ホーム > 循環器病あれこれ > [129] 脳卒中のリハビリテーション - いつから始めるのか? -

[129] 脳卒中のリハビリテーション - いつから始めるのか? -

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。


国立循環器病研究センター
脳血管リハビリテーション科
医長 横田千晶

急性期リハビリに大切なことは...

もくじ

  1. 脳卒中とは
  2. 脳卒中の症状と治療
  3. 脳卒中後の脳の変化とリハビリ
  4. 脳卒中急性期のリハビリの実際
    1. ベッドサイドリハビリテーション:離床に向けて
    2. リハビリテーション室で
    3. 急性期脳卒中リハビリでの留意点
    4. 日々心掛けたいACT·FAST


脳卒中のリハビリテーションは、いつの段階から、どのように行うのが望ましいか、最新のデータをもとに考えるのが今回のテーマです。

リハビリテーションの語源は、re(再び)+ habilis(適した)で「再び適した状態になること」、「本来あるべき状態へ回復すること」を意味します。脳卒中による手足の麻痺(まひ)を回復させ、残った機能を最大限に活用することによって「人間らしく生きる権利の回復」を目指す一連の活動が「脳卒中のリハビリテーション」なのです。

リハビリテーションという用語は長いので、よく「リハビリ」と略されています。この冊子でも状況に応じリハビリを使います。

これまで、脳卒中のリハビリは脳卒中を発症して間もない時期(急性期)ではなく、むしろ、病状が落ち着いた慢性期(回復期)から本格的に始めるのが一般的でした。しかし、最近、脳科学の進歩に伴い、脳卒中発症早期に開始することが、その後の良好な機能回復につながる可能性が指摘されるようになってきました。

今回は、まず脳卒中後の脳に起こる変化を簡単に解説し、標準的なリハビリの方法、さらに急性期からの脳卒中のリハビリにどれだけ期待できるかなどについて紹介します。

脳卒中とは

「脳卒中」は、今まで元気だった人が、「突然、悪い風にあたって倒れる」という意味です。脳卒中には、脳に行く血管が詰まって、脳に栄養が届かなくなり脳の組織が死んでしまう脳梗塞と、脳に行く血管が破れて脳の中で出血する脳出血が含まれています〈図1〉

脳卒中には必ず症状があります。この点が、無症状も含む「脳血管障害」とは異なる点です。それでは、脳卒中の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。

図1 脳卒中のタイプ

脳卒中の症状と治療

〈図2〉をご覧ください。症状は実に多様です。なかでも重要なのが、顔(Face)、腕(Arm)、言葉(Speech)の障害です。顔、腕、言葉のうちで一つでも異常があれば、脳卒中である確率は非常に高いとされています。

図2 脳卒中の症状

ですから一つでも異常があれば、すぐに症状の出た時間(Time)を確かめ、救急要請をしなければなりません。海外では、顔(Face)、腕(Arm)、言葉(Speech)の英語の頭文字をとった「FAST(ファスト)キャンペーン」が広く行われ、脳卒中を疑えば、素早く(FAST)行動する(ACT)ことの重要性を市民に啓発しています〈図3〉

図3 FASTキャンペーンのポスター

(米脳卒中協会のホームページから転載。日本語の説明を加筆。日本の119番はアメリカでは911番)



なぜなら、ほんの1分間、脳に血液が行かないだけで、脳神経細胞が190万個も失われてしまいます。健康な人でも脳神経細胞は日々、少しずつ減っていきますが、1分間、190万個というのは約3週間分が1分間で減る、言い換えれば1分間で3週間分、脳の老化が進むことに相当します。

ですから、脳卒中に気づけば、いかに早く病院で治療を受けるかどうかが、その後の機能改善のカギとなります。

発症4時間30分以内であれば、血栓を溶かす薬(t-PA)を使うことができます。t-PAは、脳の血管や心臓などにできてしまった血栓を溶かす薬で、脳への血液の流れを早く回復させ、脳を障害から救います。

4時間30分を過ぎていても、閉塞した血管の場所や脳への血流の状態が一定の条件を満たす患者さんの場合、血栓を機械的に取り除く治療が、その後の機能回復に有効であることも明らかになっています。

しかし残念ながら、こうした血管の再開通を目指す治療は、脳梗塞を発症したどの患者さんにも行える治療ではありません。一方、脳卒中のリハビリは脳卒中を発症したすべての患者さんが対象となる治療です。

