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[122] 認知症と循環器病の深い関係

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
脳神経内科 部長
猪原 匡史

認知症予防に血管を守ろう

もくじ

  1. 認知症とは? その進行を防ぐには
  2. いますぐ誰でもできる認知症予防法
  3. 認知症が減っている国がある!
  4. 認知症予防にまず減塩
  5. 認知症の薬物療法
  6. 認知症予防に血管を守れ!
  7. おわりに


認知症とは? その進行を防ぐには

認知症というとアルツハイマー病を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。脳の神経細胞が原因不明のままひとりでに死んでいく難病だ、というイメージが強いのではないでしょうか?

その脳の重さは体重のわずか2.5%なのに、血液の量は全身の20%を必要とする臓器です。大量の血液が必要な臓器ですから、生活習慣病などによって動脈の壁が硬くなってしなやかさが失われる「動脈硬化」、さらに、そうした動脈硬化に基づく病気である循環器病が脳でも起こり、大いに認知症に関係することがわかってきました。この冊子では、アルツハイマー病も含めた認知症の対策と治療について話を進めます。

認知症の種類

認知症を起こす病気には、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、たくさんの種類があります。他にも正常圧水頭症や甲状腺の病気など適切な治療により治るものもあります。

これらのうち、アルツハイマー病が特に注目された結果、認知症は神経細胞がひとりでに死んでいく難病という認識が広く行き渡ってしまいました。しかし、認知症の2番目の原因である血管性認知症であれば、脳の循環器病である脳卒中の予防が認知症の予防に直結します。

最近の医学の進歩で、アルツハイマー病やレビー小体型認知症ですら高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療によって、その進行を抑制できる可能性が明らかとなってきました。認知症と診断されたとしても、あきらめるにはまだまだ早過ぎるのです。

認知症の頻度

認知症は、年とともに雪だるま式に増えて行きます。70歳以降では5歳年齢を重ねるごとに認知症になる危険度が倍になっていきます。80歳を超えると20%、85歳を超えると40%と認知症が急増します。

つまり、認知症の最大の原因は年齢であると言えます。ですから認知症が急増しているのは、私たちの寿命が延びていることと深い関係があります。人生50年と言われていた時代には予期できなかったことなのです。

しかし、5年で倍になるということは、逆に5歳だけ認知症の発症を先送りにできれば、認知症は約半分になることを意味します。しかも、5歳程度先送りにする方法が明らかになってきたのです。状況は変わってきたのです。

アルツハイマー病の進行を遅らせた方法とは?

フランスのリール大学で興味深い研究が行われました。アルツハイマー病と診断された約300人を対象に、およそ100人ずつの3群に分けました。その3群は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、もしくは喫煙といった生活習慣病といわれるようなものを、①全く管理しなかった群、②ある程度、管理した群、③すべて管理した群です。

この研究では、ミニメンタルステート検査(MMSE)という認知症 の評価法で30点満点中22点ぐらい、つまり、自立した生活は辛うじて できている、ただ認知機能障害が進んできている、そういう方を対象に2年半経過を観察しました。

その結果、すべてを管理した③群は20点くらいで自立が可能な状態を維持できていましたが、全く管理しなかった①群は14点まで低下してしまいました〈図1〉。これはもう自立した生活が難しい状態です。②群はその中間でした。生活習慣病の管理をすることで、2年半でこのように大きな差が開くことがわかってきたのです。

図1 生活習慣病を管理したときの効果

生活習慣病を管理したときの効果

重要なことは、この研究が、生活習慣病が直接の引き金となる血管性認知症の患者さんではなく、アルツハイマー病と診断された患者さんを対象にしていることです。つまり、神経細胞が加齢とともにひとりでに死んで行くと考えられていたアルツハイマー病でも、生活習慣病を管理すれば進行をかなり止められることが実際にわかったのです。

いますぐ誰でもできる認知症予防法

認知症の中で最も多いと言われるアルツハイマー病でさえも、生活習慣病を管理することでその進行を緩やかにすることがわかりました。

「わしゃ、(ピンピン生きてコロッと死ぬ)ピンピンコロリでええんや!(関西弁)」と高血圧の治療に難色を示した高齢者の方がいました。その方に、高血圧を放っておくと認知症になるかもしれませんよ、とお話しすると、「家族に迷惑をかけるかもしれないから、そりゃ困る」と治療を受け入れてくれました。

生活習慣病とそれによって起こる循環器病の管理が認知症予防に直結している、という認識がとても大切です。アルツハイマー病が難病という思い込みから、一度、距離を置いてみる必要があります。

認知症予防につながる生活習慣病管理...具体的には?

