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[36] 脳卒中予防の秘けつ(改訂版)

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2003年1月1日 発行

病院長 峰松 一夫

予防と治療で克服しよう

イラスト:脳卒中予防の秘けつ

もくじ

※ 本ページは、知っておきたい循環器病あれこれ[2]「脳卒中が起こったら」に追加と改訂を加えたものです。

脳卒中は怖い病気の2番目!

平成14年10月の毎日新聞朝刊に、全国アンケート「2002年度健康と高齢社会世論調査」の結果が載っていました。回答者は全国各地から無作為に選んだ20歳以上の一般市民約3,000人だそうです。

「いま一番恐ろしいと思う病気はどれですか?」という質問への回答の第1位は「がん」の48%でした。国民死亡原因の第1位ですから当然かもしれません。これに次ぐ第2位は「脳卒中」の14%でした。第3位は「老人性痴呆症」11%で、以下「心臓病(心筋梗塞など)」7%、「エイズ」4%、「糖尿病」4%と続いていました。第3位の老人性痴呆症も約半数は脳卒中に起因するので、かなり多くの人が「脳卒中は恐ろしい病気」と感じていることになります。

また、日本脳卒中協会のアンケートによると、一般の人が脳卒中に対して抱くイメージは、「後遺症が残る(57%)、介護が大変(42%)、悲惨(30%)、治療法がない(7%)」と大変暗いものでした。しかし、このイメージは、必ずしも正しくありません。脳卒中は十分に予防可能ですし、最新の治療で後遺症をほとんど残さずに社会・家庭復帰している患者さんも増えているからです。

知られていない脳卒中予防法

最善の脳卒中対策が「予防」であることは言うまでもありません。残念ながら、脳卒中を引き起こしやすい病気について知っている人は一般市民の4割程度、脳卒中の具体的な症状を一つでも知っている人も3割と多くありません(脳卒中協会のアンケート結果)。このページでは、こうした問題を具体的に解説します。読まれた方は、ぜひ家族や友人の皆さんにも一読を勧めるか、基本的な知識を伝えてください。それが、恐ろしく、しかも暗い病気であると思われている「脳卒中」を克服する第一歩なのです。

増えている脳卒中

脳卒中で亡くなる人は、1950年~70年ごろは人口10万人あたり180人と多く、死亡原因の第1位でした。その後、脳卒中死亡率は急激に低下し、現在は人口10万人あたり110人前後で、「がん」、「心疾患」に次ぐ第3位となっています。では、本当に脳卒中は減ったのでしょうか?

現在、医療機関で治療を受けている脳卒中患者さんは、1965年ごろに比べ4~5倍にまで増えています。この病気は後遺症を残すことが多く、ひどい場合には「寝たきり」の原因となります。65歳以上で寝たきり状態の人は全国で約32万人ですが、うち38%が脳卒中後遺症によるもので、原因別では第1位です<図1>。

脳卒中は、「がん」や「心臓病」以上にお年寄りに多い病気です。現在わが国では、ものすごい勢いで高齢者の人口が増えています。このまま十分な予防対策がとられないと、現在約150万人とされる脳卒中の患者さんの数は、2025年前後には約300万人に倍増する危険性があります。しかし予防対策が徹底されれば、倍増を防げるどころか、今より減らすことも可能なのです。

図1 65歳以上の「寝たきり」の原因
図1:65歳以上の「寝たきり」の原因

脳卒中ってどんな病気

脳卒中(脳血管障害)は、「脳の血管が破れたり、詰まったりして起こる病気」です。血管が破れるタイプは頭蓋内出血と呼ばれ、脳内出血と、くも膜下出血があります。血管が詰まるタイプが脳梗塞であり、原因によってラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性脳塞栓症に分けられます<図2>。

図2 脳卒中の大まかな病型分類
図2:脳卒中の大まかな病型分類

1)脳内出血

高血圧などの影響で脳内の細い動脈<穿通動脈、図3>がもろくなって、脳の中に出血するものです。頭痛を伴うこともありますが、多くの場合は左右どちらかの半身にまひや感覚の異常が起こります。

2)くも膜下出血

中大脳動脈<図3>のような脳の表面を走る動脈に出来たコブ(動脈瘤)が破れて、脳と脳を包んでいるくも膜とのすき間に出血するものです。激しい突然の頭痛で発症し、意識も混濁します。脳の外に起こる出血なので、通常、手足のまひなどは生じません。

