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[117] もやもや病 ─ ここまできた診断・治療

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター 脳神経外科部長
髙橋 淳

もやもや病の研究・治療が進む

もくじ

  1. 日本で見つかった病気
  2. どのくらいの患者さんがいるの?
  3. この病気の原因は?
  4. もやもや病の症状
  5. 診断と治療に必要な3つの検査
  6. もやもや病の治療
  7. 日常生活で気をつけること
  8. もやもや病の長期予後
  9. 終わりに


日本で見つかった病気

「もやもやする」といえば、こころがすっきりしない、はっきりしないことを表現する場合が多いようです。ただ、ここで取り上げる「もやもや病」とは、脳に血液を送る血管が徐々に詰まってしまい、脳の血液不足や出血を起こす病気のことです。

人間の大脳は左右の大脳半球に分かれています。脳に血液を送っている血管のうち、最も重要なのが「内頚動脈(ないけいどうみゃく) 」という2本の太い動脈です。この2本の動脈は、心臓から出た大動脈からそれぞれ枝分かれして、首から頭へ上り、それぞれが頭に入ってすぐに二股に分かれ、左側の内頚動脈が左の大脳半球に、右側の内頚動脈が右の大脳半球に酸素と栄養分を送っています。

もやもや病では、内頚動脈の二股に分かれる部分が左右ともに徐々に狭くなり、詰まっていきます〈図1の矢印の部分〉。同時に、何としても大脳半球に血液を届けようと、異常な血管(側副血行路(そくふくけっこうろ))が網の目のように発達するのが特徴です〈図1の丸印内の部分〉。

図1 内頚動脈ともやもや病


この病気は1950年代に日本で見つかり、1960年代終わりにもやもや病と命名されました。〈図1〉のように、網の目状になった異常な側副血行路が、当時の解像度の低い脳血管造影写真ではたばこの煙のように「もやもや」と見えたことから名付けられたと言われています。現在「もやもや病」という名前は世界中で通用する正式名称で、英語でも「モヤモヤ・ディジーズ」といいます。

一般に、脳の血管の「詰まり」といえば、多くは年を取るにつれておこる動脈硬化(どうみゃくこうか)によるものです。ところが、もやもや病は動脈硬化や他の病気がないのに、また子どもや若い世代であるのに、脳にとって大切な血管が徐々に詰まってしまうのです。

この病気では、左右両方の内頚動脈が狭くなってきますが、時には片方だけの場合もあります。また内頚動脈に加えて、大脳半球の後半部に血液を送る「後大脳動脈(こうだいのうどうみゃく)」が狭くなる患者さんもいます。脳血管が詰まると、脳は血液不足となり、手足のまひや言葉の障害などを起こします。小児の場合、ほとんどはこのタイプです。また、網の目のような側副血行路に長年負担がかかりつづけると、この血管が破れて脳出血を起こすことがあります。成人のもやもや病の半数は、脳出血で発症します。

血液不足で発症するもやもや病を「虚血型(きょけつがた)もやもや病」、脳出血を起こすものを「出血型もやもや病」とよびます〈図2〉。

図2 もやもや病のCT画像


どれくらいの患者さんがいるの?

国内では現在、約16,000人がもやもや病と診断されています。発症年齢は、5歳前後の小児期と、30~40歳頃の二つの山があります。女性に多いことが分かっており、国内での男女比は1対1.8です。欧米人には非常に少なく、同じ人口当たりの患者数はアメリカでは日本の約35分の1、ヨーロッパでは約10分の1といわれています。もやもや病は東アジア、とくに黄色人種に多い病気なのです。

患者さんが最も多く診断されているのは日本ですが、韓国や台湾などにも多くの患者さんがいます。そして13億人(日本の10倍)が暮らす中国には、正確な統計がないものの、おそらく日本よりもはるかに多い患者さんがいるに違いありません。

***公的支援制度の変更について***
もやもや病は、厚生労働省の定める「特定疾患」に指定され、医療費の公的負担が行われてきました。平成27年1月から国の制度が変わり、18歳以上の患者さんは「指定難病」として、18歳未満の場合は「小児慢性特定疾病(しっぺい)」として登録されることになりました。大人と子どもでは、医師に書いてもらう書類も違ったものになります。また申請や更新の書類を書くことができるのは、指定医のみとなりました。

この病気の原因は?