実は、身近によい方法があるのです。これは、歩きながら計算するなど二つの課題を同時にこなして、脳に相応の負荷(負担)をかける方法です。運動もするけれど頭も使うといったことをすると、記憶の中枢である海馬という部分の萎縮が抑制できたとする報告に基づいています。こうした活動を「デュアルタスク(二重の課題)」といいます。

私の外来でも、認知症の方を対象に万歩計で歩行距離を記録してみました。その記録をもとに外来で「歩行距離が足りないからもうちょっと歩きましょう」などと指導し、研究を進めました。散歩もできるだけ工夫し、「今日は桜がきれいな季節だから桜並木を歩いてみよう」、「紅葉が美しいかもしれないから別の道を歩いてみよう」と違ったルートを歩くようにアドバイスしました。時々、外来で認知機能をテストして経過を追って行きました。

すると、普段よく歩いている人は、認知機能が保たれている傾向がありました。6か月後に、歩数が増加した方と増加しなかった方を比べると、認知機能に差が出ており、歩数が増えた人は認知機能テストの点数が上がっていました。普段の運動がいかに脳機能に影響を与えるか、そして認知症の進行を予防するのに役立つかがわかりました。

海外からの報告では、チェスなどボードゲーム、トランプ、楽器演奏、ダンスなどを普段からしている高齢者に認知症が少なかったことが明らかになっています。これらの活動に共通するのは、いずれも頭を使う活動であることです。この研究で、単に散歩するだけでは、それほどの効果がなかったことからも、脳にそれ相応の負担をかける「デュアルタスク」が有効なことがわかります。

「心を動かせ、そして体を動かせ」

「デュアルタスク」について歴史をたどっていくと、紀元前にまでさかのぼることができます。哲学者プラトン(B.C.427~347)が、生活習慣病の予防には何がよいかと問われ、「絶えず心を動かせ、そして、体を動かせ」という言葉を残しています(「ティマイオス-自然について」)〈イラスト〉。これもある意味での「デュアルタスク」です。「心と体をともに動かす」ことが生活習慣病の予防につながるということが、紀元前からの真理だということになるかと思います。

寿命が短かった紀元前には認知症にまでつながることはプラトンも想像はしていなかったでしょう。しかし、高齢化の進む現代では、生活習慣病と循環器病の先にある認知症の予防にもこの黄金律「絶えず心を動かせ、そして体を動かせ」は応用可能であると思います。

絶えず心を動かせ、そして、体を動かせ

認知症が減っている国がある!

認知症予防の具体的な方法についてお話ししました。では、実際に生活習慣病の管理を徹底したことで認知症が減るという成果を挙げた例はあるのでしょうか?

実は2013年にイギリスからその報告がありました。この国が特に医療レベルが飛び抜けて高いわけではありませんが、2005年から認知症を減らす様々な取り組みをしてきた成果が実を結んだのではないか、と考えられています。その具体的な取り組みについて紹介し、認知症予防の手がかりを探ってみたいと思います。

イギリスで認知症が減少した驚くべき事実

2013年、イギリスの医学専門誌「ランセット」(The Lancet)に、イギリスでは認知症が減少したという研究結果が報告されました〈図2〉。「認知機能と年齢」研究という住民を対象にした臨床研究が20年以上前からイギリスでは行われています。この研究成果として、75歳以上のすべての年代で認知症が2~3割減少したと報告され、世界中の認知症研究者は驚きました。

