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[56] 脳血管のカテーテル治療

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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2006年5月1日 発行

-“頭を切らずに”できます-

国立循環器病研究センター
脳神経外科
元医長 村尾 健一
医長 佐藤 徹

治療法は日進月歩 専門医に相談を

イラスト:治療法は日進月歩 専門医に相談を

もくじ

はじめに

脳卒中は、がん、心臓病と並んで日本人の死亡原因のトップ3に入っていて、多くの方が罹患される可能性を持った病気です。一口に脳卒中といっても、くも膜下出血や脳内出血のように、頭の中の血管が破綻して起こる出血性の病気もあれば、脳梗塞に代表されるように、脳内の血管が詰まる病気もあります。

脳卒中の治療は、それらが発生してからでは遅いことが少なくありません。そこで、たとえば動脈硬化の原因となる高血圧や糖尿病、高脂血症を薬物治療や生活指導でコントロールしたり、脳梗塞を予防するために抗血小板薬といって血液の中で血栓ができにくくする薬を内服したりすることで、ある程度その進行、発生を予防するようにしています。

しかし、このような内科的治療だけではコントロールが難しい場合や、くも膜下出血を起こしたり、脳梗塞になってしまったリした時には、脳血管そのものの修復が必要になる場合もあります。

以前は、実際に頭の骨を開けたり、頸部(首の部分)を切開したりして、血管を直接手術して治療する「開頭手術」(直達手術)という方法しかありませんでした。しかし、最近は血管を通じてカテーテルという細いチューブを入れ、頸部や頭蓋内の細くなってしまった血管を広げたり、脳動脈にできた“こぶ”である脳動脈瘤の破裂を予防するため、こぶの中にプラチナ製の非常に細くてやわらかいコイルを詰めたりするといった、「頭を切らずに行える治療」(脳血管内治療、つまり脳血管のカテーテル治療)が行われるようになっています。

ここでは、脳卒中のいろいろな病気に対して、現在、行われている脳血管内治療の実際を紹介しながら、話を進めます。

脳血管のカテーテル治療とは?

脳への血流は、心臓から大動脈を経て左右の頸動脈、そして首の骨に沿って走行する左右の椎骨動脈という計4本の血管を経由して送られます。頭蓋内でこの4本の血管からたくさんの枝が分かれて、あたかも脳を包むように張りめぐらされています。

このように脳血管は、脳と脳神経のすき間を走行しているため、脳血管を直達手術(開頭手術)で治療する場合、脳組織や脳神経にできるだけダメージを与えないようにする必要があります。

たいていの場合は、脳、脳神経にダメージを与えずに直達手術で治療することが可能ですが、脳表面から非常に深い位置にある血管を治療する時や、出血で脳がはれている時などには、脳、神経組織へのダメージが起こりやすくなります。

1970年代から、脳の血管の中にカテーテルという細いチューブを入れて脳血管を治療する試みが行われてきました。脳血管は非常に細く、走行も複雑なため、カテーテル治療は困難とされてきましたが、より使いやすいカテーテル類の開発、技術の進歩によって、1990年代後半から非常に安全に行えるようになりました。

実際の方法をご説明しましょう。まず<図1>をご覧ください。

一般的には、足の付け根の動脈(大腿動脈)から、直径2mmほどのカテーテル(「ガイディングカテーテル」という)を入れます。血管の中に造影剤という薬剤を流してX線(レントゲン)透視を行い、その拡大画像を見て、血管の形や走行を確かめながら、ガイディングカテーテルを目的の部位の手前まで誘導します。

このガイディングカテーテルの中から、直径0.5mmほどの「マイクロカテーテル」と呼ばれる非常に細い管を目的の部位まで到達させ、これを操作して治療します。基本的には心臓のカテーテル治療と方法は同じですが、手術者は約1m50cm離れたカテーテルの根元から、先端での1mm前後の細かい操作をこのカテーテルを通じて行います。

脳血管内治療は、直達手術とは違って、頭や首を切開したり、骨を外したりすることなく行えますから、患者さんにとっては肉体的な負担の少ない治療です。

この方法は、すでに欧米では脳血管障害の第一線治療として認められていますが、日本では、ようやくその名前が知られるようになってきた段階です。マスコミなどで断片的に取り上げられる機会は増えているものの、その実際について一般の方々に理解していただいているとは言いがたい状況です。

