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[132] 未破裂脳動脈瘤が見つかったら...最近の進歩

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。


国立循環器病研究センター
脳神経外科医長 佐藤 徹

未破裂動脈瘤はお医者さんとよく話し合って

もくじ

  1. 未破裂脳動脈瘤とは
  2. 未破裂脳動脈瘤が破れる確率はどれくらい?
  3. 未破裂脳動脈瘤の治療は?
  4. 大型の動脈瘤の場合はどうする?
  5. 未破裂脳動脈瘤と診断されたら
  6. 終わりに

未破裂脳動脈瘤とは

脳の動脈のある部分がコブ状に膨らんだものを脳動脈瘤(りゅう)といいます。「瘤」はコブのことです。

このコブは、ふつう脳の中の血管の枝分かれの部分(分岐部)が、血流に押される形で膨らんでできます。コブは枝分かれしていない部分にできることもあります〈図1〉。

図1 動脈瘤の構造

未破裂脳動脈瘤とは、この脳動脈にできた「コブ」が破れていない状態のものをいいます。動脈瘤が破裂すると、脳と血管を包んでいる「くも膜」の内側に出血します。これがくも膜下出血です。たいていは強烈 な頭痛と吐き気が初発時症状です。

いったん、くも膜下出血が起こると約半数の方に生命の危険が及びます。手術、治療などがうまくいったとしても、社会復帰できる方は3人に1人程度。命が助かったとしても、重い後遺症が残ることがあり、医療が進歩した現在でも、大変危険な病気です。

医療が進歩してきているのに、なぜくも膜下出血の治療成績はよくないのでしょうか? それは、患者さんの回復の程度に最も関わるのが、発症した時のくも膜下出血の程度にあるからです。

具体的にいうと、くも膜下出血を起こしたとき、出血の程度がひどく、患者さんの意識の状態が悪いと、その後の治療がうまくいったとしても、元通り元気に回復する可能性は低くなります。一方で、くも膜下出血を起こした時の意識状態がよく、適切な治療が受けられれば、社会復帰の可能性は非常に高くなります。

このようにくも膜下出血は発症した時点で、ある程度その患者さんの将来(予後といいます)が方向づけられてしまう病気で、治療の質が上がっても、社会復帰まで回復できる患者さんの割合には限界があります。ですから、脳神経外科の分野では、「頭痛」や「めまい」をきっかけに、MRIやCTなどの検査を受けた患者さんから発見された未破裂脳動脈瘤に対して、「くも膜下出血を予防する」ために、どうするのがよいかを、まず考えます。

未破裂脳動脈瘤が破れる確率はどれくらい?

これまでの研究で、未破裂脳動脈瘤は全人口の3~5%の人に存在する、といわれています。つまり、20〜30人に1人の脳動脈にコブができているのです。

しかし、あなたの周りの人で「くも膜下出血」になったという方は、「がん」や「心筋梗塞」になった方に比べて、おそらく少ないのではないでしょうか? 実際にくも膜下出血、言いかえれば脳動脈瘤の破裂率は低 いのです。

日本脳神経外科学会が2001年から実施した、わが国の未破裂脳動脈瘤の全例調査(UCAS Japan)では、脳動脈瘤の破裂率は、1年間につき0.95%という結果となりました。

この調査で、それぞれの動脈瘤の破裂率は(1)場所(2)大きさ(3)形で異なり、
(1)場所でいうと、前交通動脈と内頸動脈・後交通動脈分岐部の2か所が、他の場所に比べて破裂しやすい
(2)大きさは7mmを超えると動脈瘤の破裂率が上がる
(3)ブレブというコブの上のたんこぶのような小さな膨らみがあると、破裂は1.6倍上昇する...ことがわかりました。

参考図 脳動脈瘤ができやすい部位

動脈瘤の場所と大きさからみた破裂率は、〈表〉で確かめてください。例えば、内頸動脈・後交通動脈分岐部の6mmの動脈瘤であれば、推定年間破裂率は1%ということがわかります。

表 コブのできた部位とサイズに応じた推定年間破裂率(%)(UCAS Japanのデータから)

一方、別の国内研究(SUAve study)では、5mm未満の脳動脈瘤を治療せずに平均3.4年間、経過を観察したところ、これらの小さなコブの破裂率は年間0.54%だった、という結果が出ています。