長い間、もやもや病は「原因不明」といわれてきました。というよりも、重い動脈硬化や、膠原病(こうげんびょう)(自分の体の組織を自分で攻撃してしまう病気)など、「脳血管が詰まる原因になる病気」がはっきりと分かっている場合は、「もやもや病」と診断しない取り決めだったのです。このような病気がないのに、内頚動脈が詰まっていくのがもやもや病です。

家族内、親戚内で何人かのもやもや病患者さんが発症することが、よくあります。これまでの調査では12%の患者さんで、家系内に別の患者さんが見つかっています。また、人種によって大きな違いがあります。これらのことから、もやもや病の発生には何らかの「遺伝的な素因(そいん)(素質)」が関係している疑いがあり、長い間、研究が行われてきました。そして最近、日本の二つの別々の研究グループから「もやもや病になりやすい遺伝子をつきとめた」という成果が発表されました。両グループがたどり着いた遺伝子は「RNF213」とよばれるもので、ほぼ一致していたのです。

人間の細胞一つ一つには、両親から受け継いだ23対46本の「染色体(せんしょくたい)」があり、それぞれの染色体にはたくさんの遺伝子が詰まっています。人間の遺伝子の並びは99.9%が同じで、残り0.1%の違いで皮膚の色や背 の高さといった外観、ある病気へのかかりやすさなどの差がうまれます。

RNF213は17番目の染色体の中にある遺伝子ですが、もやもや病の患者さんの多くで、2本の17番染色体のうち、少なくとも1本でRNF213の一部が変異(変化)していることが分かりました。時には2本とも変異していることもあり、そのような患者さんは低年齢で発症し、重症化しやすいことも分かっています。

ただ、「そもそもRNF213とは何の働きをしている遺伝子なのか」ということが、まだよく分かっていません。ただ、この遺伝子の変異が発症の鍵を握っていると考えられています。

***大切なこと! 誤解しないで!****
実はRNF213の変異は珍しいものではなく、日本人の7人に1人に見られる、とてもありふれたものです。RNF213の変異は、「もやもや病が発症しやすくなる」遺伝子(感受性遺伝子といいます)であることを示していますが、変異があるだけで発症に直結する「原因遺伝子」ではありません。
RNF213の変異を持つ人はおそらく国内に1000万人以上もいて、ほとんどの人がもやもや病を発症しないのです(!)。変異があっても、もやもや病になるとはかぎりません。この遺伝子の変異に別の何らかの原因が加わって初めてもやもや病を発症すると考えられます。このことを正しく理解してください。

もやもや病の症状

もやもや病の主な症状は①脳虚血(脳血流不足による発作)と②脳出血です。時にはこれらに頭痛やけいれんといった症状が加わります。

①脳虚血

内頚動脈が狭くなっていくと、その先になんとか脳に血液を届けようとして網の目のような異常な側副血行路(そくふくけっこうろ)が発達します。しかし、これらの血管の発達にも限界があり、どうしても大脳が血液不足状態になります。 これにより、一時的に生じる「一過性脳虚血(いっかせいのうきょけつのうこうそく)発作」や、「脳梗塞(のうこうそく)」が起こります。

◎一過性脳虚血発作
脳の血液不足によって急に「手足が動かしにくい」、「手足や顔面がしびれる」、「うまく言葉が出ない」などの症状が起こり、数分~数時間で回復します。特に小児のもやもや病では、息が激しくなること(過呼吸(かこきゅう))によってこの発作が起こりやすくなります。