このページでは、脳血管内治療がどの病気、疾患で、どのような場合に役立っているかを中心に解説します。

図1 脳血管内治療

図1:脳血管内治療

足の付け根の動脈から大動脈内を逆行する形で頭・頸部動脈に誘導する

脳動脈瘤に対する脳血管内治療

脳動脈瘤は、人口の約3%~5%の人の脳血管に存在するといわれています。そのほとんどは、無症状のまま一生経過することが多いのですが、いったん脳動脈瘤が破裂すると、くも膜下出血を起こします。

くも膜下出血は非常に怖い病気で、出血した場合、治療のいかんにかかわらず、約3分の1の方が命を落とし、約3分の1の方に何らかの障害が残って、元通り社会復帰できる人は、残りの3分の1程度とされています。

近年、脳ドックの普及などによって、未破裂脳動脈瘤が発見される機会が急増しています。脳動脈瘤が見つかった場合にどうするか、治療にどんな方法があるのか、そしてこのページの主題である脳血管内治療(カテーテル治療)でどのようなことができるのか、を説明しましょう。

1)未破裂脳動脈瘤

脳動脈瘤が検査で見つかった場合、その動脈瘤が破裂して、くも膜下出血を起こすリスク(危険率)は、その動脈瘤の場所、大きさにもよりますが、おおむね年間の破裂率は0.6~0.7%といわれています。この破裂率は年々積み重なっていくと考えられており、たとえば50歳の方であれば80歳までに、この動脈瘤が破裂する可能性は約18%~21%という計算になります。

脳動脈瘤が発見された場合は、その大きさ、場所をもとにした破裂率を推定し、患者さん自身の年齢や合併症を考慮して、治療を行うかどうかを患者さん自身に決めていただきます。ちなみに日本脳ドック学会では、70歳以下で径5mm以上の動脈瘤については治療を考慮してもよい、としています。

脳動脈瘤の治療ですが、内服治療によって破裂を完全に防ぐのは不可能で、動脈瘤そのものに血流が通わないようにすることが必要です。

治療法には<図2>のように、開頭手術で動脈瘤を直接見ながらクリップをかける「クリッピング術」と、カテーテルを使う脳血管内治療によって、動脈瘤の中に髪の毛よりも細くて柔らかいプラチナ製のコイルを留置して、こぶの中を詰める「コイル塞栓術」の二つの方法があります。

開頭手術による「クリッピング術」は、動脈瘤の根元(頸部と呼ばれる部分、図2左下)をクリップで挟みこむので、完全にクリップがこぶにかかってしまえば、動脈瘤の破裂やその部位での再発の可能性はきわめて低い、つまり、根治する可能性が高いという大きな利点があります。

ただし、頭部を切開し、脳と脳のすき間を利用して行う手術ですので、術後に脳神経障害が残ったリ、切開した部分に違和感などを生じたりすることが、まれながらあり得ます。また、脳の表面から深い位置にある動脈瘤には、到達が非常に困難な場合もあります。

図2 脳動脈瘤コイル塞栓術
図2:脳動脈瘤コイル塞栓術

一方、脳血管内治療による「コイル塞栓術」は、血管を通じて行うので頭部を切開する必要がなく、手術で到達するのが困難な深部に位置する動脈瘤にも、脳や神経組織を圧迫せずにアプローチできるという利点があります。

「コイル塞栓術」が開発されて間もないころは、動脈瘤の基部(頸部)のくびれがしっかりしていないとコイルがうまくこぶの中で巻けず、正常な血管などにはみ出してくることが多かったのです。

しかし、最近では<図3、4>のように、治療中に動脈瘤の入り口の近くに風船つきのカテーテル(バルーンカテーテル)を置いて、コイルが正常血管内に飛び出さず、しかもこぶの中にコイルをより多く充填(満たすこと)できる方法が開発されています。この方法で、頸部のくびれの小さい動脈瘤でも治療可能な場合が増えてきました。