これらの結果から、日本脳ドック学会のガイドライン(2014年)、日本脳卒中ガイドライン(2015年)では、

A 5~7mm以上のサイズの動脈瘤
B サイズが上記より小さくても
(B-1) 物が二重に見える、などの症状の原因となっている瘤(症候性といいます)
(B-2) 前交通動脈と内頸動脈・後交通動脈分岐部の瘤
(B-3) 形がいびつである、もしくはブレブのある瘤
については「治療を含めた慎重な検討が必要」...
となっています。

繰り返しますが、未破裂脳動脈瘤の破裂率は一般的に低いのです。ですから未破裂脳動脈瘤が見つかったとしても、必ずすぐに手術をしなければならない、ということではありません。

ただし、今まで述べてきたデータだけでは、一つ一つの動脈瘤が破裂するかしないか、ということを完璧に予測することはできません。

また、年間破裂率については、例えば、20年間で約20倍になるという計算をしなければならないわけですから、その間の「いつ脳動脈瘤が破れるかもしれない」という精神的不安を考えた場合、治療を行うこと も選択肢の一つとなってくるでしょう。

未破裂脳動脈瘤が発見された場合、脳神経外科専門医との十分な相談が必要です。これは大事なことですので、後でもう一度説明します。

未破裂脳動脈瘤の治療は?

未破裂脳動脈瘤は自然に小さくなったり、消えたりすることはほとんどありません。また残念ながら現時点では、薬物療法で動脈瘤が小さくなったり、その破裂率が下がったりする効果は証明されていません。

つまり、脳動脈瘤が破れる確率を下げるか、なくすためには外科的な治療が必要です。現在、大きく分けて
(1)脳動脈瘤クリッピング術
(2)脳動脈瘤コイル塞栓術
の2種類の治療が行われています。それぞれについて説明します。

(1) 脳動脈瘤クリッピング術〈図2、図3〉

脳動脈瘤の入り口(首のように細くなっていることが多く、ネックと呼びます)の部分を金属製のクリップではさみ、瘤の中に血液が入り込まないようにする方法です。1970年代から日本でも普及しはじめ、標準的な治療とされてきました。

図2 脳動脈瘤ネッククリッピング術


図3 脳動脈瘤ネッククリッピング術前後の造影CT写真

最大の利点は、クリップをしっかりとネックの部分にかけることができれば、動脈瘤の再発・破裂の確率はきわめて低くなることです。専門的には「根治性が高い」といいます。

ただし、頭部の皮膚を切り、頭蓋骨を一時的に外して、脳と脳のすき間をたどって動脈瘤を治療する方法なので、頭部、脳などへのストレス(専門用語では侵襲[しんしゅう])がやや大きいこと、また、脳の奥深くに位置した動脈瘤には治療自体が難しい場合もあること、が弱点です。

(2) 脳動脈瘤コイル塞栓術

 1990年代に入り、脳動脈瘤クリッピング術よりも、よりストレス(侵襲)が少ない方法として、血管を通じ、カテーテルという細いチューブを動脈瘤に導いて治療する方法が行われるようになりました。

具体的な方法は、足の付け根の動脈もしくは腕の動脈から「ガイディングカテーテル」と呼ばれるチューブを入れ、頭部に向かう血管へ導いて"留め置き"(留置)、その中から「マイクロカテーテル」というさら に細いチューブを取り出し、動脈瘤の中に誘導します。

次に、マイクロカテーテルの中から髪の毛と同じくらい細くて柔らかいプラチナ(白金)コイルを動脈瘤の中に誘導し、留置します〈図4〉。

図4 脳動脈瘤コイル塞栓術

留置されたコイルと瘤内の血液が反応して血液が固まる「血栓化」が起き、これによって、動脈瘤の中に血液が流れ込まなくなります。いわば動脈瘤の中を鉄筋コンクリートで固めるようなものです。

動脈瘤の入り口(ネック)は、プラチナコイルがはみ出しやすいので、入り口部分を「バルーンカテーテル」という風船のように膨らむチューブで、一時的にふさぐ方法「バルーンアシストテクニック」〈図5の左側〉が2000年ごろから使えるようになり、治療の安全性が高まりました。

また、2010年からは動脈瘤の入り口部分の母血管に、ステントという網目状の筒を置いて、ちょうどフェンスを置くような形にして、コイルがはみ出すのを防ぐ「ステントアシストテクニック」〈図5の右側〉が可能になり、さらに多くの動脈瘤が治療可能となりました。