図2 イギリスでは認知症が減少

65歳以上の認知症の推定割合

日本では20年前に比べて認知症が増えているというのが、われわれの共通の認識です。日本の20年前の80歳から84歳、85歳から89歳という高齢者の認知症の割合(有病率)はそれぞれ15%と25%程度です。イギリスの20年前もちょうど同じ割合でした。ですから20年前の認知症の割合は日本とイギリスで同じだったということになりますが、最近になってイギリスでは減少した、片や日本では上昇しているということになります。

75歳以上のすべての年代においてイギリスでは減少していますし、日本では増加していますので、単に高齢化が原因ではないわけです。この違いがどこにあるのか?を突き止めることが、認知症を減少させる方法を見つけることにつながると言えます。

循環器病の治療が認知症予防!

イギリスでは、2005年から「循環器病の治療が認知症予防」(What's good for your heart is good for your head)という標語を作って、認知症予防に取り組んできました。

その一環と言えるのが、イギリスの公共放送、BBCのホームページに掲載されている禁煙キャンペーンの写真です。22歳の双子の姉妹が40歳になった際に予想される顔写真で、たばこを吸う姉と吸わない妹の容姿の差が歴然と示されています。インターネットが使える方は、BBC、たばこ(tobacco)、双子(twins)で検索してみてください。

イギリスを旅行された方はご存知かもしれませんが、たばこは1箱1000円以上しますから、愛煙家の皆様にはつらいことかと思います。しかし、循環器病予防の観点からは特筆に値する政策です。実は喫煙率は男女差こそあれ日本と大差はないのですが、イギリスの一人当たりの喫煙本数は日本の3分の1程度で、煙草の価格が影響していることは明らかです。

また、イギリスでは国を挙げて減塩に取り組み、パンを製造する業界団体に働きかけて、塩分を3年間で10%削減することに成功しました。すでにイギリスでは2005年の時点で、1日当たりの男性の塩分摂取量は10g未満、女性の塩分摂取量は8gを下回っています。この10%減塩だけで、医療費を年間2600億円減らすことに成功したと推定されており、減塩の効果は絶大です。

イギリスの病院を統括している機関が出している患者さん向けパンフレットでは、脳卒中、心臓病、糖尿病、腎臓病などの循環器病が認知症と歯車でつながっていることがはっきりと示されています〈図3〉。このように生活習慣病をしっかりと治療することが認知症予防に直結することが明らかになってきたのです。

図3 認知症と循環器病の関係を示す歯車

認知症と循環器病の関係を示す歯車

認知症予防にまず減塩

イギリスでは減塩による高血圧予防や禁煙による動脈硬化予防が、循環器予防、ひいては認知症予防に結び付きました。では、わが国ではどういう取り組みをして行けばよいのでしょうか? 1日の塩分摂取量が11~12gと言われる日本でどのように減塩を進めて行くのでしょうか?

今回は、私たち国立循環器病研究センターが推進している取り組みを紹介し、認知症予防法について考えます。

適塩の考え方

生活習慣病予防の基本は、運動療法と食事療法です。先ほど「心を動かし、体を動かす」運動療法の「デュアルタスク」を紹介しました。ここでは、もう一つの柱である食事療法についてお話しします。

生活習慣病の中で、脳卒中などの脳の病気に最も結びつきやすいのは高血圧です。高血圧はどうして起こるのでしょうか? もって生まれた「体質」も影響しますが、食塩を1日1g程度しか摂取しない、ブラジルのヤノマノ族には高血圧が存在しないことが知られています。つまり、塩分さえ摂取を控えれば高血圧にはならない、と言えます。

40歳以上の成人で30%程度が本態性高血圧に罹患(りかん)しているとされるわが国では、認知症予防にも減塩キャンペーンが特に重要です。減塩と聞くと何やら苦行のように感じる方もおられるかもしれません。実は、それは塩分に慣らされてしまっている結果であって、適度の塩分こそが料理をおいしくする「適塩」という考え方に改めるべきです。

日本の食事摂取基準(2015年版)では、食塩摂取の目標量は男性1日8.0g未満、女性1日7.0g未満と、2010年基準の男性1日9.0g、女性1日7.5gよりさらに厳格になりました。この目標を達成するにはどうしたらよいのでしょうか? 梅干しはたった一個で塩分2g、ラーメンを汁までいただくと塩分6gです。この目標達成がいかに難しいかが、おわかりになると思います。