ただし、動脈瘤の中にできるだけコイルを詰めても、入るコイルの量はこぶの体積の3割程度です。多くの場合、この程度しかコイルが入らなくても、瘤内の血流がよどんで、最終的には血栓でこぶの中が固まってしまいます。しかし、動脈瘤によってはこの血栓化が起こらず、こぶの中への血流が続き、コイルがこぶの奥の方に押しやられてしまい、こぶの中への血流がどんどん増える再開通という現象が起こることがあります。

このような状態が生じていないかどうかを確認するため、治療後にも血管撮影(カテーテル検査)や、MRIなどの検査を定期的に受けていただく必要があります。

また、治療中、カテーテルを血管の中に長時間留置するため、治療中はヘパリンという血を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を静脈から投与します。そのため、治療中に動脈瘤が破裂すると非常に危険ですし、また、抗凝固薬を用いていてもカテーテルやコイルの周囲に血栓が生じて脳梗塞を起こす可能性もあります。

最近は、未破裂脳動脈瘤の血管内治療の際に、前もって抗血小板薬(抗血栓薬)を投与することが多くなっています。

手術後は、翌日から歩行、食事が可能で、約1週間で退院できます。

図3 バルーンカテーテルを併用した脳動脈瘤コイル塞栓術
図3:バルーンカテーテルを併用した脳動脈瘤コイル塞栓術
図4 バルーンカテーテルを併用した脳動脈瘤コイル塞栓術の実際
図4:バルーンカテーテルを併用した脳動脈瘤コイル塞栓術の実際

2)破裂脳動脈瘤が見つかったら(くも膜下出血が起きたら)

くも膜下出血が起きた場合、ほとんどは脳動脈瘤の破裂によるものです。脳動脈瘤が破裂しても、いったんは血栓がかさぶたのように破裂した部分にくっついて血が止まっていることが多いのですが、このかさぶたははがれやすく、はがれてしまうと動脈瘤の再破裂(再出血)となります。

動脈瘤が再破裂すると30~50%の確率で命を落とすとされており、また、動脈瘤の再破裂は、初回破裂後24時間以内に最も起きやすいとされているため、くも膜下出血発症後はできるだけ早期に再破裂(再出血)予防をすることが必要となります。

治療は未破裂脳動脈瘤の場合と同じで、「開頭クリッピング術」か、血管内治療の「コイル塞栓術」を行いますが、すでに説明したように、出血を起こした脳ははれていることが多く、開頭手術の場合は脳、神経組織へのダメージを与えやすくなります。

2002年に英国を中心とした研究で、破裂脳動脈瘤に対して「開頭クリッピング術」か、血管内治療の「コイル塞栓術」のいずれかを受けた患者さんの術後の状態を比較したところ、血管内治療を受けた患者さんの方が生存期間、生活の質ともに良好であったという報告がありました。以来、世界では破裂脳動脈瘤に対する初期治療として血管内治療が選択されるようになっています。

わが国でも今後その傾向が強まると予想されますが、わが国では「クリッピング術」の成績が良いとされていることもあり、それぞれの患者さんで開頭手術、血管内治療のどちらがより適した治療であるかを検討していけば、患者さんによりよい治療を提供することができると考えます。

3)脳動脈瘤に対する血管内治療の今後

欧米では、コイルに薬を塗布して加工し、動脈瘤内に生じさせた血栓が早く固まるように工夫したコイルや、血液になじむと膨張するコイルなどがすでに開発され、動脈瘤内に単なる金属製のコイルを留置するよりも良い結果が得られています。

また、くびれのない動脈瘤に対しても<図5>のように、ステントという金属でできた網目状の筒を、動脈瘤の入り口付近をカバーするように置くことによって、より安全、しかも密に動脈瘤を塞栓する方法も多く行われています。

近い将来、わが国でもこのような新しい器具が導入されれば、脳動脈瘤に対して血管内治療がさらに効果的になる可能性が大いにあります。

図5 ステントを併用したコイル塞栓術
図5:ステントを併用したコイル塞栓術

くびれのない動脈瘤に対してステントという網目状の金属の筒を、ちょうど動脈瘤の入り口に橋渡しする形で置いて、そのすき間を通じてコイルをこぶの中に詰める方法。コイルのはみ出しがなく、またステントに沿って血管の内膜が張ってくることにより、動脈瘤が血管(血流)から完全に遮断される効果も期待される 

