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[15] 脳卒中と言葉の障害

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

1999年11月1日 発行

国立循環器病研究センター
循環器病リハビリテーション部
言語聴覚士 大畠 明子

増えている! 脳卒中による言語障害

イラスト:よく理解して、患者さんへの気配りを大切に

もくじ

はじめに

脳卒中発作のあと「話すことができない」「ろれつが回らない」など、言語障害が起こることがあるのは、よく知られています。

しかし、ひとくちに言語障害といっても一様ではありません。患者さんの家族や周りの人が、患者さんの障害がどんなタイプで、障害の程度はどれほどかをよく知って接することが大切です。言語障害は同じものだと誤解している人が多く、患者さんが苦しい思いをしている場合が少なくないのです。

脳卒中による言語障害の代表的なものに「失語症」と「運動障害性構音障害」があります。このページでは、主に失語症についてタイプや症状などを解説しながら、言語障害のリハビリテーションはどう行われるか、家族や周りの人が患者さんとどう接するのが望ましいかなどを紹介したいと思います。

誤解されやすい病気-失語症

「失語症」という言葉を聞くと、「話すこと」ができない状態と思われがちです。話せないのなら、患者さんは筆談をすればよい、「あいうえお、かきくけこ・・・・・」の五十音表の文字を指差しながらコミュニケーションを図ればよい、と受け取られることがしばしばです。

失語症の患者さんを見て、「ぼけた」「赤ちゃんのようになってしまった」と思う人も少なくないようです。

そう思った人の中には、言葉の訓練として「あいうえお、かきくけこ」と唱えさせたり、話せない言葉を何度もまねさせたり、幼児向きの絵本を読ませたりすることがよくあります。

しかし、これらは「失語症」についての「誤解」であり、好ましい接し方ではありません。

失語症とは

大脳(たいていの人は左脳)には、言葉を受け持っている「言語領域」という部分があります。失語症は、脳梗塞や脳出血など脳卒中や、けがなどによって、この「言語領域」が傷ついたため、言葉がうまく使えなくなる状態をいいます。

つまり、失語症になると、「話す」ことだけでなく、「聞く」「読む」「書く」ことも難しくなるのです。<図1>。しかし、脳(左脳)の傷ついた場所の違いによって、「聞く」「話す」「読む」「書く」の障害の重なり方や程度は異なり、失語症は次のようなタイプに分類されています。

図1 失語症になると
図1:失語症になると
聞いて理解する能力、話す能力、読んで理解する能力、書く能力が障害を受ける

失語症にいろいろなタイプ

まず、脳(左脳)の比較的前の方の部分に障害が起きた場合ですが、このタイプでは、聞いて理解することは比較的よくできるのに、話すことがうまくできず、ぎこちない話し方になります。これには「ブローカ失語」などがあります。<図2>

反対に、脳の比較的後ろの部分に障害が起きると、なめらかに話せるものの、言い間違いが多く、聞いて理解することも困難なタイプの失語症になります。「ウェルニッケ失語」などがこのタイプです。

さらに、聞いて理解することはできるのに物の名前が出てこないため、回りくどい話し方になるタイプ(「健忘失語」など)や、「聞く・話す・読む・書く」のすべての言語機能に重度の障害が起きた「全失語」などがあります<図3>。

図2 ブローカ失語(運動性失語)の例
図2:ブローカ失語(運動性失語)の例
図3 ウェルニッケ失語(感覚性失語)の例
図3の1:ウェルニッケ失語(感覚性失語)の例
健忘失語の例
図3の2:健忘失語の例
全失語の例
図3の3:全失語の例

症状で分類すると

失語症を「聞く・話す・読む・書く」の面からみたのに続いて、具体的な症状について説明しましょう。症状には、どの失語症にも共通してみられるものと、タイプによって特徴的なものがあります。

喚語困難(かんごこんなん)

何か言おうとした時に、言うべき言葉が出てこない状態です。これは、どのタイプの失語症にもみられます<図4>。

図4 喚語困難の例
図4:喚語困難の例

患者「あれ、どこ?」
家族「何か探してるの? 眼鏡かい?」
患者「そうじゃなくて、今日来てたの」
家族「今日来てたって、新聞かい?」
患者「そうじゃなくて・・・」
家族「手紙かい?」
患者「そうじゃなくて、でも・・・」
家族「あ、小包かい」
患者「そうそう」

