ホーム > 循環器病あれこれ > [103] 脳梗塞が起こったら

[103] 脳梗塞が起こったら

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2014年3月1日 発行

国立循環器病研究センター
脳卒中集中治療科 医長
古賀 政利

脳梗塞が起こったら

はじめに

脳卒中は、脳の血管が詰まるか、それとも破れるかによって、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられています。

脳の血管が詰まるのが脳梗塞で、詰まるために脳の一部が死んでしまう病気です。脳出血や、くも膜下出血は、脳の血管が破れて血液が漏れだし、脳の組織が破壊される病気です。中でも多いのが脳梗塞で、脳卒中の4分の3以上を占めています。今回は脳梗塞に絞って取り上げます。

脳梗塞が起こると、右半身か左半身のいずれかに運動麻痺が起きたり、言葉がうまく話せなくなったり、意識がはっきりしなくなったりします。後遺症が残ることが多く、日常生活に手助けが必要になることも少なくありません。命を奪われることもあります。

こうした脳梗塞を避けるには、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの危険因子をしっかり管理し、禁煙や体重管理、運動など生活習慣の改善によって、脳卒中が起こらないようにすることが大切です。

もし、脳梗塞が起こったら、直ちに救急車で脳卒中が専門の病院を受診することで、その後の経過が良い方向に向かう可能性が高くなります。そのためには、脳梗塞が起こったことをまず疑うことが、とても重要です。

専門病院では、脳梗塞が起こってから間もない時間(4.5時間以内) に血栓(血のかたまり)を溶かす血栓溶解療法を行って、原因となっている血管の詰まりを改善させる治療や、血液をサラサラにするお薬で血栓をできにくくして再発を防ぐ治療を始め、さらに早期からのリハビリテーションなどの準備をします。

今回は、どのような症状から脳梗塞を疑うか、脳梗塞が疑われる場合にはどうするか、どのような治療を受けるかを中心に解説します。

覚えておきたい脳梗塞の症状

脳梗塞はどういう症状を伴うのでしょうか。それをよく知っておくことが大事です。

脳梗塞は「突然、意識を失って倒れる病気」と思っている方もいるようです。しかし、このようなひどい症状で発症するのは、ごく一部に過ぎません。ダメージを受ける脳の場所やその程度によって、これから説明する様々な症状が起こります。

代表的な症状を〈図1〉にまとめました。

脳梗塞で最も多い症状は、体の右半身か、もしくは左半身かに力が入らなくなるような運動麻痺です。つまり、急に半身の手足が動かなくなった場合には、脳梗塞の疑いが強くなります。特に、手足と同じ側の顔にまで麻痺が起こる場合は、その疑いはさらに強くなります。

次に多いのは、ことばの症状で、ほぼ半数の患者さんに出現します。この症状には、ろれつが回りにくくなる症状(構音障害)と、ことばを理解できなくなったり、言いたいことが言えなくなったりする症状(失語)の二つ種類があります。

ほかに多いものとして、歩けなくなる、意識が低下する、体の半分のしびれなどの感覚障害があります。めまいや吐き気・おう吐、片目もしくは視野の半分が見えにくくなるなども、脳梗塞が疑われる症状です。

こうした症状のうち、一つだけが出現することもありますし、いくつか症状が重複して出る場合もありますから注意が必要です。

症状の起こり方は?

脳卒中の症状は、突然現れることが多く、たいていは起こった時間がはっきりしています。

昼間から夕方の活動時に急におかしくなる場合、夜中にトイレに起きた時や、朝目覚めた時に異常に気づく場合、起床後しばらくして異常が起こる場合など様々です。

最初の症状がそのまま短い時間のうちに軽くなり、消えることもありますが(一過性脳虚血発作など)、様子をみているうちにどんどん悪化したり、他の症状が加わったり、いったんは消えた症状が再び現れて、こんどは元に戻らないこともあります。