3)ラクナ梗塞

穿痛動脈<図3>が破れずに詰まると小さな脳梗塞を起こします。これがラクナ梗塞です。サイズが小さいので、症状も比較的軽いことが多いのです。ただし、発作を繰り返すと痴呆やパーキンソン症候群の原因になります。日本人に多いタイプです。

4)アテローム血栓性梗塞

首のところや脳の表面を走る大きな脳動脈<中大脳動脈など、図3>の動脈硬化(アテローム硬化と呼ばれます)が原因となるもので、ラクナ梗塞より重症です。

5)心原性脳塞栓症

心房細動(不整脈の一種)などによってできた心臓内の血栓(血のかたまり)が脳動脈に流れ込んで、これを閉塞してしまうものです。心原性とは、心臓の中でできた血のかたまりが原因となるという意味です。ほかのタイプの脳梗塞に比べて起こり方が突然で、重症例が多いのが特徴です。

図3 脳を輪切りにした図
図3:脳を輪切りにした図

脳卒中はなぜ起こる

脳卒中が、全く健康な人に起こることはまれで(皆無ではありません)、たいていは何らかの病気を持っている人に起こります。例えば、一時的に血圧が上がっても脳の動脈は簡単には破れません。しかし、高血圧が長く続くと脳の動脈は少しずつ傷んできて、最後には破れるか、詰まることになります。

1)脳内出血はなぜ起こる

高血圧の程度がひどいと、もろくなった動脈壁が破れて脳内出血が生じ、この出血が正常な脳組織を破壊・圧迫して、症状を起こします。

2)くも膜下出血はなぜ起こる

くも膜下出血の主な原因は脳動脈瘤の破裂です<図4>。脳動脈瘤がどうしてできるかはよくわかっていませんが、遺伝素因や高血圧の影響が考えられています。出血するとくも膜に強い刺激が加わり、ひどい頭痛の原因になります。大量に出血すると脳が広範囲に障害され、しばしば命にかかわります。

3)脳梗塞はなぜ起こる

高血圧による動脈壁の傷は自然に修復され、壁が少しずつ厚くなります。これが持続すると、動脈は狭くなり、最後には詰まってしまいます。その結果、血液の流れが止まり、その先の脳組織は壊死してしまいます。高血圧の悪影響は細い穿通動脈にまず現れ、ラクナ梗塞を生じます。これに対して、糖尿病や高コレステロール血症は、より大きな動脈に動脈硬化を起こしやすい傾向があります。こうしてアテローム血栓性梗塞を生じます。

心臓や大動脈に出来た血栓がはがれて、脳動脈に流れ込むことがあります。脳動脈はだんだん細くなるので、流れ込んだ血栓はどこかで引っかかり、脳動脈をふさいでしまいます。これを脳塞栓症と呼びます。心臓にできた血栓は結構大きいことが多く、ひどい脳塞栓症を引き起こしやすいので、心原性脳塞栓症として独立して扱われるようになりました。原因としては心房細動が半数以上を占めますが、弁膜症や急性心筋梗塞などの心臓病による場合もあります。

図4 脳動脈瘤の破裂
図4:脳動脈瘤の破裂

あなたも脳卒中予備軍?

これまでの説明から想像できると思いますが、脳卒中には予備軍ともいえる人たちがたくさんいます。この予備軍の中から、本物の脳卒中が発生してくるのです。次に挙げるものは、すべて脳卒中を引き起こしうる生活習慣や病気(生活習慣病)で、「危険(リスク)因子」と呼ばれています<図5>。

1)高血圧

脳卒中の最大の危険因子です。<図6、久山町研究より>は、血圧値と脳梗塞の発症率との関係をみたもので、男女とも血圧値が高くなるほど、発症率が急激に高くなっています。血圧値と脳出血発症率との関係はさらに極端です。

2)糖尿病

糖尿病の人は健康な人よりも脳梗塞の発症率が高いこともわかっています<図7、久山町研究より>。糖尿病は動脈硬化の原因の一つであり、また血液がドロッとして流れにくくなるからです。

3)高脂血症

コレステロール、特に悪玉といわれるLDLコレステロールの高い人、善玉といわれるHDLコレステロールの低い人は、全身の動脈硬化を起こしやすく、脳梗塞(特にアテローム血栓性梗塞)のリスクにもなります。