図5 脳動脈瘤コイル塞栓術のいろいろなテクニック

このような道具、技術の進歩もあり、コイルで塞ぐ「コイル塞栓術(そくせんじゅつ)」は近年、急速に普及してきています。日本脳神経外科学会の調査では、2015年に行われた脳動脈瘤治療の約45%がコイル塞栓術でした。

最大の利点は、頭を開けなくてすむことであり、脳に触らないため、術後のけいれんなどもまず起こりません。また、クリッピング術では難しい脳の奥深くの動脈瘤も治療できることも、特徴の一つです。

一方、コイル塞栓術の弱点は、不完全な治療、つまり不十分なコイルの留置に終わった場合、瘤の中に再び血液が流れ込み、進行した場合は動脈瘤が破裂する確率が再び高まり、再度、治療が必要となることです。再治療となるのはコイル塞栓術を受けた患者さんの5~10%程度とされています。

コイル塞栓術を受けると、その後、数か月から3年程度、抗血小板薬という血栓ができにくくなる薬を飲み続ける必要があります。この間は、出血すると血が止まりにくいため、血圧をしっかりとコントロールして いくことが肝心です。

以上、二つの主な治療法についてざっと説明しました。ただし、すべての動脈瘤がこの二つの治療法で治せるわけではありません。次に特殊な動脈瘤に対する治療法について話を進めます。

大型の動脈瘤の場合はどうする?

動脈瘤が大きくなってくるとクリッピング術が困難になってきます。頭蓋骨の中は広さが限られているため、手術に必要なスペースが得られなくなるからです。また、コイル塞栓術も大型の動脈瘤では再発率が高 い、とされており、治療法としての有効性は低いと言わざるを得ません。

このため、大型動脈瘤の場合、動脈瘤の前後をクリップではさみ、母血管の血流をストップさせる治療を行うことがあります。これで動脈瘤には血液が流れなくなります。止めた母血管の血流については、手術で頭の皮膚や腕の血管を用いたバイパス血管を作り、このバイパスを通じて脳に送ります〈図6〉。

図6 大きな動脈瘤に対するバイパス併用母血管閉塞術

この手術(母血管閉塞+バイパス術)は、動脈瘤への血流をなくすことが可能ですが、技術と経験が必要で、さらに患者さんの体への負担も少なくない治療のため、経験豊富な病院で受けられることをお勧めします。

一方、2015年以降、動脈瘤をまたぐ形で、母血管にステント(網目状の金属の筒)の目をさらに細かくした「フローダイバーター」という道具を留置する大型動脈瘤治療法が、日本でも可能になりました〈図7〉。

図7 大きな動脈瘤に対するフローダイバーター治療

極めて細かい網目(メッシュ)のステントによって動脈瘤への血流がストップ、動脈瘤の中にコイルを入れなくても瘤は血栓で固まり、患者さんに影響を与えないで破裂、増大しなくなります。これまでの治療成 績では、7割以上の動脈瘤が閉塞(詰まること)する、とされており、体へのストレスが少ない治療として注目されています。

また、国立循環器病研究センターでも治療困難な動脈瘤に対して「多孔化カバードステント」という医療機器を開発し、その安全性と有効性を試す医師主導治験(実際に治療機器として承認される前に少数の患者さんで実際に使用する試験)を行いました〈図8〉。この冊子を目にされるころには、治験は終了しているはずです。まだすぐに使用できる状況ではありませんが、今後皆様の治療に役立てるよう準備を進めています。

図8 国循で開発した多孔化カバードステントNCVC-CS1:現在実用化に向け準備中

これまで脳動脈瘤とその破裂率、治療法について説明してきました。本論に進む前に、知っておいてほしい肝心な点を整理しておきます。

  1. 脳動脈瘤は脳の動脈にできるコブで、3~5%の人に存在する
  2. 破裂すると、くも膜下出血になり、くも膜下出血になると命に関わったり大きな後遺症を残したりする確率が約3分の2と高い
  3. ただし、動脈瘤の推定年間破裂率は0.95%と高くない
  4. コブのできた場所と大きさで破裂率は変わってくる
  5. 主な治療法として頭を開けて(開頭して)行う脳動脈瘤クリッピング術と、開頭せずに行うカテーテル治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)の二つがある

未破裂脳動脈瘤と診断されたら

本題に入ります。未破裂脳動脈瘤があなたの頭の中に発見されたら、おそらくびっくりされることでしょう。何とか早く、くも膜下出血の恐怖から逃げ去りたい、と思われるはずです。

