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[127] 心臓と腎臓の深い関係 ─ 心腎連関症候群 ─

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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国立循環器病研究センター
高血圧・腎臓科
部長 吉原 史樹

心臓と腎臓は深いつながりが...

もくじ

  1. 心腎連関症候群とは
  2. 腎機能はどう調べるのか? 評価の方法は?
  3. 心臓と腎臓に深い関係があるのはなぜ?
  4. なぜ心臓と腎臓の深い関係が注目されるのか
  5. 心腎連関症候群の治療方法
  6. 急性腎障害の早期診断方法の進歩
  7. おわりに

心臓と腎臓のいずれか一方にトラブルが起こると、他の方にも影響してトラブルが起こることがあります。具体的にいいますと、急に心臓の働きが落ちた場合、その影響で腎臓の働きも低下することがありますし、逆に、急に腎臓の機能が低下した場合、二次的に心臓の働きも弱くなるといった場合です。

心臓の働きが弱まり、体に十分な血液が行き渡らなくなる心不全の患者さんに腎機能の低下も併せて起こると、生命への危機に陥るリスクが高まることが知られています。また、慢性腎臓病の患者さんは脳卒中や 心臓病を起こすリスクが高まることもわかっています。

さらに、糖尿病、血管炎、敗血症など全身に影響する病気にかかると、心臓と腎臓の機能が同時に低下することもめずらしくありません。

いま挙げた病気のうち、血管炎は血管壁が白血球などで攻撃される疾患です。体のすべての臓器は血管によって血液が運ばれ機能しているので、血管の炎症はさまざまな臓器の異常を引き起こすことになります。

敗血症は、体のどこかで細菌感染症が起きたとき(例えば肺炎など)、細菌が血液中に入って増殖し、毒素を作るので身体のさまざまな臓器の活動が維持できなくなった状態です。

このように病気で身体機能に異常が起こる場合、心臓と腎臓の間に深い関係がある状態を「心腎連関症候群」と呼ぶようになりました。今回は、この深い関係について解説します。

心腎連関症候群とは

米国で急性心不全の治療に携わる医師らが、腎機能が低下した患者さんには、なぜか心不全の治療がうまくいかないことに気づき、2000年頃から、救急医、循環器医、腎臓医らで研究グループを作り、原因を探ってきました。

初めの頃は心機能が低下すると、腎臓を流れる血液量が減り尿を作る能力が落ちるため、心不全の治療薬が効きにくくなるという単純な関係だと考えられていました。ところが現在はそのように単純ではなく、多くの場合、双方の臓器が互いに影響する、つまり双方向性の複雑な関係であることがわかってきました。

心腎連関症候群は、心臓や腎臓の機能低下が急速に起こる急性疾患と、徐々に低下する慢性疾患に分けて原因の究明や治療が試みられています。どのように機能が低下するかによって心腎連関症候群は次の5タイプに分類されています。

  • 1型:急に心機能が低下して、腎機能も急に低下する
  • 2型:ゆっくりと心機能が低下して、腎機能もゆっくりと低下する
  • 3型:急に腎機能が低下して、心機能も急に低下する
  • 4型:ゆっくりと腎機能が低下して、心機能もゆっくりと低下する
  • 5型:全身性の病気によって心臓と腎臓の機能が低下する

心臓と腎臓の関係を示す例として、心不全の患者さん3人のうち1人に中等度以上の腎機能の低下が起こることが知られています。さらに、急性心不全で入院、治療を受けた患者さんの2~3割が急性腎障害(短期間に血液検査の血清クレアチニン値が上昇する場合)を起こしていることもわかっています。このように心臓と腎臓の深い関係は決してまれではありません。

急性腎障害が起きやすい患者さんの特徴もわかってきました。心不全で入院した経験のある方や、糖尿病、慢性腎臓病、コントロール不良の高血圧などがある方は要注意です。

心腎連関症候群の話を進める準備として、まず腎臓の働きを調べる検査はどう行われているかについて説明します。

腎機能はどう調べるのか? 評価の方法は?

評価方法その1―腎機能に急な変化がない場合

腎機能は通常「eGFR」(換算糸球体濾過率)で調べます。これは聞きなれない用語かもしれませんが、最近の人間ドックや病院での血液検査結果にeGFRも表示されることが増えてきたので、皆さまの目に触れる機会もあるはずです。一言で言えば「腎臓が尿を作る能力」のことです。

長い間、血液検査で腎機能を調べる項目といえば「クレアチニン値」でした。ではなぜeGFRで表示するようになったのでしょうか?