減塩の秘策! かるしおレシピ

そんなの無理だ、とあきらめるには早すぎます。厚生労働省のホームページにも、塩分を控えるための12か条が記載されています。

その12か条を要約すると、薄味に慣れ、漬け物・汁物を控え、酸味・香辛料・油を有効に使い、保存食を食べ過ぎないようにする、といったような内容です。具体的なレシピをどのように工夫するか、を学びたい方には、国立循環器病研究センターが作成し刊行した「かるしおレシピ」をお勧めします。1食2gのレシピの工夫がたくさん掲載されています。

この本のコンセプトは、減塩ではなく適塩です。つまり、「減塩なのにおいしい」ではなく、「減塩だからおいしい」のです。

知っておきたい循環器病あれこれ第118号「美味しく減塩 "かるしお" のすすめ」で紹介しています。参考にしてください。

さらに、アメリカでアルツハイマー病を減らすことに成功した「マインド食」が発表されたことを受けて、「マインド食」を取り入れた認知症予防のための「続々 国循の認知症リスク減!かるしおレシピ」も発刊されました〈写真〉。

このような食事に慣れていただけば、減塩も苦行ではなくなり、日々の食事を楽しみながら認知症予防ができる好循環が生まれるでしょう。

続々 国循の認知症リスク減!かるしおレシピ

認知症の薬物療法

ここまで、認知症予防のための運動療法の例として「デュアルタスク」、食事療法の例として「かるしおレシピ(適塩)」を取り上げましたが、認知症予防の三位一体治療の残る一つの柱、薬物療法について説明します。

アルツハイマー病の対症療法

アルツハイマー病ではドネペジルやガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬という薬を使い、脳の中で減少したアセチルコリンを増やして認知機能を改善させたり、メマンチンという、神経細胞が過剰に興奮するのを抑えたりする薬で、病状の進行を遅らせようとする治療が行われます。ガランタミンは血管性認知症に対しても有効だという海外のデータもあります。

これらは根本療法ではありませんが、対症治療として一時的に症状を緩和させる治療と位置付けられています。

アルツハイマー病の未来の治療法

アルツハイマー病の根治療法として注目されているのが、アルツハイマー病の脳にたまる老廃物β(ベータ)アミロイドというたんぱく質に対する抗体療法です。簡単にいうと、抗体というβアミロイドを攻撃する"ミサイル"を体内で作り出したり、体外から投与したりして、脳に蓄積したβアミロイドの塊を破壊して取り除こうとするものです。

現在のところうまく行っていないため、方法を少し見直したうえで臨床研究が続けられています。うまく行かなかった原因の一つが、βアミロイドの神経細胞周辺での蓄積(老人斑と呼ばれるしみ)は減少したものの、かえって血管への蓄積が増えてしまった、というものでした。これは高齢者では多かれ少なかれ動脈硬化が起こっていることに関連していると考えられています。

現在開発中で期待されている治療法は、糖尿病の治療に使うインスリンを点鼻噴霧するものです。インスリンは神経細胞が糖を取り込み、利用するのを手助けしているため、糖を唯一の栄養源とする脳では欠かせないホルモンです。だからインスリンが脳で不足すると、脳がうまく働かなくなり、アルツハイマー病が起こるという「脳のメタボ仮説」に、この治療法は基づいています。

インスリンは糖尿病に広く使われていますので、有効性が証明されればアルツハイマー病の患者さんにとって光明となるでしょう。

「糖尿病は血管病」と言われるほど、糖尿病は動脈硬化、および循環器病を引き起こす最たる疾患です。先の抗体療法も結局のところ、動脈硬化がその成否に関係していました。このように、アルツハイマー病を代表とする神経変性疾患でも、血管を健全にする方策を講じなくてはならないことを示していると言えるでしょう。