脳卒中後の脳の変化とリハビリ

脳卒中によって脳が障害を受けると、脳卒中を発症する前と同じか、それに近い働きができるよう脳組織の構造や機能の再編や、神経線維の結合の再編が起こることが知られています。

こうした変化は難しい用語ですが「神経可塑性(かそせい)」と呼ばれています。平たくいえば、元に戻ろうとする働きのことです。

脳卒中後のリハビリで、脳機能の「回復」と「代償」が促進されます。「回復」とは、脳卒中発症前と同じか、それに近い働きを再び取り戻すこと、一方、「代償」は新たな代わりとなる機能が働きだすことを意味します。

脳卒中後の機能回復で重要なポイントが三つあります。〈図4〉を見てもらいながら話を進めます。

図4 脳卒中発症後の神経可塑性

一つめは、脳卒中後の回復には、神経可塑性が生じやすい時期(感受性の高い時期)があり、人では脳卒中発症後3か月とされています。

二つめは、脳卒中後の運動訓練の効果は時間が経過するにつれて弱くなっていくことです。

三つめは、回復しやすい感受性の高い時期を過ぎた運動機能の改善は、脳卒中発症前と同様か、それに近い働きではなく、むしろ「代償」となる場合が多いとされています。

また、脳卒中後のリハビリを行う際、左右の大脳半球の「つりあい」が重要な課題となります。〈図5〉をご覧ください。

図5 左右の大脳半球のつりあい

神経可塑性を促すには、左右の大脳半球間のつりあいが重要。そのためには、麻痺した手足への集中的な訓練が必要。


健康なときには、右と左の大脳半球のいずれか一方の活動性(興奮)が高まることがないように、互いにブレーキをかけあっていて、左右の大脳半球の「つりあい」が保たれています。

言い換えれば、左右の半球の「つりあい」が保たれているから、両側の手足がスムーズに動かすことができるのです。

ところが脳卒中が生じると、病巣ができた半球の活動が低下するだけでなく、病巣半球から健常な半球へのブレーキが弱くなることで、逆に、健常半球から病巣半球へのブレーキが強まります。つまり右と左の大脳半球は「つりあい」がとれない非常事態になるのです。

このとき麻痺した手足を動かさずに健常な手足ばかり使っていると、問題の起きた半球の活動はますます抑制されてしまいます。正しい運動を取り戻すには、脳全体を「つりあいのとれた」状態に戻すことが肝心です。

脳卒中後の早期に、麻痺した手足の運動機能を取り戻すため集中的に訓練をすれば、どんな結果をもたらすのでしょうか。

集中的な訓練は、左右の大脳半球間のアンバランス状態を正し、神経可塑性を促すとともに、障害を受けた脳組織で、神経の成長や神経のシグナル伝達に関係する遺伝子などが合成され、それらが働きだす可能性が指摘されています。

麻痺した手足に対して、元の動きに近い運動を繰り返し行う訓練に加え、機能回復の程度や患者さんの状態に応じた目新しく(新奇性)、かつ多様なプログラムを用意すること、さらに機能改善によって得られる達成感(報酬)は、効果的なリハビリテーションにつながります。つまり、新奇性、多様性、報酬の面で刺激的な環境(充実した環境)では、機能回復が促進されるのです。


脳卒中急性期のリハビリの実際

では、急性期のリハビリはどう行われるのでしょうか。リハビリを行うのは療法士(セラピスト)で、医師の指示によって始まります。

セラピストには理学療法士(PT: Physical Therapist)、作業療法士(OT: Occupational Therapist)、言語聴覚士(ST: Speech Therapist)の三つの職種があり、役割を次のように分担しています。

理学療法士は、起き上がる、座る、立つ、歩くなど生活の基本となる動作能力を習得したり、向上させたりする運動や練習を行います。

作業療法士は、患者さんがご飯を食べる、トイレに行く、着替えをする、歯を磨く、字を書くなどの応用動作を身につけ、その能力をアップするための作業練習を行います。

言語聴覚士は、聞く、話す、読む、書くなどの言語機能に障害のある患者さんの障害程度を評価し、必要な練習や助言をします。

次に実際のリハビリの進め方について紹介します。

1.ベッドサイドリハビリテーション:離床に向けて

脳卒中になって間もない時期は、病状が進行する危険性があり、病状が安定するまでベッドから起き上がれません。この時期から病床にセラピストが訪問し、リハビリが始まります。