脳梗塞が起こったら、どうするか

可能な限り早く専門病院を受診してください。それには、直ちに119番に電話して救急車を呼び、脳梗塞の専門病院で診てもらうことです。

重症の場合はもちろん、軽症と思われる時も救急車を利用してください。これは一刻も早く搬送するためであり、また途中で症状が悪くなる危険性もあるからです。

脳梗塞の最も効果的な治療は、脳梗塞が起こってから時間があまりたっていない時(早期)にしか行えません。効果があるかどうかに時間的な制約が関係していることをよく覚えておいてください。

特にt-PA治療(t-PAによる経静脈血栓溶解療法、後述)は、起こって4.5時間以内、カテーテル(細い管)を使用して詰まった血栓を除去する血管内治療は8時間以内の患者さんが対象となります。この限られた時間内に専門病院を受診し治療を受けられるかどうかが、その後の経過を左右するのです。

救急車が来るまでの対応も重要です。意識がある時には、すぐに周囲の人に助けを求め、できるだけその場で横になってください。立ち上がったり、歩いたりすると、脳への血流が悪くなり、脳の障害がさらにひどくなる恐れがあるからです。

周囲にいた人が呼びかけたり、体をゆすったりしても反応がない、もしくは反応が悪い場合は、倒れている人の気道がふさがらないようにし(気道の確保)、誤嚥(ごえん)を防ぐことが大切です。頭が前かがみ(前屈)にならないようにするため、枕は使わず、肩の下にバスタオルなどを敷いて、首を反らせ気味にすると、呼吸が楽になることが多いです〈図2〉。

おう吐しそうな時には、麻痺した側を上にして体を横向きに寝かせ、誤嚥や窒息を防ぎましょう。また、倒れている場所によっては敷物など に乗せて、処置や運び出しがしやすい場所に移し、救急隊に引き継ぐのがよいでしょう。

症状が軽くても、患者さん本人が運転して病院に向かうことは絶対にやめてください。途中で病状が悪くなったり、大事故を起こしたりする危険があるからです。

FASTを覚えよう

最近、簡単に覚えることのできるFAST〈図3〉という標語で、脳梗塞を含む脳卒中を疑うための「ACT-FAST(アクト・ファスト)キャンペーン活動」が展開されています。

これは脳卒中を強く疑うべき三つの症状、

 顔の麻痺(Face)、腕の麻痺(Arm)、ことばの障害(Speech)の頭文字を組み合わせたものです。Tは時刻(Time)の頭文字で、発症時刻(Time)のことです。三つの症状の有無と発症時刻を確認して、一刻も早く救急受診するよう呼びかけるスローガンです。

私たちもこの標語を用いて、「脳梗塞を疑い救急受診」する啓発活動を行っています。是非このFASTを覚えてください。

どんな治療法があるか

経静脈血栓溶解療法(t-PA治療)

現在、最も有効とされる治療法です。t-PA(組織型プラスミノーゲン・アクティベータ)という薬剤を点滴で投与します。治療を受けた場合、約4割の患者さんは、症状がほとんどなくなる程度まで回復することができます。〈図4〉

当初は、発症3時間以内の脳梗塞患者さんに限って使用されていましたが、その後、ヨーロッパを中心とした臨床試験で、発症4.5時間以内まで有効で安全に使用できることがわかりました。

日本でも2012年9月から発症4.5時間以内まで使用可能時間が延長され、この治療を受けることができる患者さんは3割程度増えています。

動脈内血栓溶解療法

詰まっている血管の手前までカテーテル(細い管)を入れて、そこでウロキナーゼという血栓溶解薬を注入します。中大脳動脈という血管が詰まった場合で、来院したときの症状があまり重篤ではなく、発症6時間以内の脳梗塞患者さんに有効とされています。

ただし、発症4.5時間以内に治療を開始できる患者さんには、t-PAが第一に選択される治療となっています。

血管内治療(メルシーリトリーバー、ペナンブラシステム)

t-PA 治療で効果がない場合や、t-PA 治療が行えない場合で、発症8時間以内の脳梗塞患者さんに、カテーテルを使って行う治療です。〈図5〉現在、コルクの栓抜きの形をした装置で血栓を絡め取る「メルシーリトリーバー」と、血栓を吸い取る「ペナンブラシステム」の使用が認可されています。特に内頸動脈などの大きな血管が詰まった脳梗塞では、発症早期に行えば治療効果が高いと考えられています。最近、網目の筒状の形をした「ソリテア」という新しい装置が承認され、今後臨床現場でも使用される見込みです。