認知症予防のための生活習慣病治療薬

これまで、アルツハイマー病と血管性認知症では、治療法が異なるように言われることが多かったのですが、動脈硬化とその結果として起こる循環器病がアルツハイマー病治療開発の成否を握る可能性があることがわかってきました。つまり、認知症の原因のほとんどを占めている2大疾患、アルツハイマー病と血管性認知症は、いずれも生活習慣病を厳重に管理することで進行を予防できることがわかってきたのです。

高血圧には降圧薬、糖尿病には血糖降下薬、脂質異常症にはスタチンという薬剤など、生活習慣病管理は薬物療法の進歩で昔よりも簡単になりました。食事療法と運動療法に加えて適切な薬物療法の導入が、認知症予防に推奨されるのです。

認知症予防に血管を守れ!

神経細胞が不調となって死んでいくと考えられていたアルツハイマー病も実は血管の病気という側面を持ち合わせています。これは、カナダ生まれの著名な内科医ウィリアム・オスラー卿の遺された「人は血管とともに老いる」という名言と無縁ではありません。

100件以上のアルツハイマー病の根治薬の開発が失敗に終わっている現状では、異なる視点からの認知症治療法の開発が期待されています。それは、ほかならぬ「循環器病の予防」と言えるでしょう。どうすれば認知症を予防でき良好な脳機能を維持できるかを、うまい良質のお米を作ることに例えて考えたいと思います。

良質のお米を作るには?

お米を作る際に必要な要素は三つです。稲の品質、肥沃(ひよく)な土壌、そして水路の整備です。最近は害虫に強い稲、寒暖差に強い稲など、遺伝子改変による品種改良なども可能ですから、稲の品質を向上させることも重要でしょう。

ただし、稲の品質を高めることに腐心しすぎて、水路の整備を怠って土壌がやせてしまい水田が干上がってしまえばどうなるでしょうか? せっかくの稲も枯れてしまいますね。認知症にも同じことが言えます。

実はこれまでの認知症根治薬の開発は、いわば脳での稲、つまり神経細胞にばかり注目していました。いかに神経細胞が死ぬのを防ぐのかを考えるあまり、栄養素や酸素を運び老廃物を流す働きのある血管の働きを無視した治療の試みが行われてきました。医学研究はしばしば試験管の中で行われますが、栄養の行き届いた試験管の中での実験結果を、動脈硬化が起こった脳に起こる現象に当てはめるのには土台無理があったわけです。

土壌を豊かにし、水を供給する水路の整備、言い換えれば、神経細胞が健常に働くために必須である脳血管の健全化を目指した治療を行うことが肝心である〈図4〉、という原点に立ち返らねばならないことになります。

図4 認知症予防のための三位一体療法

認知症予防のための三位一体療法

アルツハイマー病という病名の独り歩き

カナダのハチンスキー博士は、アルツハイマー病という診断が独り歩きするのは望ましくないと述べています。

その理由は、高齢者でアルツハイマー病という病名がついてしまうと、高血圧、糖尿病、肥満、脳卒中という認知症を引き起こしうる病気(すべて血管の病気)に目配りされず、医師も生活習慣病とその結果起こる循環器病の治療をなおざりにする可能性があるからです。

言い換えると、高齢者の認知症は単一の原因であることはむしろまれで、アルツハイマー病は単にその一側面であり、他にも、高血圧、糖尿病、肥満、脳卒中といったいくつもの原因が共存しています。

例えば、ある患者さんではアルツハイマー病もあるけれども、糖尿病も一因である、別の患者さんでは肥満、脂質異常症に関連して起こった脳卒中が原因である...そういったように原因を個々の認知症患者さんごとに見極めてテイラーメイド治療(個別化治療)を行うべきだということが提言されています。

認知症に対しても、いくつかの作用がある薬剤を同時に使う、もしくは食事療法、運動療法を併用する治療を行うというのが、将来の標準治療になるでしょう。

おわりに

認知症と循環器病の深い関係について焦点を当てお話しました。アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症の症状やメカニズムをもう少し詳しく知りたい方は、本シリーズ第107号「認知症とたたかう」をご覧になってください。「認知症予防のためには血管を守れ!」という黄金律をしっかりと心にとめていただきたいと思います。

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