頸動脈狭窄症に対するカテーテル治療

1)頸動脈狭窄症とその治療

高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病、喫煙などは、全身に動脈硬化や、動脈が狭くなる狭窄を起こしやすくします。

頸部と頭蓋内の血管で、最も動脈硬化や狭窄が起こりやすいのは、首の頸動脈(総頸動脈が脳に向かう内頸動脈と、頭部、顔面の筋肉や皮膚に向かう外頸動脈に分岐するところ)です。

この部位で狭窄が進むと、そこにできた血栓、もしくは厚くなった血管壁(プラークまたは粥腫と呼ばれる)が破れて血管内に出てきた成分(コレステロールなど)が、脳の動脈に流れ込んで、脳梗塞を起こします。また、狭窄の度合いが進むと脳への血流が悪くなり、これが原因で脳梗塞になることもあります。

この頸動脈狭窄症の治療には、内科的治療と外科的治療とがあります。

内科的治療には、高血圧症、高脂血症、糖尿病などの動脈硬化促進因子をコントロールする方法や、狭窄部にできる血栓をできにくくするための薬物治療(抗血小板薬の内服)があります。外科的治療は、狭窄部分を広げて血液の流れをよくするのを目的とした直達手術(頸動脈内膜剥離術)と、血管内治療とがあります。

これまでの研究で、症状を起こしたことのある狭窄症、もしくは無症状であっても中等度(60%)以上の狭窄症に対しては、内服治療のみよりも、直達手術と内服治療を併用した方が、その後の脳梗塞が起こる確率が低くなることがわかっています。

しかし、全身麻酔が必要な治療であり、高齢者や、重症の心臓病などがある患者さん、頸動脈分岐部位が高い位置にあって手術が困難な患者さん、もしくは、直達手術後に血管の再狭窄をきたした患者さんには、直達手術はリスクが高いと考えられます。

1990年代以降、この頸動脈狭窄症に対して、心筋梗塞に対するカテーテルを用いた風船治療(経皮的冠動脈形成術)と同じ要領で、血管の中で風船(バルーン)付きのカテーテルを用いて狭窄部位を拡張し、そこに金属でできた網目状の筒(ステント)を留置する治療が行われるようになりました。

治療成績は良好で、患者さんへの肉体的ストレスが少ないこともあり、現時点では保険で認められていない治療でありながら急速に普及してきています。次に、ステント留置術の実際について説明しましょう。

2)頸動脈ステント留置術の実際

<図6、7>を見ていただきながら、話を進めます。

一般的には局所麻酔で行います。まず、足の付け根(大腿動脈)から狭窄部位にかけてワイヤを通します。その先端に風船(バルーン)、もしくはフィルターがついたものを使うことによって、狭窄部位を広げた際に血管壁内の粥腫の内容物などが、脳内に飛散するのを防ぎます。

バルーン、もしくはフィルターを狭窄部位より脳に近いところに準備したあと、狭窄部位を風船で広げ、その後にステントが格納されたカテーテルを狭窄のあった部位まで誘導して留置します。

現在、頸動脈に用いるステントは、二ッケルとチタンの合金(ナイチノール)でできた形状記憶合金で、決められたサイズに拡張する能力を持っています。拡張が十分でなかった場合は、もう一度バルーンで残った狭窄を広げることもあります。

狭窄部での処置が終わると、足の付け根から入れていた管を抜いて治療は終了です。多くの場合、治療時間は2時間程度です。治療後の安静は数時間で十分で、数時間後から食事、歩行可能です。特に問題がなければ、治療後1週間以内に退院となります。

図6 頸動脈ステント留置術の方法
図6:頸動脈ステント留置術の方法
図7 頸動脈ステント留置術の実際と用いられているステント
図7:頸動脈ステント留置術の実際と用いられているステント

3)起こりうる合併症

合併症としては、すでに説明しましたように、バルーンやフィルターを用いてもカテーテルに生じた血栓、もしくは、厚くなった血管壁の中にあるプラークの内容物などが脳に飛んでしまい脳梗塞を起こす可能性が、第一に挙げられます。