4)心疾患(不整脈など)

心疾患、特に不整脈の一種である心房細動を持っている人は、心臓内で血が固まりやすく、これが心原性脳塞栓症の原因となります。65歳以上の高齢者の5~10%が心房細動を持っています。心房細動は、たいした自覚症状がないので、放置されていることも少なくありません。

5)生活習慣、その他

病気ではありませんが、肥満、運動不足、喫煙、多量飲酒(1日1合以上)、過労・ストレスの蓄積といった生活習慣の問題は、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などを引き起こし、また脱水や不整脈なども誘発します。

このほか、遺伝的な体質、加齢なども脳卒中のリスクとされています。ただし、これらは、現時点では対応のしようがないリスクなので、ここでは触れるだけにとどめます。

図5 脳卒中発生までのプロセス
図5:脳卒中発生までのプロセス
図6 血圧レベル別にみた脳梗塞発症率
図6:血圧レベル別にみた脳梗塞発症率
(久山町研究)
図7 糖尿病と脳梗塞発症率
図7:糖尿病と脳梗塞発症率
(久山町研究)

脳卒中を防ぐには

まず危険因子をできるだけ減らすことが重要です。高血圧などの明らかな危険因子を持っている人は、医療機関を受診して、治療に努めてください。食生活をはじめとする生活習慣の改善も極めて大切です。

1)高血圧

最も効果的な脳卒中防御法は高血圧を治療することです。まず、塩分摂取を控え、適度な運動を続けましょう(この点は後で説明します)。薬物療法の進歩で、ほとんどの高血圧は確実に治療できるようになりました。ちなみに、収縮期血圧を10~20mmHg下げると脳卒中発症が50%も減ることがわかっています。

2)糖尿病

糖尿病は、まず食事・運動療法でコントロールします。より重症であれば、薬物治療が必要です。血糖コントロールの目安になるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値を1%低下させると、脳卒中(主に脳梗塞)の発症率は12%低下するとされています。

HbA1cは赤血球中のヘモグロビンに糖がくっついたもので、過去1~3か月間の血糖値をよく反映します。正常は5.8%以下で、6.5%以上になると、ほぼ糖尿病と言えます。コントロールの悪い糖尿病では10%を超すこともあります。

3)高脂血症

高脂血症の治療は心筋梗塞の予防に有用とされ、脳卒中への効果は不明でした。最近、心筋梗塞の予防、再発防止にコレステロール低下薬の一種であるスタチン系の薬を用いると、心筋梗塞のみならず脳卒中の発生も減少したという報告が相次ぎ、大変注目されています。

4)心房細動

65歳以上の方の心房細動には、何らかの血栓形成抑制薬の使用が勧められています。薬としては、アスピリンなどの抗血小板薬とワ-ファリンという抗凝固薬があります。脳卒中の既往のある人や、高血圧、心不全などを合併している人では脳卒中発生率が特に高いことから、抗凝固薬の服用が勧められています。その予防効果は「70%減少」と極めて強力ですが、出血性合併症を起こしやすいという難点もあります。具体的なことは専門医に相談しましょう。

5)食生活

食塩の過剰摂取は血圧上昇の要因になります。理想的な塩分摂取量は1日5~7gとされていますが、それより多くても1日10gを超えないようにしたいものです。<表>に、主な食品中の塩分量を示しましたので、参考にしてください。

肥満はカロリー取り過ぎの目安です。過剰な糖質(炭水化物)は中性脂肪となって体内に貯えられ、肥満の原因となります。高血圧、糖尿病、高脂血症の治療のためにも、肥満解消は必要です。目指すべき理想体重(kg)は、身長(m)×身長(m)×22(70歳以上は21)とされています(例えば、身長1m70cmの人なら、1.7×1.7×22=63.6kg)。

コレステロールに気をつける食事も大切です。脂肪量全体の取り過ぎに注意が必要で、特に肉やバターなどの動物性脂肪の摂取を減らしましょう。代わりに、魚類(イワシ、サンマなど、動脈硬化抑制効果があるといわれるエイコサペンタイン酸を多く含む)、植物性のサラダ油、種子類(ゴマなど)がお勧めです。葉野菜、きのこ類、海草類、豆類、いも類などに多く含まれる食物繊維は、悪玉のLDLコレステロールを減らし、善玉のHDLコレステロールを増加させます。野菜・いも類は、降圧作用、脂質代謝改善作用のあるカリウムを多く含みます。

