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[110] 食塩と高血圧と循環器病

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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2015年5月1日 発行

帝京大学福岡医療技術学部医療技術学科長/教授
(国立循環器病研究センター 高血圧・腎臓科元部長)
河野 雄平

減塩すれば血圧下がる

減塩すれば血圧下がる

もくじ

はじめに

塩が自由に手に入らなかった昔、塩は貴重品でした。給料として支給されていたこともあったようで、塩(salt)は給料(salary)の語源になっています。

食塩は、よく知られているようにナトリウムと塩素が結びついた塩化ナトリウムです。ナトリウムは血液など細胞の外にある液体(体液)の主要な陽イオンで、体液や循環の調節に重要な役割を果たし、体に欠かせない物質です。

植物にはナトリウムがわずかしか含まれず、ゾウなどの草食動物は、岩塩や塩を含む土を求めて長い距離を移動します。

一方で、食塩が高血圧の原因になり、高血圧の予防や治療に食塩制限が大事だということは、みなさんよくご存じだと思います。しかし、現代人は必要以上に塩を摂っています。

日本人の食塩摂取量は以前から多く、最近は減少傾向にありますが、まだ世界的に見ると多い状態です。食塩の摂り過ぎは、高血圧をはじめ種々の健康障害をもたらすと考えられています。食塩を減らすと血圧が下がることも明らかで、高血圧治療ガイドラインでは、減塩が強く推奨されています。

残念ながら、高血圧患者さんの多くは、推奨されている食塩制限を守っていません。ここでは、食塩と高血圧や循環器病、食塩の必要量と摂取量や推奨量、さらに食塩制限のポイントとコツについて説明します。

食塩と高血圧

1)食塩摂取量と血圧、高血圧

食塩の摂り過ぎが高血圧の原因になり、高血圧の予防や治療には食塩制限(減塩)が重要であることは、ご存じですね。

図1 50年以上前の食塩摂取量と高血圧の有病率の関係

図2

約50年前は、日本の北部では食塩摂取量が1日30g近くもあり、高血圧の有病率は非常に高い状況でした〈図1〉。日本の南部では食塩は15g程度で、高血圧の頻度も半分ほどでしたが、米国の本土よりも多かったのです。一方、アラスカのエスキモー(イヌイット)の人たちは、食塩の摂取量は極めて少なく、高血圧はほとんどありませんでした。

1980年代に世界の約50の地域で食塩摂取量と血圧などを調べた研究(インターソルト研究)でも、摂取量が多い地域(中国や韓国、日本など)は血圧も高いことがわかりました〈図2〉。

図2 世界各地の食塩摂取量(尿ナトリウム排泄量)と血圧との関係(Intersalt研究から)

図2

この研究では日本の3か所で調査が行われ、食塩摂取量は富山、栃木、大阪の順に多いという結果でした。一方、南米のヤノマモ族は、食塩の摂取量は1日1g未満とごくわずかで、収縮期血圧(上の血圧)の平均は100mmHg未満と低く、高血圧の人はいませんでした。また、彼らは年をとっても血圧はほとんど上がりません。

食塩を大量に摂ると、正常血圧の人でも血圧が上がりますが、高血圧の人は、より上がりやすいことがわかっています。

食塩を摂ったときの血圧の上がりやすさは個人差が大きく、それには腎臓の機能(悪くなるにつれ上がりやすい)、年齢(高齢になるほど上がりやすい)、性(女性がやや上がりやすい)、人種(黒人は上がりやすく、白人はそうでなく、日本人はその中間ぐらい)、遺伝子(腎臓でのナトリウム排泄などに関係するいくつかの遺伝子)、レニンという血圧に関係するホルモンなどが関係しています。

2)食塩を制限すると

食塩を制限すれば、血圧は下がります。減塩の降圧効果は、私たちの研究を含め多くの研究で証明されています。

図3 食塩制限の降圧効果(DASH-Sodium研究から)

図3

ここでは、米国で行われたDASH-Sodium研究の結果〈図3〉を紹介します。食塩が1日約9gの食事に比べ、約6gの食事では血圧が低く、約3gの食事ではさらに下がっていることがよくわかると思います。

減塩による降圧効果には個人差がありますが、平均すると食塩を1日1g減らすごとに、高血圧の人で上の血圧は1mmHgくらい、下の血圧は0.5mmHgくらい下がり、正常血圧の人はその半分くらい下がります。