たとえ破裂率が低いといわれても、これからの人生、未破裂脳動脈瘤を抱えながら生きていくという不安は、本人でなければ分からないものです。

だから、未破裂脳動脈瘤の治療は破裂を予防するため、言い換えれば患者さんの不安を拭い去るために行う「転ばぬ先の杖」なのです。杖が頑丈でなければならないのと同様、当然ながら治療も安全であることが求められます。

しかし、治療は決して100%安全なものではなく、一時的あるいは永久的に手足の不自由、言語障害(言葉が話せない、理解できない)などの神経学的症状を生じる確率が、一般的に3~5%程度はある、とされています。

そのため、患者さんもわれわれ医療者も、動脈瘤の破裂する確率と治療の成功率を天びんにかけて、治療を行うのか、それとも治療をしないで様子を見ていく(経過観察)か、を考えていく必要があります。

これも繰り返しになりますが、基本的には5mm未満の動脈瘤については積極的に治療を勧める根拠はありません。

その代わり、最初にも出てきたガイドラインに記載されている通り、
A 5~7mm以上のサイズの動脈瘤
B サイズが上記より小さくても
(B-1) 物が二重に見える、などの症状の原因となっている瘤(症候性といいます)
(B-2) 前交通動脈と内頸動脈・後交通動脈分岐部の瘤
(B-3) 形がいびつである、もしくはブレブ(コブの上のたんこぶ)のある瘤については「治療を含めた慎重な検討が必要」です

慎重な検討とは、患者さんやその家族だけで行うものではなく、担当する医師(主に脳神経外科医)と一緒に行っていくものです。

幸いにして多くの動脈瘤はすぐには破裂しないわけですから、担当医にいろいろと質問をしながら理解を深める時間も、家族と話し合う時間も、自分の気持ちを整理する時間も十分にあります。治療するかしないかで、心が揺れることは恥ずかしいことではありません。ですから担当医と十分に話し合われることをお勧めします。

先ほどお示しした破裂率のデータは、現時点では揺るぎのない事実ですが、一人の医者の説明だけではうまく理解できなかったり、治療方針についての自分自身の希望を相談しにくかったりすることもあるでしょう。その場合は他の病院の医師に相談することも有用な手段です。

予防的な治療では医者の技術や経験も重要ですが、それ以上に患者さん自身の病気に対する理解が欠かせません。その理解を深めるため、さらに、治療前もしくは経過観察中の不安をできるだけ軽くするためにも、担当医との信頼関係を築くことが極めて重要です。

治療をせず経過観察することになった場合、動脈瘤が大きくなる、もしくは破裂する危険因子として考えられている高血圧、喫煙、多量の飲酒から遠ざかることが大事です。

特に血圧のコントロールが重要ですので、家庭で血圧を測定することを習慣にし、収縮期血圧が130前後以下にするようにしてください。また、タバコを吸っている人は禁煙してください。

それから、半年~1年に1度、MRIもしくはCT血管撮影で動脈瘤の形態(大きさや形)をチェックすることが勧められています。車の定期点検と同じように欠かさず検査を受けることです。

一方、治療を受けることになった場合、治療件数が多い施設での治療を希望されることが多いと思います。それ自体は間違いではありません。

ただし、治療にも頭を開けて(開頭して)行う脳動脈瘤クリッピング術とカテーテル治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)の2種類があります。日本ではその両方を脳神経外科医が行うことが多いのですが、やはり、個 人個人でどちらの治療の経験が多いか、どちらの治療により慣れ親しんでいるかに差があるため、一方の治療に偏った説明をされる場合もありえます。

ですから、両方の治療を行っていて、それぞれの治療件数が多い施設を受診し、それぞれの治療について丁寧に説明してもらうのが最も安全確実と思われます。

終わりに

未破裂脳動脈瘤が見つかったとき、どう対処するかについて解説してきました。今世紀に入り、日本人のこの病気の自然歴(動脈瘤の推定年間破裂率)のデータが報告されるようになり、治療すべき動脈瘤がどのようなものかが分かりはじめてきました。

一方、治療法は、特にカテーテルを使う血管内治療の進歩が目覚ましく、今後新たな、より安全確実な治療が出てくる可能性も十分にあります。

これらの最新の情報についてはインターネットやマスコミの報道でも知ることができますが、実際に治療を行う、もしくは経過を見てくれる、信頼できる医師、医療機関を受診されることを強くお勧めします。

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