減塩を心掛け、多くの食品をバランスよく摂取する(偏食を避ける)ことが、脳卒中はもちろん、他の循環器疾患、がんなどの予防にもつながります。

表 知っておきたい食品中の塩分量
表:知っておきたい食品中の塩分量

6)その他の生活習慣

運動不足は、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などの原因、あるいは悪化要因となります。ウオーキング、ジョギング、自転車、水泳などの有酸素運動を継続して行うように心掛けましょう。

喫煙、飲み過ぎ、過労・ストレス、睡眠不足も避けるべきでしょう。高齢者は脱水になりやすく、これは血液の流れを悪くする要因になります。夏の多汗、嘔吐・下痢、発熱時には水分摂取を心掛けましょう。急激な温度変化、特に暖かい環境から低温の環境への変化は、心臓の負担になるか、血圧の急上昇を引き起こし、脳卒中(特に頭蓋内出血)発症の引き金になることがあります。着衣などに十分な配慮が必要です。

7)脳ドッグ

最近では、無症候性病変<図5>、つまり発作に至らない小さな梗塞や出血、まだ破れていない脳動脈瘤、症状の出ていない脳血管病変などを調べる「脳ドッグ」というシステムがあります。医療保険はききませんが、危険因子をいくつか持っていて不安な人は、自費で検査を受けることが可能です。

ただし、病変が見つかったからといって、必ずしも慌てて手術などを受ける必要はありません。見つかった病変に応じて、これまで説明した予防法をさらに徹底してください。逆に、病変がないので大安心というわけでもありません。具体的なことは、専門医と十分に相談してください。

前触れ発作を見逃すな

くも膜下出血を除く脳卒中の症状の多くは、半身の脱力や感覚異常など、身体の半分の障害として出現するという原則があります。二つある大脳半球はそれぞれ反対側の身体をコントロールしていることが理由です。実際の脳機能は非常に複雑なので、障害部位によって出現する症状も多彩です。<図8>に代表的なものを示します。

問題なのは、症状がわずかであったり、ほんの一時的(15分前後のことが多い)だったりして、その後はもとに戻ってしまう場合です。24時間以内に完全回復するものを「一過性脳虚血発作」と呼びます。病変が小さかったり、血管閉塞が短時間であることが原因とされています。原因となる血管の病変がそのまま残っていることがほとんどなので、本物のもっとひどい発作、治りにくい障害を再発する危険性がかなり高いと考えてください。いわば、前触れ発作なのです<図5>。急いで専門医を受診し、対策を立ててもらう必要があります。脳卒中予防の最終チャンスなのです。

図8 脳卒中の症状のいろいろ
図8:脳卒中の症状のいろいろ

脳卒中予防の秘けつ・・・“3R”

最後に「脳卒中予防の秘けつ」を三つの“R”としてまとめてみます。

1)Recognize(危険因子を発見する)

定期的に健康診断を受け、自分の持っている危険因子を早期発見しましょう。「あなたも脳卒中予備軍?」の項目を再度確かめてください。

2)Reduce(危険因子を減らす、治療する)

危険因子をできるだけ減らし、なくすように努めて下さい。「脳卒中を防ぐには」の項目を点検しましょう。敵は生活習慣のゆがみです。

3)Respond(発作に反応する、早期に受診する)

もし脳卒中を疑わせる症状が出たら、軽くても、あるいは一時的なもので完全に回復したとしても、急いで専門医に診てもらいましょう。「前触れ発作を見逃すな」の項目を忘れないでください。

以上のことを実行すれば、脳卒中の危険性はかなり遠のきます。たとえ脳卒中で倒れても、後遺症をかなり軽くすることにつながります。脳卒中は決して「恐ろしい病気」ではないのです<図9>。

なお、2005年10月より、脳梗塞の特効薬、血栓溶解薬t-PAがわが国でも使用可能になりました。発症3時間以内に静脈注射すれば、改善が大いに期待できます。ただし、診断に必要な時間もあるため、発症2時間目までの専門医療機関受診が必要です。早期受診はますます重要になりました。

この療法については、「知っておきたい循環器病あれこれ[63]」(脳梗塞の新しい治療法 t-PA静注療法)をお読み下さい。

図9 脳卒中予防の秘けつ
図9:脳卒中予防の秘けつ

 

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