血圧が1mmHg下がるだけでは効果は小さいようにみえますが、平均的な日本人の摂取量である10~11gの食塩を摂っていた高血圧の人が6gにできれば、血圧は5mmHgくらい下がります。これは日本人全体でみれば、脳卒中などの予防に大きな意味があります。

また減塩の降圧効果は24時間中続き、最近問題となっている、夜間に高くなる夜間高血圧への効果が比較的大きいこともわかっています。

食塩制限は、血圧の薬を飲んでいる高血圧の人にとっても重要です。降圧薬を数種類使っても血圧がコントロールできない高血圧を、治療抵抗性高血圧といいますが、そのような患者さんも、厳重な食塩制限によって血圧が見事に下がることが報告されています〈図4〉。

図4 治療抵抗性高血圧の患者さんでの食塩制限(3g /日)による24時間血圧への効果

図4

また、血圧の薬には多くの種類があり、その半分くらいは、食塩が多いと効果がやや弱く、食塩を制限するとよく効きます。ですから減塩によって血圧が下がるのに加え、薬の効きもよくなりますので、薬が少なくてすみ、医療費も安くなります。

食塩と循環器病

食塩の摂り過ぎで血圧が高い状態が続くと、血管や心臓に負担がかかり、動脈硬化や心臓肥大が進みます。その結果、脳卒中や心筋梗塞、心不全、不整脈、動脈瘤、腎不全など、多くの循環器病が起こることになります。高血圧は循環器病の最大の危険因子です。

食塩は血圧を上げることによって循環器病を起こしますが、最近の研究では、食塩が血圧とは別に心臓や血管にも悪影響を及ぼすことがわかってきました〈表1〉。

表1 食塩の悪影響

表1

つまり、食塩摂取量が多い人は、血圧の影響を除外(補正)しても、冠動脈疾患や全心血管疾患の危険性が高く、総死亡も多いことがわかっています〈図5〉。わが国でも、血圧の影響を除いて調査すると食塩と脳卒中が関係することが報告されています。

図5 フィンランドでの食塩摂取量が少ない群(低塩食群)と多い群(高塩食群)の心血管死亡と総死亡の危険度の比

図5

また、北日本は南日本に比べて食塩摂取量が多く、血圧や脳卒中死亡率も高いことは、よく知られています。

食塩が多いと血圧が上がる影響以上に循環器病が増える理由として、食塩が直接、心臓や血管に悪影響を及ぼすことが考えられます。

例えば、培養中の細胞のように血圧が関係しない条件下でも、ナトリウムが多いと心筋の細胞は肥大します。また、アルドステロンという副腎から出るホルモンも関係しているようです。

このホルモンは食塩をためて血圧を上げるように働きますが、心臓や血管の肥大や線維化を起こします。この作用は、培養細胞では培養液のナトリウム濃度が低いと弱いのですが、ナトリウム濃度が高いと心筋細胞を著しく肥大させてしまいます。

さらに、食塩の摂取が多いと、カリウムやカルシウムが尿に多く出てきます。これらの欠乏も関係しているかもしれません。

ですから、食塩を制限すれば、血圧が下がるだけでなく、食塩自体がもたらす悪影響を抑えることになり、循環器病をかなり予防できると期待できます。

米国での試算では、全国民の1日の食塩摂取量が3g減れば、1年間の心筋梗塞が5万~10万人、脳卒中は3万~6万人減り、全死亡も4万~9万人少なくなり、医療費は1兆~2.5兆円少なくなるとされています。食塩摂取量が多い日本でも同様の効果が期待できるでしょう。

食塩とその他の病気

食塩の摂り過ぎは、〈表1〉のように多くの病気にも関係しています。

食塩が多いと、腎臓に石ができる腎結石になりやすく、骨が弱くなる骨粗鬆症も起こりやすくなります。

なぜでしょうか。食塩を多く摂ると腎臓から食塩の成分であるナトリウムが尿の中に多く出て、その一部はカルシウムに置き換わり、尿のカルシウム量が増えることになります。尿のカルシウムが腎臓の中で固まれば石になりますし、尿へのカルシウムは血液や骨から出てきますので、骨量が減ってくるわけです。

実は食塩は胃がんにも関係しています。食塩摂取量が多いところは胃がんも多い理由として、胃潰瘍や胃がんの原因になるピロリ菌という細菌が、塩分が多い環境では増殖しやすいことが考えられます。さらに、食塩は喘息にも悪影響があるかもしれません。

このように、食塩の摂り過ぎは、高血圧だけでなく多くの病気の原因となり、健康に悪影響を及ぼします。したがって、高血圧の人だけでなく、血圧が正常な人も食塩を制限することが望まれます。

食塩の量はどれぐらいが?