体には大小さまざまな筋肉があり、常に分解と合成が行われて筋肉の構造や機能が保たれています。クレアチニンは筋肉が分解してできる物質の一つで、腎臓から排せつされます。だから腎臓の働きが弱まるとクレアチニンの排せつが減り、血清中にたまるので血清クレアチニン値は上昇します。

しかし、高齢者や重症の患者さんでは、筋肉の量が減っている場合が多く、分解産物のクレアチニンの量も少ないので、血清クレアチニン値の上昇は小さくなってしまいます。だから高齢者や重症の患者さんについては正確に判定できない場合が多いのです。

一方、eGFRはクレアチニン値以外に年齢、体重、性別なども考慮されていますから、より正確に腎機能を評価できるのです。

評価方法その2―急性腎障害の場合

eGFRは有力な検査ですが、注意すべき点もあります。重要なのは急性腎障害の評価には使えないことです。

なぜでしょうか。eGFRを求める計算式に使う血清クレアチニン値は、定常状態(数日間、急激な変化がない状態)であることが必要です。クレアチニン値が数日で明らかに変化しているような場合、その数値をもとに計算したeGFRは必ずしも腎機能を反映していないからです。このことは大切な点です。

そこで急性腎障害の場合、腎機能は主に短期間(数日)の一定の値、または割合を超えたクレアチニン値の上昇で評価します。

腎臓の機能検査の話が終わったので本題に戻ります。

心臓と腎臓に深い関係があるのはなぜ?

すでに説明しましたように心腎連関症候群には五つの型がありますが、ここでは最も研究が進んでいる「1型:急に心機能が低下して、腎機能も急に低下する」場合を中心に起こるメカニズムを説明します。

〈図1〉をご覧ください。大切なのは次の3点です。

  1. 左心室の機能低下に伴い生じる神経やホルモンの変化
  2. 心臓の拍出量低下に伴い生じる腎血流量の低下
  3. 右心室の機能低下に伴い生じる腎静脈圧の上昇

これらを順に説明します。

1. 神経やホルモンの変化

「左心室の機能低下に伴い生じる神経やホルモンの変化」とはどんな変化でしょうか。心臓の病気で急に心臓の働きが弱まった場合、体には生命を維持するため、脳や心臓といった重要な臓器の血流量を保とうと支援する「バックアップ機構」が作動します。

このバックアップの仕組みは、神経とホルモン、主に「交感神経系」、「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系」、「バゾプレッシン系」の三つで構成されています。専門的で難解と思われる方は「生命維持の ために三つのバックアップの仕組みが備わっている」ことだけ覚えてください。

バックアップの二面性

これらのバックアップ機構は、心臓の病気が起きたときに血圧維持、心臓の収縮力を高める、心拍数を増やすことなどを通じ生命を維持するために、極めて重要な役割を果たしています。

しかし、時間が経過するとともに、バックアップ機構の働きで逆に心臓の負担が増え、腎臓などの血流が低下し、長期的には寿命を縮める結果になることが知られています。

つまり、バックアップ機構が働くことで生き延びる可能性が高くなるのは非常にありがたいことですが、長期的にみるとその機構の働き自体が負担となってしまうわけです。

図1 心腎連関症候群1型が起こる仕組み

バックアップ機構を抑える薬は?

そこで、バックアップ機構の働きを抑える治療をすれば、長期的には寿命が延びるのではと考えられてきました。

現に、左心室の収縮能力が低下した心不全の患者さんにバックアップ機構の働きを抑える治療薬を投与すると、心不全の進行が抑えられ、寿命が延びることが明らかになっています。

その治療薬は〈図2〉のとおりです。難解な薬剤名が並んでいますが、どんな薬か名前だけでも知っていただければと思います。

図2 神経やホルモンによるバックアップ機構を抑制する薬物治療

2. 腎血流量の低下

次に、2番目の点「心臓の拍出量低下に伴い生じる腎血流量の低下」に話を進めます。

左心室の収縮能力が急に落ちると、心臓から全身に送られる血流量も減ってきます。この血流量の低下が腎臓の血流量低下の最も大きな原因となります。

しかし、治療によって左心室の収縮能力がよくなっても腎機能が改善するとは限らず、腎血流量低下以外の要因も腎機能の低下に関係すると考えられています。特に血圧が低くなると腎血流量とは無関係に腎機能が低下することが知られています。