ベッドで寝ていることを「臥床(がしょう)」といいます。臥床期間が長くなると、麻痺した手足の関節が硬くなったり、麻痺していない手足の筋力が弱まったりするので病床でのリハビリは欠かせません。

長期の臥床は、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)や肺炎・尿路感染症、心肺機能の低下、足の静脈のうっ滞による静脈血栓症、起立時の血圧低下によるふらつきの原因にもなります。こうした、動けないことによって生じる一連の障害を「廃用症候群」と言います〈図6〉

図6 廃用症候群

安静や臥床によって様々な二次的な症状や障害が出現します。これを予防するため早期から離床に向けたベットサイドリハビリテーションを始めます。


廃用症候群を予防するため、脳卒中の発症後早期からベッドサイドリハビリテーションによって、姿勢を整えたり(良肢位保持)、手足の関節を動かしたり(関節可動域運動)、筋力をつけたり(筋力増強運動)する練習を開始します。

病状が安定すると、「ベッドから起きる」(離床)練習が始まります。臥床が続いた後は起き上がる際、血圧が低下する危険性があります。急激な血圧低下で脳の血流が下がり、症状が悪化するおそれがあるため、ベッドに寝た状態から徐々に頭をあげて行かなくてはなりません。頭部を段階的にあげながら、血圧や心拍数、症状の変化などをこまめにチェックし、ベッド上に座れる(長坐位)ようにするのです。

ベッド上で座れるようになれば、次は足を床に下ろして座る練習(端坐位(たんざい)練習)です。端坐位ができるようになれば、いよいよ「車いす乗車」となります。ベッドで安静に寝ていた患者さんがはじめて車いすに乗る瞬間は、脳卒中になってはじめてベッドから完全に離れる「離床」を意味します。ベッドサイドのリハビリはまさに離床に向けた練習なのです。


2.リハビリテーション室で

車いすに乗れるようになれば、患者さんの移動範囲は大幅に広がり、多くの方は集中治療室を出て一般病棟へ移ります。リハビリを行う場もベッドサイドからリハビリテーション室に変わります。

(1)標準的なリハビリ

理学療法

リハビリテーション室での訓練が可能になれば、いよいよ積極的なリハビリです。まず立つ(立位)練習から始め、立位を保つことができるようになれば歩行練習に移ります。最初は平行棒などの手すりを用いて行い、歩行が安定すれば、杖を使う歩行練習です。基本は①杖をつく②麻痺した足をだす③健常側の足を出す順で歩みを進めます。

杖は歩行障害の程度に応じて大きく3種類あり(写真)、安定性の高いサイドケインで歩行練習を始め、その後4脚杖、一本杖(T字杖)へと進めます。患者さんの介助の必要程度により、一本杖での歩行練習から始める場合もあります。

杖の種類(左からサイドケイン、4脚杖、T字杖)


立位や歩行を補助するための装具・機器として、短下肢装具、長下肢装具、免荷機能付歩行器に(体重免荷(めんか)装置)があります。

短下肢装具は、主に足関節の固定を目的に用いられ、ふくらはぎの筋肉の緊張の度合いにより、いくつかの種類があります。ふくらはぎの緊張が高く足関節の強固な固定が必要な場合は〈写真左〉を、緊張が低い場合に〈写真右〉を使用します。

装具の種類


長下肢装具、免荷機能付歩行器に歩行器は、麻痺が重度で、歩行時に体重が支えられずに膝折れが起きてしまう患者さんに使います。当院では長下肢装具〈写真〉や免荷機能付歩行器を用いた立位練習や歩行練習を積極的に行っています。

短下肢装具や長下肢装具は医師の処方に従って作製することで、健康保険の適用となります。

長下肢装具を用いた歩行練習


作業療法

座位が保てる状態になれば、食事動作、更衣動作、トイレ動作、入浴動作などの応用動作ができるよう、実際の作業を組み入れた練習に入ります。

具体的には、麻痺した手の機能回復や関節の動きを改善するため、傾斜したボード上で上肢(手~肩)全体を上下方向に滑らせるサンディング〈写真〉などをします。

この練習は麻痺した上肢だけで行う場合もありますが、麻痺が重く健常な他方の上肢で補助する必要がある場合は、両方の上肢で行います。

サンディング


手の指を使ってつまんだり離したりする細かい動き(巧緻性)をよくするため、写真のようにペグを使います。麻痺した手でペグをつまんだり、ボードに差し込んだり、指先で反転させたりするのです。

