血率は0.64%/年、つまり未破裂脳動脈瘤を持った人のうち、くも膜下出血を起こす人は1年間に0.64%、言い換えると1000人中6.4人となります。コブが5ミリ以上の人に限定すると、1.1%/年と報告されています。

また頭蓋内に発生した動脈瘤でも、脳を包んでいる硬くて厚い膜(硬膜)の内部にコブが存在する場合は、くも膜下出血を起こす可能性がありますが、硬膜の外(しばしば見られるのは「内頸動脈が海綿静脈洞内を走行する部位」です<図3>)にある場合は、基本的にくも膜下出血を起こす危険性は、巨大動脈瘤(直径が25ミリ以上の場合)にならない限り、まずないと考えてよいと思います。

患者さんは、担当の医師と相談して、あるいは相談後、別の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンも参考にして、治療を受けるかどうかを決定しなければなりません。

しかし、すぐには治療を受けないと決めた場合でも、後で治療を受けることはできますので、最初に決めた選択に将来、拘束されることはありません。当面、外科治療を見合わせる場合は、ある一定期間(3~6か月)ごとに動脈瘤の形態や大きさの変化を、外来で診ていくこともよくあります。

図3 くも膜下出血
図3:くも膜下出血
別の専門医の意見も聞く、セカンドオピニオンも参考にして
イラスト:別の専門医の意見も聞く、セカンドオピニオンも参考にして

治療の対象となる未破裂脳動脈瘤は?

一般的に未破裂脳動脈瘤の治療適応は、日本脳ドック学会のガイドラインで示されています。これによりますと

  1. 一般的に脳動脈瘤の最大径が5ミリ前後より大きく
  2. 年齢がほぼ70歳以下
  3. その他の条件が手術の妨げにならない場合

は、「手術的治療が勧められる」となっています。(3)の「その他の条件」は、例えば、「全身状態が悪く、治療に耐えられない」といった場合で、この場合は手術の妨げになると判断されます。

動脈瘤が大きい場合、特に10ミリ以上の場合は、治療が「強く勧められる」としています。これは、これまでの研究で、動脈瘤の直径が大きくなればなるほど、破裂率が高まることが明らかになっているからです。

また、このガイドラインでは、動脈瘤が3~4ミリの場合や70歳以上の場合でも、動脈瘤の大きさ、形、部位などから個別的に判断することになっています<表>。

同じ大きさの動脈瘤でも、破裂率はその発生した部位によって異なると考えられています。大きさの割に破裂しやすい動脈瘤として、2003年に発表された国際共同研究(ISUIA)では、「椎骨脳底動脈や、内頸動脈の後交通動脈分岐部に発生した動脈瘤」などがあげられています。

いずれにしても、コブがどの部位にでき、その場所が破裂しやすいところかどうかを担当の医師からよく聞いておく必要があります。

7ミリ以上の動脈瘤であれば、破裂率は0.5%/年以上であり、25ミリ以上の巨大脳動脈瘤では8%/年と、動脈瘤のサイズが大きくなるとともに、破裂率が高まります。

特定の部位(椎骨脳底動脈や、内頸動脈の後交通動脈分岐部)に発生した動脈瘤では7ミリ未満でも0.5%/年、7ミリから12ミリで3%/年となると報告されています。

現実的な結論として、日本脳ドック学会が治療の対象として進めている5ミリ程度以上の動脈瘤の年間破裂率は、1%以上と考えてよいでしょう。

外科治療の対象として、もっとも治療効果が高いのは、いうまでもなく破裂率が高い動脈瘤ですから、サイズだけでなく、発生部位や、形などを総合的に判断し、治療することが望ましいと考えます。

表 未破裂脳動脈の治療方針を決定する因子
表:未破裂脳動脈の治療方針を決定する因子

(注)直達手術とはコイル塞栓術のこと

主流は二つの治療法

治療法は、先に簡単に紹介しましたが、大きく分けて「クリッピング術」と血管内治療による「コイル塞栓術」とがあります(<図1><図2>を再度、ご覧ください)。

どちらも、動脈瘤だけを閉塞して、動脈瘤ができた血管(「親血管」と呼びます)の血流を残す治療法で、治療後は動脈瘤ができる前の血管の状態に戻すのが目的です(「親血管」のことは後で出てきますので覚えておいてください)。