  • ラーメンやうどんなど熱い食べものを「フーフー」と吹く「吹きさまし動作」
  • リコーダーや鍵盤ハーモニカなどを吹く
といったことが"引き金"となります。このほか、歌を歌ったり、大笑いしたりして発作が起こることがあります。いずれも「いつもと違う息の仕方」になっているようです。
一過性脳虚血発作は、自然に治まるので軽く見られがちですが、脳梗塞の前兆発作というべきものですからあなどれません。


◎脳梗塞
血液不足により、脳の一部が死んでしまう状態です。脳梗塞による脳の傷は一生残ってしまいます。起こった場所や広さにより、手足の運動障害、言語障害などの症状が後遺症として残ります。範囲が広いと、とても重い後遺症になることもありますので、適切な治療を受け、脳梗塞の発症を何としても防がなくてはなりません。

②脳出血

脳の血液不足を補うためにできた側副血行路に長年の負担がかかり、血管の壁が傷んでしまい、破れて脳内で出血を起こします。「長年の負担」ということからも分かるように、小児には少なく、ほとんどは大人に起こります。出血によって初めてもやもや病と分かった人も、おそらく気づかなかっただけで、かなり以前からこの病気が進行していたと思います。

脳出血が起こる場所によって、手足の運動障害や、言語障害など、さまざまな症状が出ます。出血が激しいと意識を失い、生命に関わることもあります。脳出血はもやもや病による死亡や重い後遺症の最大の原因です。

しかも困ったことに、いったん出血するとその後の人生で何度も出血を繰り返すことが多く、再出血率は1年間当たり7%にも達します。計算上は5年間で30%、10年間で50%という高い確率で、また出血が起こることになります。

その他の症状

頭痛
もやもや病の患者さんの中には、頭痛を訴える人が多くいます。朝起きたときから頭痛があり、痛みは拍動性(心臓の鼓動に合わせてズキン、ズキン)で、時に吐き気を伴います。普通の鎮痛剤があまり効かず、起きて学校に行けない子どもいます。ただ、そのまま眠ってしまうと、次に起きたときには頭痛が軽くなっていることが多いのが特徴です。


けいれん
あまり頻度は高くありませんが、けいれん(ひきつけ)の発作で検査を受け、もやもや病と診断されることがあります。

診断と治療に必要な3つの検査

虚血型、出血型いずれの場合も、次の3つの検査が必要です。

1)MRIとMRA

MRI(磁気共鳴画像診断)で脳梗塞や脳出血の有無を調べます。またMRA(磁気共鳴血管造影)では脳血管の大まかな状態をチェックすることができます。

いずれも放射線や造影剤を使う必要がなく、体への負担がない検査ですが、ペースメーカーなど金属器具が埋め込まれている人は、その種類によっては検査を受けられません。また小さな子どもさんは狭い機械に入るのを怖がって泣いてしまうので、薬で眠ってもらう必要があります。

2)脳血管造影検査(カテーテル検査)

脳血管の詰まりや、側副血行として発達した異常血管の状態を詳しく調べます。入院が必要な検査ですが、もやもや病の治療方針を正しくたてるためには、どうしても必要な検査です。また後で説明する「バイパス手術」に必要な血管の情報を得るためにも必要です。

検査には30~40分かかり(準備や止血の時間を合わせると約1時間)、小さな子どもさんはじっとしていられないので薬で眠ってもらいます。

3)脳血流検査

脳血管の詰まり具合によって、脳血流がどれくらい減っているかを調べる検査です。虚血型はもちろんのこと、たとえ出血型でも脳血流不足のことが多くあり、とても大切な検査です。

図3 もやもや病の脳血流画像(SPECT)


一番よく使われるのはSPECT(スペクト)とよばれる検査で、微量の放射性薬剤を注射することで〈図3〉のように、 血液不足の場所や程度がよくわかります。薬は短時間で体の外に排出されますので、体への悪影響はありません。撮影には30分以上じっとしている必要があるので、他の検査と同じように、幼い子どもさんは薬で眠ってもらう必要があります。

そのほか、脳血流状態がより詳しく分かるPET(ペット)という検査もありますが、脳血流検査のためのPETが安定して稼働しているのは、少数の大病院に限られます。また動脈からの採血を繰り返し行う必要があるので、子どもに行うのは難しい検査です。