収縮期血圧が100mmHg未満の急性心不全患者さんは決してまれではないので、急性心不全の場合、急性腎障害が起きないか注意が必要です。

3. 腎静脈圧の上昇

3番目の点「右心室の機能低下に伴い生じる腎静脈圧の上昇」について説明します。

最近の研究で、大静脈や腎静脈の圧が高くなると腎機能が落ちることがわかってきました。心臓の病気で全身から血液が戻ってくる右心室の機能が低下すると、全身の静脈に血液が停滞して足がむくんだり、腹水がたまり腹満感症状を伴ったりすることが少なくありません。こうした場合、腎機能の低下が起こる危険性が高まっていると言えます。

なぜ心臓と腎臓の深い関係が注目されるのか

急性心不全の治療中に急性腎障害を合併した場合、死亡リスクが1.6倍に高まることが報告されています。重い腎障害が起きると死亡リスクは3.2倍とさらにアップすることも知られています。

そこで、死亡リスクを下げるため、新しい検査や治療法の開発へのさまざまな取り組みが行われています。

心腎連関症候群のうち1型と2型について紹介します。

1. 心腎連関症候群1型

おさらいしますが、1型は「急に心機能が低下して、腎機能も急に低下する」タイプです。

この場合、すでに説明したように急性心不全治療中に急性腎障害が併せて起こると死亡リスクが高まりますが、すべての急性腎障害が死亡リスクを上昇させるわけではないこともわかってきました。ではどのような場合が要注意なのでしょうか。

急性心不全になると体液(血液、リンパ液など体内を満たす液体)が滞留しやすくなるので、体液量を適切にコントロールするため利尿薬が投与されます。この利尿薬による体液量コントロール中に血清クレアチニン値が上昇する、つまり急性腎障害が起こることが少なくありません。

利尿薬を投与すべきか控えるべきか?

そこで、急性腎障害を合併した場合、体液コントロールを優先して積極的に利尿薬を投与すべきか、腎障害抑制を優先して利尿薬投与を控えるべきかが問題になります。

このことを調査した研究によると、たとえ急性腎障害が起きたとしても体液のコントロールを十分にしておれば死亡リスクが下がることが明らかになりました。つまり、急性心不全治療中の急性腎障害の発症がすべて危険なわけではなく、体液のコントロールを優先させることが大切なのです。

2. 心腎連関症候群2型

2型の「ゆっくりと心機能が低下して、腎機能もゆっくりと低下した場合」の治療効果についても興味深い報告があります。

左心室の収縮能力が低下した心不全の患者さんにACE阻害薬(エナラプリルなど)〈図2参照〉が投与されると心不全の進行が抑制されることがわかっています。しかもACE阻害薬が投与されている場合はたとえ腎機能が低下しても、死亡リスクは下がることが明らかになっています。

〈図2〉で示したACE阻害薬(エナラプリルなど)やARB(ロサルタンなど)は、腎臓へ直接作用する降圧薬として知られています。これらは多くの患者さんに投与されており、「血圧による腎臓の負担を減らす薬である」ことだけは覚えておきましょう。

慢性腎臓病では多くの場合、「血圧による腎臓の負担」が大きく、これらの薬剤が負担を軽減して腎機能を保つ効果があることはよく知られており、腎臓専門医だけでなく一般内科でも多くの患者さんに処方されています。

慢性腎臓病だけでなく、腎機能が低下した慢性心不全患者さんにも、ACE阻害薬やARBを継続して投与することは重要です。ただし、これらの薬剤の投与や継続については患者さんによって病状が異なりますので、必ず担当医の指示に従ってください。

心腎連関症候群の治療方法

1型や2型では、多くの場合、心機能を改善させると腎機能も改善することが報告され、腎機能低下は早期診断と治療によって改善できるのではと期待されています。心機能を改善させる方法として補助人工心臓の効果が報告されています。

一方、腎機能が落ちると血液中にたまるクレアチニンを排せつしたり、血中の老廃物を濾過(ろか)する腎臓の能力(糸球体濾過率)を上昇させたりすることが可能な薬剤は現在のところありません。

しかし、薬物治療は心腎連関症候群にも重要で、ここでは利尿薬、ACE阻害薬、血管拡張薬など中心に説明しましょう。

1. 利尿薬

急性心不全の場合、利尿薬による体液量のコントロールは極めて重要ですが、腎機能に及ぼす影響はさまざまです。

利尿薬の投与で血管内の血液量が減少すると、心拍出量が減少する場合があります。このとき、腎臓の血流量も減るので腎機能が低下することになります。

一方、利尿薬によって体液量が減った結果、腎臓のうっ血状態が解消され、腎静脈圧が下がれば腎機能が改善することがあります。

つまり利尿薬による治療は腎機能の低下と改善の相反する結果をもたらす可能性があります〈図3参照〉

図3 利尿薬による腎機能への相反する結果

いずれの効果が得られるかを利尿薬の投与前に予測することは現時点では不可能ですが、どういった患者さんの場合、利尿薬の投与で腎機能が改善するかについて現在も研究が続けられています。