抗血栓療法

動脈硬化が原因で起こる脳梗塞では、抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール、オザグレル)や抗トロンビン薬(アルガ トロバン)を、心房細動などの心臓病が原因で起きた脳梗塞では、抗凝固薬(ワルファリン、ヘパリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン)を早い時期から投与して、症状の進行や再発を防ぎます。

リハビリテーション

発症早期(可能であれば当日)から、麻痺がある手足の関節を無理なく動かす関節可動域訓練を行います。これは、麻痺のある手足を動かさないと関節が固まって、機能回復があまり期待できなくなるためです。

麻痺の程度にもよりますが、病状が安定していれば早期から座った姿勢(座位の姿勢)をとるように訓練をします。この場合、長い時間起こしても血圧が下がりすぎないことを確認してから行います。座位が安定すれば立つ(立位)訓練を始め、安定して立てれば歩行訓練へ進みます。

さらに起居・移動・更衣・整容(身だしなみを整えること)・食事・排泄など日常生活で必要な動作の訓練をします。

心のケア

脳梗塞が起きた患者さんは、麻痺やことばの障害などの症状、自分がいまどんな状況に置かれているかを受け入れるまでに、時間が必要です。

再発するのではないかとの不安も抱きます。不安や心配から、うつ状態になる患者さんに対しては、カウンセリングや薬物療法などを行うことがあります。

脳梗塞はチームで対応します

脳梗塞で入院した患者さんは、脳卒中集中治療室[Stroke CareUnit(SCU)やStroke Unit(SU)とも呼ばれる]などで、脳卒中の特徴をよく理解している多くの職種からなるスタッフ(脳卒中医療チーム)〈図6〉による検査や治療、リハビリテーションを受けるのが理想的です。この医療チームを構成する主なメンバーとその役割を紹介しましょう。

医師は、主に脳梗塞の診断と治療にあたります。また、危険因子といわれる高血圧、糖尿病、脂質異常症、様々な合併症の管理を行うことも重要な役割です。禁煙や飲酒の制限、適度な運動、体重管理など生活習慣の指導もします。

看護師は、主に医師の指示のもと治療を行い、治療が順調に進んでいるかどうかを確認し、症状はどうかなどを観察します。飲み込みの問題(障害)や動かないことによる体の機能の低下(廃用症候群)、床ずれ、排泄の問題(排尿障害)〈図7〉などをチェック、それらへの対応処置、薬剤管理など多くの役割を担っています。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、身体機能の評価やリハビリテーションを担当します。

薬剤師は、お薬の管理や情報提供、服薬指導をします。

放射線科は、必要に応じてレントゲン、CT、MRI、血管造影検査などを行います。

血液検査室は、文字通り血液検査を担当しますが、脳卒中の緊急治療ではできる限り早く検査結果が得られるかどうかが鍵となりますから、迅速に検査結果を得て、集中治療室に直ちに伝えることが必要です。

生理検査室は、心電図、頸動脈超音波検査、心臓超音波検査など脳卒中の原因を調べるための検査をします。

栄養士は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心臓病など危険因子や合併症、内服薬剤に合わせた食事内容や食生活習慣の指導にあたります。

医療ソーシャルワーカーは、患者さんやその家族の、経済的、心理的な悩みの相談を受けています。転院先、かかりつけ医、介護施設などの調整も担当します。

おわりに

繰り返しになりますが、脳梗塞の発症早期に最も効果の期待できる緊急治療を受けるには、症状を覚えておき、脳卒中ではないかをまず疑うこと、救急車を使って一刻も早く専門病院を受診することが大前提となります。

最近、小学生や中学生を対象としたACT-FAST授業も試みられています。あなたご自身だけでなく、お子さん、お孫さんを含めた家族みんなが脳卒中の知識をしっかり身につけることで、脳梗塞をすぐに疑い、早期の治療に結びつくチャンスが必ず高まるはずです。

 

最終更新日 2014年06月12日

ページ上部へ