もやもや病の治療

現在の医学水準では、血管が狭くなって詰まっていくのを止めたり、元の形に戻したりすることはできませんが、「もやもや病によって脳梗塞や脳出血が起こるのを防ぐ方法」が長年研究されてきました。

①虚血型もやもや病の治療

薬による治療
脳の血液不足による症状が起こっている場合、抗血小板薬(こうけっしょうばんやく)という薬がよく用いられます。薬を飲むことで、血液が狭い血管の中を通り抜けやすくなり、また狭い部分で血液が固まり詰まってしまうのを防ぎます。
最もよく使われるのはアスピリンで、通常の解熱鎮痛に使う量の3分の1程度の少量で、効果を発揮します。最近では、シロスタゾールやクロピドグレルといった、他の種類の薬が使われることもあります。
多くの患者さんで一過性虚血発作の回数が減りますが、脳血流量を直接増やす作用はなく、薬のみでの治療には限界があります。

脳血流を増やすバイパス手術
そこで、脳血流を増やすために血行路をつくる「バイパス手術」が1970年代から始まり、これまでいろいろな改良が加えられてきました。虚血型もやもや病の患者さんが脳梗塞を起こすのを防ぐ効果が認められています。
脳血管の病気の治療指針である「脳卒中治療ガイドライン」や、もやもや病の治療指針「もやもや病診断治療ガイドライン」にも、虚血型の患者さんには適切なバイパス手術が薦められるべきであると書かれています。
バイパス手術には、頭皮の血管をはがして脳血管に直接つなぎ合わせる「直接バイパス」〈図4〉と、頭皮の血管や血流豊富な組織を脳表に置いて自然に血管が生えるのを待つ「間接バイパス」があります。いずれも全身麻酔をかけての開頭手術になります。

図4 もやもや病に対する直接バイパス


直接バイパスは、手術用顕微鏡を使って1ミリ程度の血管同士を縫い合わせる作業となり、とても繊細な技術を必要としますが、手術直後から脳血流が増え、さらに時間とともにバイパス血管が太くなってさらに血流が増えていきます。

一方、間接バイパスは手術が比較的簡単で、短時間ですむ利点がありますが、血管が生えて脳血流が増えるまでに時間がかかります。また子どもの患者さんではうまく血管が生えるのですが、大人では不十分なこともあります。そこで先に説明した二つのガイドラインには次のように書かれています。

  • 小児には直接バイパス・間接バイパスのいずれも効果がある
  • 成人では直接バイパスが薦められる

手術の技術や術後管理の方法の改良によって、もやもや病のバイパス手術はとても安全なものになりました。ただ全身麻酔も含め、特に子どものもやもや病の術後管理にはさまざまな「コツ」があります。また術後には脳血流が急に変化して不安定になり、高い頻度で一過性の症状が起こるので、脳血流検査を行いながら適切な対応をとる必要があります。

このため、もやもや病のバイパス手術は、多くの経験があり、もやもや病の手術中・術後管理に十分に慣れた病院で受けた方がよいと思います。

手術は通常、左右別々に行います(簡便な間接法の場合には、両側一度にやってしまう方法もあります)。左右どちらを先に治療するかは、起こっている症状や脳血流検査の結果を見て決めます。

最初の手術後、少なくとも1か月程度の間を置いて、反対側の治療をします。その数か月後に再度検査入院をして、脳血管造影でバイパスの状態を確かめ、脳血流検査で血流がどれだけよくなったかを確かめます。

この時点ではまだ抗血小板薬を飲んでいることが多いと思います。ただ、脳血流が改善して脳梗塞の危険が減り、外来で診ていてもずっと一過性脳虚血発作が起こらなくなれば、薬を減らし、最終的には服用を終わりにします。

多くの患者さんは左右の脳にバイパス手術を行うことで、脳血流がよくなって脳梗塞の発生率がとても低くなります。ただ時々、バイパスから離れた前頭葉とよばれる部分の先端部や内側に血流低下部が残ることもあります。

このような場合、これから脳が育つ乳幼児や、未就学児では、はっきりとした症状がなくても血液不足部分に追加のバイパス治療をお勧めする場合があります。

また、左右の手術をした後、後大脳動脈が狭くなって後頭葉とよばれる部分の症状(視野が欠ける)が出てくる場合もあり、その際にも後頭葉に追加のバイパス治療を考えることがあります。

②出血型もやもや病の治療:出血にもバイパスが有効か?