2. ACE阻害薬とARB

ACE阻害薬やARB〈図2参照〉は、左心室の収縮能力が低下した心不全患者さんの症状軽減、入院頻度の減少、生命予後の改善などの効果がはっきりしており、心不全患者さんにとって極めて重要な薬剤の一つです。

これらの薬剤は一般的にクレアチニン値を上昇させる傾向があります。さらに、投与量の増加に応じてクレアチニン値上昇の程度も大きくなることが知られています。

しかし、すでに説明しましたようにクレアチニン値の上昇にもかかわらず、これらの薬剤を継続すれば生命予後が改善されるので、心腎連関症候群の治療で重要な役割を果たしているのは明らかです。

3. 血管拡張薬

急性心不全の治療で、利尿薬だけを投与したグループと、ニトログリセリン製剤を併用したグループを比べると、併用したグループの方が急性腎障害を起こす頻度が高かったことが報告されています。

しかし利尿薬とニトログリセリン製剤の併用は一部の急性心不全患者さんに極めて有効な治療法です。ですから、腎臓をいかに保護しながら併用するかについて今後の進展が期待されています。

4. 強心薬

強心薬は心原性ショック[注]の際に投与される重要な治療薬ですが、心腎連関症候群にどのような役割を果たすか、どのような効果があるのかはまだよくわかっていません。

ただし一部の薬剤には腎機能を改善(腎糸球体濾過率の上昇)させる作用があることがわかっています。

[注] 心原性ショック 心筋梗塞などで心臓ポンプの働きが悪化、著しい血圧低下に伴ない、血液の供給が不十分となり、全身の臓器が危険にさらされる状態。

5. 血液濾過

血液濾過とは血液中の水分・老廃物・電解質を濾過膜によって除去する治療法です。利尿薬と血液濾過の効果を比較した研究では、血液濾過で治療を受けたグループの方が、利尿薬で治療を受けたグループよりも血清クレアチニン値が上昇しやすく、合併症の頻度も高かったと報告されています。

となると利尿薬の方がより効果があるように思えますが、利尿薬では体液量のコントロールが十分にできない場合もあり、この場合、血液濾過は極めて有効な方法です。

急性腎障害の早期診断方法の進歩

心腎連関症候群1型や2型では、いかに早く確実に急性腎障害と診断するかが鍵となります。

「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」が日本腎臓学会、日本集中治療医学会、日本透析医学会、日本急性血液浄化学会、日本小児腎臓病学会の5学会合同で作成され、2016年12月に出版されました。

これによると急性腎障害の診断基準は、一定の値以上の血清クレアチニン値の上昇、または尿量の減少を認めた場合となっています。しかし、急性腎障害が注目され始めた当初から、血清クレアチニン値の上昇や尿流量の低下が明らかとなるよりも早い段階、もしくは軽症の段階から身体への影響が大きく、診断基準を満たした段階では、既に治療のタイミングを逸している場合が多いと考えられています。

そこで現在では「尿中バイオマーカー」という腎障害を早期に、しかも鋭敏に診断できる方法が使われるようになってきました。

すでに「尿中肝臓型脂肪酸結合蛋白」(Liver-type Fatty Acid Binding Protein、略してL-FABP)が2011年8月、「尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン」(Neutrophil Gelatinase-Associated Lipocalin、略してNGAL)が2017年2月にそれぞれ健康保険の適用となりました。

いずれも急性腎障害の早期診断のマーカー(目印)として有効であるだけでなく、重症度の判定や生命予後の予測などにも参考にすべき検査方法と評価されており、今後、研究の発展が期待されています。

おわりに

心腎連関症候群や急性腎障害は最近になって注目されてきました。

心臓や腎臓といったそれぞれ単独の臓器の疾患でさえ、原因究明や治療方法の確立は困難ですから、心腎連関症候群という複数の臓器にかかわる病気の解明にはさらなる困難があることはおわかりいただけたと思います。

ただし、他の医療分野と同様、心腎連関症候群についても日進月歩で研究成果が報告されており、多くの患者さん方がその恩恵を受けられる日が遠くないことを願っています。

今回は診断・治療がまさに進行中の症候群の話で、内容がやや難解になったのではと心配しています。心疾患、腎疾患の患者さん、ご家族の皆さんが心臓と腎臓の深いつながりに関心を持ち、知っておくきっかけになれば幸いです。

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