ペグの大きさは様々で形も円柱形や直方体などがあります。麻痺の重症度や回復の程度、訓練の目的に応じて使い分けます。

ペグボード


利き手に軽い麻痺が残っている場合は、書字や箸(はし)練習なども行います。また、利き手に障害が残ると判断される場合は、利き手交換の練習を始めます。今まで利き手でしていた日常動作も、「非利き手」でするとなると極めて難しいからです。

非利き手で箸動作の練習をする際には、写真のような介助箸やバネ付き箸を使い、物をつまんだり離したりする練習を繰り返します。

社会復帰が近づいた患者さんには、家庭や社会での役割に応じ、家庭での場面を想定した炊事や掃除などの指導や練習、さらに復職に向けた指導や練習なども行います。

利き手での箸操作


言語聴覚療法と摂食・嚥下機能療法

言語機能の障害には「失語症」と「構音障害」があります。

失語症になると「話すこと」だけでなく「聞くこと」、「読むこと」、「書くこと」も難しくなります。失語症には、言葉を聞くと理解はできるのに、うまくしゃべれない「運動性失語」と、言葉を聞いても理解ができず、言い間違い(錯語)の多い「感覚性失語」、話をよく理解し話し方も流暢なのに、物の名前が出てこないために回りくどい話し方になる「健忘失語」、「聞く、話す、読む、書く」すべてに重度の障害がある「全失語」があります。

一方、「構音障害」は、脳卒中によって、言葉を話すのに必要な舌や口唇、声帯などの発声発語器官の麻痺や、それらの動きをうまくコントロールできなくなって(失調)、呂律(ろれつ)が回らず、発音が不明瞭となる状態です。

脳卒中で言語機能障害が起きた患者さんには、発症後早期からベッドサイドに出向いて障害の種類や、失語症があればそのタイプを評価し、障害に応じたリハビリを始めます。このリハビリは、ご家族の理解と協力が欠かせず、ご家族への指導もさせていただく場合があります。

脳卒中をきっかけに、食べたり飲んだりすることの障害(摂食・嚥下(えんげ)障害)が起こる場合があります。その場合、水を飲みこんだり、ゼリーを数口食べてもらったりして、うまく飲めるか、食べられるかをチェックする摂食・嚥下機能評価を行います。

患者さんの障害程度に応じ、食べる際の姿勢や食べるもののやわらかさ、形の調整をし、摂食・嚥下能力を高める練習をします。

(2)新しいリハビリテーション

標準的な方法の他に、現在いくつかの新しいリハビリテーションが試みられています。しかし、これらの治療は、脳卒中患者さんに対してまだ保険診療の対象となっていない高度医療で、今後、臨床応用に向けた研究が期待されています。

ロボットを使う試み

麻痺の重い患者さんの回復には、当然、長い訓練時間が必要です。ロボットを取り入れたリハビリは、障害を受けた手足に対して、正常に近い動きのくり返し動作訓練を効率的に行える利点があります。

脳卒中後、間もない時期は神経可塑性が生じやすい時期なので、急性期から集中的な訓練をすれば、運動回復までの時間の短縮化と、より高い機能改善が期待できます。

主に慢性期の脳卒中患者さんに、手もしくは足に対するロボットを取り入れたリハビリの効果を調べた各国からの報告では、ロボットを取り入れたリハビリの方が取り入れなかったリハビリに比べ日常生活での自立度が高かったという結果が出ています。

しかし、ロボットを取り入れたリハビリと、そうでない場合を詳細に比較すると、歩く速度や物をつかむ力、積み木を動かす速さ、手足の関節の曲げ伸ばしなど、個々の運動機能や活動に差はありませんでした。

これは、研究によってリハビリを始める時期や方法が一定ではないこと、ロボットによるリハビリはどのような障害の患者さんに最も適しているのか、さらに急性期脳卒中患者さんに対する効果もまだ明らかになっていないことにも関係しています。

重要なのは、ロボットがセラピストの役目をすべて代行できるわけではなく、経験豊富なセラピストが個々の患者さんに最も適したロボットの使い方をしなければ、運動機能の回復効果は望めないことです。