バイパス手術によって、虚血型もやもや病の患者さんのその後の経過はずいぶんよくなりました。しかし、問題は出血型です。このタイプの患者さんをどのように治療したら、高い確率でおこる再出血を減らせるのか、長年のあいだ分からずじまいでした。

ただ、かなり以前から、もやもや病の治療に従事する医師たちの中には「虚血型と同じようなバイパスをすると、出血の元である異常な側副血行路の負担が減って、出血が減るのではないか?」という考えがありました。

実際、虚血型の患者さんに直接バイパスを行った数か月後に脳血管造影をすると、網目のように発達した側副血行路が少なくなっていることがよくあるのです。負担を減らせれば出血防止に効きそうですが、一方で「今さら負担を減らしても、長年の負担で傷んだ血管からの出血は防げない」という可能性もあります。効果を証明するには、手術をした人としない人を同じ条件で長期間観察して比べなければなりません。

2001年から、日本でその研究が始まりました。日本(Japan)における成人(Adult)もやもや病(Moyamoya)に関する研究(Trial)の頭文字をとって、JAM・Trial(ジャムトライアル)と呼びます。

もやもや病の治療に精通した国内22か所の医療機関が参加し、大きな後遺症のない出血型もやもや病の成人患者さん80人の協力を得て、「直接バイパス」を受ける人と受けない人をくじ引きで決め(「無作為化比較試験」といいます)、5年間観察したのです。頻度の少ない病気であり、80人の患者さんを登録するのに2008年までかかりましたが、最後の1人が2013年に5年間の観察期間を終えて研究が終わりました。

結果は驚くべきものでした。バイパス手術を行わなかった人では32%でその後再出血発作が起こったのに対し、手術を行った人の出血率は12%にとどまりました。1年間あたりの出血率も手術なしでは7.6%、手術ありだと2.7%でした。

つまり、虚血型と同じようなバイパス手術を行うことによって、その後の再出血発作が約3分の1近くまで減らせることが分かったのです。この結果は2014年に世界に向けて発表され、出血型もやもや病の新たな治療法として注目されています。

****注意!*****
JAM・Trialは、出血型の患者さんにもバイパス手術の効果があることを示しました。ただし、注意しなければならない点があります。
  1. 出血予防効果が証明されたのは直接バイパスであって、間接バイパスの効果は不明です。
  2. 研究に参加した22施設はもやもや病の治療を数多く行ってきた病院であり、手術にあたった医師は熟練していて手術の合併症は極めて低く抑えられました。研究の結果がすべての医療機関に当てはまるわけではありません。
  3. この研究では「出血を起こして1年以内の患者さん」が対象となりました。すでに何年もたった患者さんにも効果があるのかどうかは、まだ分かっていません。
  4. 5年を超える長期の効果についてはまだ分かっておらず、現在追跡調査が行われている最中です。

日常生活で気をつけること

虚血型で手術が終わり、脳血流が十分よくなった場合、生活上の大きな制限はありません。体育やリコーダーなどを控えていた子どもさんも、多くが参加可能になります。最終的にはほとんどの子どもたちが水泳や持久走もできるようになります。

ただし打撃系の格闘技(ボクシングなど)やラグビーは、脳の強い振動や皮下のバイパス血管の損傷が起こる可能性があり、お勧めできません。また、最近の子供たちのサッカー熱はとても高いようですが、ヘディングを繰り返しても大丈夫なのかどうかは、よく分かっていません。