その可能性は、一般的には2~4%程度となっています。これらの脳梗塞の発症率は、直達手術による内膜剥離術における脳梗塞の発症率とほぼ同じです。ただし、たとえば非常に柔らかいプラークが存在している場合などは、直達手術の方が安全な場合もあります。

また、確率は低いのですが、狭窄部が広がることによって脳に急に大量の血液が流れ、脳出血が起こることがあります。

もう一つ挙げておかなければならないのは、ステント留置によって頸動脈分岐部位が圧迫されると、血管反射という現象で一時的に脈が遅くなったり、急に血圧が低下したりする可能性があることです。

予防薬を用いても、多くの場合、支障はありませんが、まれに数日間薬物投与が必要になったり、ごくまれに一時的に心臓の拍動数を維持する処置(心臓ペーシング)が必要となったりすることがあります。

こうした急性期の合併症だけではなく、時間がたってから、広げた部位が再び狭くなる「再狭窄」が起こることもありますが、心臓の冠動脈に比べるとその確率は非常に低く、5%以下とされています。再狭窄が強く起きた場合にはバルーンによる再拡張を行うことがあります。

4)頸動脈ステント留置術の今後

血栓やプラークの内容物が脳内へ飛ぶのを防ぐ方法として、治療中に頸動脈の血流を逆流させて血栓やプラークの内容物を吸い取ってしまう方法も行われています。欧米では、前に説明したように、ステントに薬を塗布して加工し、再狭窄を予防する効果を持たせる試みも行われています。

しかし、現時点でステント留置術の最大のネックは、健康保険の適応になっていないことです。安全にこの治療を行える症例を選択することにより、良好な治療実績がさらに蓄積すれば、近い将来わが国で保険適応が承認され、この治療法が頸動脈狭窄症の治療の第一選択になる可能性は十分高いと思います。

その他の脳血管疾患に対する脳血管内治療

1)脳動静脈奇形

脳動静脈奇形という病気は、脳の中で異常な動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながっている状態の奇形です<図8>。胎児(約3週間)の時期に発生する先天性異常です。しかし、動静脈奇形は遺伝する病気ではありません。

動脈と静脈が直接つながっているため、動静脈奇形の部分では血液が異常に速く流れています。また、正常な血管に比べて壁が薄く、破れやすいのです。破れると脳出血、くも膜下出血を生じ、そのために死亡したり、重い後遺症を残したりすることがあります。

破れてから脳動静脈奇形とわかる場合と、破れなくてもけいれんや手足のまひで見つかったり、検査などで偶然、見つかったりすることもあります。統計によると、脳動静脈奇形を治療せずに放置した場合、毎年2~3%前後の確率で出血を生じると考えられています。

脳動静脈奇形の治療法は、開頭による脳動静脈奇形摘出術、血管内治療(塞栓術)、ガンマナイフ(集中放射線療法)があります。血管内治療のみで根治できる脳動静脈奇形は全体の約10%です。病巣のサイズや形態によって、開頭手術やガンマナイフとの組み合わせによる治療が行われます。

実際には、カテーテルを流入する動脈に誘導し、コイルを留置したり液体塞栓物質(接着剤)を流して血液流入量を減らしたり、あるいは奇形そのものの体積を小さくしたりして、開頭手術やガンマナイフをより安全かつ効果的に行えるようにします。

図8 脳動静脈奇形の血管撮影

(右内頸動脈撮影側面像)

図8:脳動静脈奇形の血管撮影

動脈から異常な血管の塊(ナイダス)が写り、すぐに静脈側へと血液が流れていく

2)内頸動脈海綿静脈洞瘻

内頸動脈海綿静脈洞瘻は内頸動脈が脳に到達する直前、場所としては眼の奥で、海綿静脈洞と呼ばれる静脈の網目に覆われている部分に起きる病気です。外傷性と特発性の二つのタイプがあります。

頭部打撲などの外傷で内頸動脈に亀裂が入って、この静脈洞との間に交通ができて起こる場合が外傷性です。特発性は、はっきりとした原因がなく、内頸動脈と海綿静脈洞、および脳を包む硬膜という膜に栄養を送る外頸動脈の枝などが、複雑なネットワークを形成して、動脈と静脈との間に異常なつながり(短絡)ができてしまう場合で、特に中年女性に多くみられます。