経頭蓋磁気刺激と経頭蓋直流電気刺激

脳卒中の発症で大脳半球の活動が「つりあいがとれない」非常事態になることはすでに説明しました。

経頭蓋磁気刺激と経頭蓋直流電気刺激、難しそうな用語ですが、頭に磁気や電気刺激を与えることによって、頭蓋骨を通して大脳に弱い電流を発生させ、神経の活動性(興奮)を高めるか、もしくは抑制する治療です。つまり脳全体を「つりあいのとれた」状態に戻す治療なのです。

なかでも経頭蓋直流電気刺激は、治療経費が比較的安価で、しかも簡単にできるので、複数の研究成果が発表されています。それらをまとめると、陰性電流を用いた経頭蓋直流電気刺激で、脳卒中後の日常生活の自立度が上がったという結果になりました。

しかし、これはあくまでも慢性期脳卒中の患者さんを対象とした結果で、急性期の患者さんへの効果はまだ明らかになっていません。

経頭蓋磁気刺激も経頭蓋直流電気刺激も、脳卒中後いずれの時期に、どのような強さ、頻度で、どの部位に刺激すると、脳全体が「つりあいのとれた」状態に戻り、効果的な運動機能の回復につながるのかはまだ明らかになっていないのが現状です。


3.急性期脳卒中リハビリでの留意点

脳卒中急性期からの積極的なリハビリは、慢性期に重きをおいたリハビリに比べて、神経機能をより早く、高い到達度まで回復させることが期待できます。ただし、急性期リハビリを進めるには心に留めておくべき、重要なポイントがいくつかあります。

一つめは言うまでもなく、急性期から安全に積極的なリハビリを始めるには、しっかりとした病状の把握が不可欠です。不安定な病状のときにリハビリを進めれば、かえって病状を悪化させる危険があるからです。

二つめは、患者さん自身が自分で動かそうとする、やる気に満ちた自主的な訓練でなければ、効率的な回復は望めません。患者さんはどんな立場にある人か、置かれた社会的環境にも配慮が必要です。

三つめは、それぞれの患者さんで性別、年齢、脳卒中の病巣や重症度の違いのみならず、体質(遺伝的素因)も異なるので、リハビリで同じ訓練をしても、運動機能の回復の度合いは異なるという事実です。

こうしたことから、脳卒中急性期治療の一つとしての急性期脳卒中リハビリは、セラピスト一人でできるわけでは決してありません。医師、看護師、セラピスト、薬剤師、栄養士、医療ソーシャルワーカーといった多くのスタッフとのチームワークが欠かせないのです〈図7〉

図7 リハビリテーション医療=チーム医療

「標準的なリハビリ」のところで基本的な方法を紹介しましたが、セラピストは、患者さんに関わるあらゆる情報を日常的に他の職種のスタッフから収集し、患者さん一人ひとりに最も適した"テーラーメード"のプログラムを提供する努力をしています。

今後、このプログラムの中にロボットの併用のほか、患者さんのやる気を引き出すゲームを取り入れたリハビリなどが入ってくる可能性があり、今後の研究課題となっています。

4.日々心掛けたいACT·FAST

脳卒中になってからのお話ばかりしてきました。しかし、最も重要なのは脳卒中にならないこと、また、なったとしても、発症にすぐに気づいて早く行動すること(ACT FAST)です。

国立循環器病研究センターでは、平成22年度~平成29年度に循環器病研究開発費(主任研究者 峰松一夫名誉院長)により精華大学マンガ学部との共同で、ACT FASTのメッセージを取り入れた、小中学生にも理解しやすい脳卒中啓発教材(ポスター、マンガ冊子、アニメ)を作成し〈図8〉、小中学生へ脳卒中啓発活動を展開しました。

この活動を通じ、学校の先生や救急隊が啓発教材を使って子どもたちに脳卒中対処法の授業・指導をすることによって、子どもだけでなく、その保護者にも脳卒中の知識が広まること、さらに教える側(学校の先生、救急隊)にも脳卒中啓発効果があることがわかりました。

図8 ACT·FASTを呼びかけるポスター

脳卒中を発症しないためには、若い頃からの健康に気をつけた生活が欠かせません。また、脳卒中の症状と対処法を子どもから大人に伝えることで、より多くの人に脳卒中に対する正しい知識が広がる可能性があります。

この脳卒中啓発教材は当センターのホームページ上にあるhttps://fast.stroke-ncvc.jp/で公開しています。ぜひご覧になってください。

ページ上部へ