一過性脳虚血発作が長期にわたってなくなれば、抗血小板薬の服用も終了となります。そうなると病気のことをついつい忘れがちになりますが、日常生活では「脱水」が大敵です。水を1日何リットルと決めてがぶ飲みする必要はありませんが、こまめに水分補給して、「喉がカラッカラ」という状態は避けてください。サウナや岩盤浴は大量に汗をかくことが目的であり、こちらも避けてください。

成人で好ましくないのは喫煙です。ニコチンは脳血管を収縮させる作用がありますので、もやもや病の脳にとっては最悪です。お酒は適量であれば問題ありませんが、たくさん飲むのはお勧めできません。アルコールには利尿作用があり、トイレの回数が増えます。どうしても排尿で失われる水分の方が摂取水分より多くなってしまい、脱水症状を起こしやすくなります。

出血型の場合は、今後の再出血発作に十分な警戒が必要です。JAM・Trialの結果に基づいてバイパス手術を受けた場合も、そうでない場合も、きちんと血圧を管理し、定期的なMRIで小さな出血が知らない間に起こっていないか確かめておくことをお勧めします。突然の激しい頭痛、 吐き気、手足の運動障害など、頭の中の異変を疑う症状があれば、直ち に脳神経外科のある病院を受診してください。

もやもや病の長期予後

子どものもやもや病はほとんどが虚血型ですが、大きな脳梗塞が起こる前に見つかって、適切なバイパス手術が行われると、その後ひどい脳梗塞を起こすことはまれです。

京都大学と国立循環器病研究センターのグループが、ある時期にバイパス手術をした子どもたち58人のその後を9~33年間(平均18年間)追跡調査したころ、新しく脳梗塞を起こして後遺症が出たのは1人だけでした。

ただし成人後に出血型に変わった人が3人いました。つまり、手術をして落ち着いた状態になれば、脳梗塞を起こす心配はとても少なくなるものの、大人になってからの出血については、警戒しておかなければならないということです。

バイパス手術をしたのだから、出血防止のために特別できることはもうないと思われるかもしれません。ただ、高血圧を放置せずにきちんと管理することはできますし、頭に異変を感じたらためらわず直ちに病院を受診することで、たとえ出血があっても軽症ですむこともあります。

定期的にMRI検査を受けて、知らない間に小さな出血が起こっていないかを確かめることも大切です。

社会生活については8割以上の子どもたちが、その後通常の生活を送っていますが、2割弱は普通学級への就学困難、もしくはその後の就職困難を経験しています。診断が遅れ、手術治療を受ける時点ですでに脳梗塞が起こってしまっていると、その後の社会生活に影響するようです。早期の診断と適切なタイミングでのバイパス手術がとても重要です。

成人のもやもや病でも、虚血型では子どもと同じように、バイパス治療を受けた後の脳梗塞の発生率はとても低くなります。ただ、やはり時々出血型に変わる例があり、警戒しておかなければなりません。

また出血型の患者さんの場合、以前から何もせず経過をみられている方も多くいます。JAM・Trialの結果は最近出たばかりなので、当然のことです。もしも出血からあまり時間がたっていない場合、将来の再出血の率を下げるためにバイパス手術を考えた方がよい場合もありますので、もやもや病の診療に習熟し、多くの患者さんを診ている医療機関に相談してください。

おわりに

ほんの10年前まで、もやもや病の原因は全く不明で、虚血型にはバイパスが効くが、出血型には対処する方法がない、という状況でした。

この「知っておきたい循環器病あれこれ70号」(2008年)でも、もやもや病を特集しましたが、感受性遺伝子も未発見でしたし、JAM・Trialの結果も出ていませんでした。もやもや病診療に長年携わってきた医師として、今回8年ぶりに新しい冊子が出せることに、大きな意義を感じています。

もやもや病は日本で見つかった病気で、研究も治療も日本が常に世界をリードしてきました。今後研究がさらに進み、国内の患者さんたちの人生が守られ、さらに世界の患者さんたちが救われることを願っています。

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