現状では、未破裂脳動脈瘤の治療の第1選択はクリッピング術です。しかし、頭蓋骨を開けて行う外科治療が困難な場合はコイル塞栓術を適用します。

ただし、クリッピング術、またはコイル塞栓術単独では治療困難な動脈瘤もあります。例えば<図4>のように、血管内治療のコイル塞栓術に向かない場合があります。

こうした場合、<図5>のように、動脈瘤の前後をクリップで挟み、親血管の血流をストップさせる治療を行うこともあります。コブには血液が流れないので破れる心配もありません。この方法を「トラッピング術」(親血管閉塞術)と呼びます。

次にクリッピング術、コイル塞栓術、トラッピング術の長所、短所をまとめておきます。

図4 血管内治療に向かない脳動脈瘤
図4:血管内治療に向かない脳動脈瘤
図5 動脈瘤を親血管ごと閉塞する治療法
図5:動脈瘤を親血管ごと閉塞する治療法

クリッピング術の実際

もう一度<図1>を見てください。クリッピング術は、動脈瘤の根っこ(ネック)の部分を、クリップで外側から挟み込んで、コブの中に血流が入らない状態にする治療法です。

クリッピングをすると、その時点で動脈瘤は完全に閉塞され、基本的には長時間、まず安心ということになります。利点は、歴史が長い治療法ですので、手術を行った後の長期的な成績がわかっていることです。欠点としては、頭の骨を開ける必要があることですが、経験のある手術者が行えば、患者さんの負担も最小限ですみます。

クリッピング術は、歴史が長く、手術後の成績がわかっている
イラスト:クリッピング術は、歴史が長く、手術後の成績がわかっている

コイル塞栓術の場合

再び<図2>をもとに説明します。コイル塞栓術は最近、急速に進歩してきた治療法で、動脈瘤の内側にコイルを詰めて、内部を血の塊(血栓)にしてしまう方法です。

利点は、頭を開ける必要がないことですが、欠点は、長期的な成績が明らかでないこと、コイルを入れた後も、内部が血栓化し、安定するまでに時間がかかる可能性があることです。

また、ネック、つまり入り口が広い動脈瘤や大型の動脈瘤は、一般的に不得手としています。最近はステントという金属でできた筒状の支えを使用して、ネックの広い血管への塞栓術もできるようになってきました。今後、機材などの発達に伴って、徐々に適応も拡大するでしょう。

二つの方法を補うトラッピング術

トラッピング術の対象は、一般的にクリッピング術、コイル塞栓術では対処しにくい病変です。例えば、直径が2.5センチ以上の巨大動脈瘤などの場合がこれにあたります。

これは<図5>のように、動脈瘤の前後にクリップして親血管の血流をなくす方法ですが、治療前にカテーテルの先にバルーン(風船)がついた特殊なカテーテル(バルーンカテーテル)を使う「バルーン閉塞試験」をして、親血管を閉塞しても大丈夫かどうかを確かめる必要があります。

この試験にパスする、つまり一定時間、親血管の血流をストップしても症状が出ない場合は、親血管の閉塞は可能と判断し、動脈瘤の両端を閉塞するトラッピング術をします。

しかし、一時的に親血管の血流を止めると症状が出る場合は、すぐにバルーンをしぼませ、血流を再開させます。すると症状はなくなり、元の状態に戻りますが、治療で動脈瘤の両側を閉塞すれば危険だとわかったわけですから、この場合は、親血管が栄養を与えている部位に別ルートで血液を送るバイパスを作っておいてから、トラッピング術をします。バイパスを作るには、頭皮の血管(通常は浅側頭動脈)や前腕の血管(とう骨動脈)を使うなど、いろいろな方法があり、前腕の血管を使う場合は、頚部から頭部(中大脳動脈)にかけ、バイパスを作ります。

バイパスによって十分な血流が流れていることを確認した後に、動脈瘤の前後をクリップして血管を閉塞します。

また、これを一部変えた方法として、親血管を動脈瘤の手前だけ閉塞し、動脈瘤が自然に血の塊となって詰まってしまうのを待つ方法もあります。

おわりに

重要なことは、クリッピング術、コイル塞栓術ともに、動脈瘤の形や大きさによって向き、不向きの病変があることです。患者さんにどちらの治療を選択するかは、担当医の経験や技量によっても異なる可能性もあります。

破裂率は、普通の大きさであれば年間1%程度と考えて、気持ちに余裕をもって、信頼できる脳外科医に相談されることをお勧めします。

また複数の脳外科医の意見を聞くことが可能であれば、さらに理解が深まるはずです。治療困難な動脈瘤であれば、やはり治療件数の多い施設での治療が望ましいと思います。

治療困難な動脈瘤は、治療件数の多い施設で
イラスト:治療困難な動脈瘤は、治療件数の多い施設で

 

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