症状は、眼の静脈に動脈からの血が入り込み逆流することによって、眼球充血、眼球突出が起きたり、「ザクザク」という拍動する雑音が聞こえたり、海綿静脈洞の近くを走っている神経(動眼神経、外転神経、視神経)の障害により眼の動きが制限され、ものが二重に見えたり、視力が低下したりすることがあります。

放置していても命にかかわることは少ないのですが、失明や脳内出血の原因にもなりうるため、上に挙げた症状が出てきた場合は、眼科だけではなく、脳神経外科を受診することをお勧めします。

治療は、血管内治療によりカテーテルを静脈洞に誘導し、動脈と静脈の間の異常な交通の起きている部分にコイルを置いて異常な流れをなくし、症状を改善、消失させます。また、外傷性では、内頸動脈にあいた穴を風船で塞ぐことによって治療できる場合があります。

3)硬膜動静脈瘻

硬膜動静脈瘻は、特発性の内頸動脈海綿静脈洞瘻と同じ病態ですが、頭蓋骨内面横から後ろにかけて走っている大きな静脈の部分に起こりやすい病気です。動脈の流れが直接、静脈に入り込むので血管雑音(「ザクザク」という音、耳鳴り)で発症することが多く、動脈血が脳の中の静脈に逆流を起こすと脳内出血を起こしたり、認知症のような症状を呈したりすることもあります。脳血管撮影やMRIで診断可能ですので、疑いをもたれた時点で早めに脳神経外科への受診をお勧めします。

治療は、病気の原因となっている動脈もしくは静脈に、コイルか、他の塞栓物質(プラスチック粒子や接着剤など)を使用して異常な流れを断ち切るか、減らして、症状の改善、消失を図ります。

4)急性期脳塞栓、血栓症に対するカテーテルを用いた局所線溶療法

心臓など脳の外から血栓などが脳血管に流れ込んで、詰めてしまい、しかも脳がまだ脳梗塞に陥っていないと判断された場合、血栓で血管が詰まった部位に、カテーテルで血栓を溶かす薬(ウロキナーゼ)を注入したり、風船(バルーン)付きのカテーテルで血栓を破砕したりする治療が、1980年代後半から行われてきました。しかし、治療成績は必ずしも良好でなく、脳内出血などの重い合併症を引き起こすこともまれではありませんでした。2005年秋から、急性期脳梗塞に対して新しい血栓溶解薬(t-PA)の点滴による治療法が、わが国でも認可されたので、以前ほどはこの治療法は頻繁に行われなくなってきています。

脳血管内治療(カテーテル治療)について、実際に行われている治療を紹介しながら説明してきました。

この治療は、患者さんにとって肉体的ストレスが少ない、という大きな利点がありますが、一番大事なのは、治療による効果、利益が治療を受ける人に十分にもたらされているかどうかです。個々の患者さんによっては、直達手術の方がよい場合もありますし、あるいは治療そのものを行わずに経過観察しておいた方がよい場合もあります。

今後、新たなカテーテル類(器具)の開発、技術の進歩によって、この脳血管内治療はさらに普及していくことが予想されます。ただし、安易に治療をする、あるいは安易に治療を受けることに関しては、患者さんも医療者も十分に注意を払わねばなりません。

日本脳神経血管内治療学会は、専門医、指導医制度を設けており、2005年12月現在で79人の指導医、323人の専門医が認定されています。同学会では日常診療と学会活動を通じて、治療の質の維持、発展、ならびに正確かつ適切な情報の提供に努めています。

脳血管障害になってしまった、もしくは指摘された、という場合は、脳卒中を専門に扱っている神経内科医や脳神経外科医にご相談いただき、脳血管内治療の可能性がある場合は、日本脳神経血管内治療学会認定の指導医か専門医に治療の可能性、安全性、危険性について確かめていただくことが肝心です。

この治療は日進月歩であり、前記以外の治療が今後、行われることもあると思いますが、このページが、脳血管障害の患者さんや、そのご家族の方、そして脳血管障害を予防しようとしておられる方々にとって、脳血管内治療(カテーテル治療)に対する理解を深めていただく手助けになれば、と願っています。

 

最終更新日 2014年03月12日

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