理解力障害

言葉は聞こえているのに、その意味がわからない状態です。どのタイプの失語症にもみられますが、「ウェルニッケ失語」の場合は特にひどくなります。

錯語(さくご)

言葉を言い間違えることです。例えば「とけい」を「めがね」と言うように、他の単語に言い間違えてしまう「語性錯語」と、「とけい」を「とてん」「とけん」などと発音を間違える「字性錯語」があります<図5>。

言葉の言い間違いがひどい場合は、まったく意味不明の言葉(ジャルゴン)が続くようになり、これは重症の「ウェルニッケ失語」によくみられます。

図5 錯語の例
図5:錯誤の例

残語(ざんご)

「全失語」など重症の失語症の患者さんで、「そうだ」「だめ」など、限られたいくつかの言葉が繰り返し出てくる場合、それらを残語といいます。それは、会話の流れに合った言葉であるとは限りません<図6>。

図6 残語の例
図6:残語の例

失語症のタイプ


言葉を聞いて
理解する能力
話す能力 読み書きの能力 その他
ブローカ失語(運動性失語)
話す能力に比べて障害が軽い

聞いて理解する能力に比べて障害が重い。自分の思うことが話せず、話せてもたどたどしいしゃべり方になる

仮名に比べ、漢字のほうが能力が保たれる

ほとんどの人が右片まひを伴う
ウェルニッケ失語(感覚製失語)
話す能力に比べて障害が重い

なめらかにしゃべり多弁だが、言い誤り(錯語(さくご))が多いため、聞き手には非常に理解しにくい話し方になる

一部を除き、仮名に比べ、漢字の能力のほうが保たれる例が多い

右片まひを伴うことはほとんどない
全失語
相手のいうことはほとんど理解できないが、日常の挨拶や、本人の状態などに関する質問は理解できることもある

残語(ざんご)程度しか話せなくなる

強く障害される

ほとんどの人が右片まひを伴う
健忘失語
障害が軽く、相手の言うことはよく理解できる

なめらかにしゃべるが、喚語(かんご)困難があるため、ものの名前がすぐに出てこない。迂言(うげん)(回りくどい言い方)が多い

読解や音読は保たれる。書字能力には個人差がある

伝導失語
比較的保たれている

字性錯語(言葉の一部の言い誤り)が多く、誤りに気づいて言い直そうとするため、発話の流れが妨げられる

漢字より仮名のほうが障害されることが多い

復唱が言語理解に比べ際立って障害される

◎「失語症リハビリテーションマニュアル」(大阪府発行)から

保続(ほぞく)

同じ言葉が何度も繰り返されることをいいます。名前を聞かれ、名前が言えたあと、続いて年齢を聞かれても名前を言い、次に住所を聞かれても名前を繰り返すような状態です<図7>。

このほかに、「てにをは」などの文法がうまく使えない(失文法)、字が読めない(失読)、文字が書きにくい(失書)、計算ができない(失算)など、さまざまな症状があります。

図7 保続の例
図7:保続の例

運動障害性構音障害とは

言葉を話すのに必要な唇、舌、声帯など発声・発語器官のまひや、運動の調節障害(失調)によって発声や発音がうまくできなくなる状態をいいます。

ですから、運動障害性構音障害は「話す」ことだけの障害で、その点が失語症とは異なります。つまり、「話す」のが困難でも、代わりに「書く」ことでコミュニケーションを図ることができます。

しかし、利き手にまひや運動の調節障害が起きていて「書く」ことがうまくできなかったり、「声が出にくい」「話がしにくい」ことによるストレスが強かったりする場合も多いので、運動障害性構音障害も後で説明するリハビリが必要です<図8>。

図8 運動障害性構音障害
図8:運動障害性構音障害

言葉の障害が起きたら

言葉の障害について指導や助言する専門のスタッフが言語聴覚士(ST)です<図9>。

言葉の障害の程度や症状は患者さんによってかなり違います。さらに患者さんの年齢や職業など社会的な背景、もともとの言葉の能力(言語習慣)や、どの程度まで回復すれば社会復帰に支障がないかなども一人ひとり異なります。

STは、言葉の障害を持つ患者さんや、家族の方の希望に応じて、面談や検査、訓練をするほか、それぞれの患者さんの障害についての知識や適切な接し方を説明します。さらに、患者さんに引き続き生じるさまざまな問題をできるだけ少なくするよう指導や助言をしています。

言語聴覚士のスタッフがいる病院では、主治医の連絡で言語指導が始まりますが、言語聴覚士がいない病院に入院された場合は、主治医にどこで指導を受けることができるか相談してください。

図9 言語聴覚士は患者と家族の良き相談相手
図9:言語聴覚師は患者と家族の良き相談相手

※言語聴覚士(ST)は、平成9年末に生まれた「言語聴覚士法」にもとづく国家資格で、言語、聴覚、音声に障害をもつ人を助ける専門職

リハビリテーション

リハビリテーションは、単に機能回復訓練だけをさすものではありません。障害をもちながらも再び、その人らしく生きていくことをいうのです。

言葉のリハビリにも、障害そのものの改善と、残された言語機能の活用という2つの目的があります。

失語症の場合、症状の改善を目的とした練習は、患者さんに適切な刺激(言葉を聞く、文字を見るなど)を与え、何らかの反応(うなずく、首を横に振る、文字を指さすなど)を引き出すような形で進めます。

残された言語機能の活用は、「刺激を与える」「反応を引き出す」という練習を繰り返しながら、より効率のよいコミュニケーションの方法を患者さんが身につけるように指導します。

しかし、刺激と反応の繰り返しだけでは、患者さんの方から何かを伝えるのは難しくなります。そこで、ジェスチャーや絵を描くことなどを積極的に取り入れ、患者さんの側からのコミュニケーションが開始できるように工夫します。

運動障害性構音障害の場合は、ゆっくり区切って話すなど、より明瞭な発音ができるように具体的なアドバイスをします。とくに重症の患者さんには、五十音表や発声発語を補助する機器を使うよう勧めることもあります。

重要なコミュニケーションへの努力

失語症でも運動障害性構音障害でも、患者さんがまずコミュニケーションに対して意欲をもち続けることがとても大切で、家族や周囲の人もこのことに十分に注意を払いたいものです。

脳卒中による言語障害は、多くの場合、完全に元通りにはなりません。また、言葉の訓練をすればするほど、回復がよくなるというものでもありません。このことは、患者さんにも家族にも、とてもつらい問題です。

しかし、言葉の障害が起こってから、一定の期間(約1年)がたったとき、どのようにコミュニケーションが図れるかが大切で、言葉の障害があっても、残された能力を最大限に生かし、積極的に日々を過ごすことが重要なのです。

患者さんとの接し方-6つのポイント

最後に失語症の患者さんに接するときに、家族や周囲の人が心掛けておきたい6つのポイントをまとめてみます。

  1. 話しかけるときは、ゆっくりとわかりやすい言葉遣いで話しかけましょう。
  2. 話しかけるときには、やさしい漢字や絵、図などを書いたり、ジェスチャーや実物などを示したりすると、理解されやすいでしょう。
  3. 言葉が出にくいときは、「はい」「いいえ」で答えられるよう質問を工夫しましょう。
    患者さんの言いたいことを推測して、考えられる答えを書いて示すことも有効です。
  4. 言葉が出ないときは、せかさないで少し待ってあげます。
    ただし、待ち過ぎると、かえって患者さんのストレスになります。適当なところで、「~のことですか?」などと助け船をだしてあげましょう。
  5. 患者さんの言い間違いを、とがめたり、笑ったり、何度も言い直しをさせたりすることは避けてください。
  6. 失語症の患者さんは、五十音表で、うまく言葉がつづれないことが多いので、使わないでおきましょう。

こうした心配りが周りの人にあれば、言葉の障害を持つ患者さんはどれだけ助かることでしょう。それは患者さんのリハビリ意欲を高め、もとの生活に戻る励ましとなるものです<図10>。

図10 患者さんへの気配りを大切に
図10:患者さんへの気配りを大切に

深めたい言語障害者への理解

高齢社会が進み、日本の脳卒中患者は170万人を超え、助かったものの失語症に悩む高齢者が増えています。しかし、失語症には偏見と誤解が多く、家庭や社会で患者さんの言葉のリハビリが必ずしもうまくいっているとはいえません。

このページが、患者さんや家族、周囲の方だけでなく、広く社会に、脳卒中による言語障害についての理解が深まるきっかけになるのを願っています。

 

最終更新日 2014年03月12日

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