1)食塩の必要量と摂取量

人間の食塩摂取量は、石器時代には1日1~3gだったと考えられ、現在でも、塩を手に入れることができない南米のヤノマモ族は、すでに説明しましたように1g未満の食塩で暮らしています。ですから、食塩の必要量は1日あたり1g程度で、3gも摂れば十分ではないかと思われます。

ところが、製塩の普及や、塩が食物の保存に役立つことから、食塩の摂取(消費)量は増えてきました。約50年前は日本北部では食塩摂取量が1日30g近くと極めて多く、日本南部ではこれより少ないものの15g程度でした。

その後は、冷蔵庫の普及や食生活の欧米化に伴い、日本人の食塩摂取量は減少傾向にありますが、まだ他国に比べ多い状況が続いています。

15年ほど前に、日本、中国、米国、英国のいくつかの地域で行われたインターマップ研究でも、日本と中国が米国や英国より食塩が多いという結果でした。この研究では、日本での食塩摂取の元は、醤油が最も多く、次いで漬け物、みそ汁、魚(塩蔵)、家庭や外食での塩という順番でした。

図6  最近の日本人の食塩摂取量

図6

日本人の食塩摂取量については、厚生労働省による国民栄養・健康調査があります。最新のデータは平成25年(2013年)のもので、1日平均10.2g、男性は11.1g、女性は9.4gでした。平成15年(2003年)は平均11.7gでしたので、10年間で1.5g減ったことになります〈図6〉。近い将来、日本人の1日の平均食塩摂取量は10g未満になりそうです。

摂取量を地域別にみると、やはり北日本が南日本より多く、平成24年(2012年)は岩手県が最多で(男性12.9g、女性11.1g)、沖縄県が最少(男性9.5g、女性7.8g)でした。男性が女性より多いのは、男性が特に食塩を好んでいるわけではなく、体格がよく、食べる量が多いからです。

2)食塩の推奨量

① 一般の人

厚生労働省による、一般の人の食塩摂取量の目標値は、以前は1日10g未満でしたが、2010年に男性9g未満、女性7.5g未満となりました。

「日本人の食事摂取基準2015年版」のとりまとめの際、私も検討会のメンバーでしたが、目標値はさらに引き下げられ、男性8g未満、女性7g未満となりました〈表2〉。しかし、まだ大部分の日本人はこれを超えています。

表2 食塩の推奨摂取量

表2

米国心臓協会(AHA)のガイドラインでは、一般の人にも6g未満を勧めています。また世界保健機関(WHO)は、2025年までに、世界の人の食塩摂取量を1日5g未満にすることを提唱しています。

② 高血圧の人

高血圧の人については、日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインは、2000年版では1日7g以下でしたが、2004年版以後は6g未満を推奨しています。昨年改訂された2014年版でも同じです〈表2〉。

欧州のガイドラインは、日本とほぼ同様で6g未満ですが、米国では4g未満と、さらに厳しい食塩制限を勧めています。

しかし、食塩の制限が必須の高血圧の人も、なかなか守れていないのが現状です。8年前の私たちの調査では平均8.8gで、日本人の平均より少なかったのですが、6g未満に制限している人はわずか10%でした。このように、日本人の食塩摂取はまだ多く、高血圧の人も食塩制限をあまり守っていません。

食塩制限のポイントとコツ

高血圧の人はもちろんですが、そうでない人も高血圧予防のために減塩生活をお勧めします。減塩の実践には、家庭での調味料とともに、加工食品や外食への注意が重要です〈表3〉。

日本人の食塩摂取は、現在では家庭での調味料からよりも、加工食品や外食によるほうが多くなっています。また、摂取される食塩量は塩分の濃度×食べる量になりますので、食事の量にも注意を要します。

調味料については、塩分の多さは塩、醤油、味噌、ソースやケチャップの順です。日本人の食塩摂取は、醤油からが最も多く、塩がその次ですので、これらをまず減らすことが大切です。

調理では小さな計量スプーンを使い、使う量を正確に量るとよいでしょう。減塩の醤油や塩を用いるのもお勧めです。味噌もあまり多くは使わないほうがよいでしょう。

ソースやケチャップ、ポン酢は、塩分は比較的少ないですが、量に注意してください。酢や胡椒、唐辛子などの香辛料は、食塩を含まず、血圧への悪影響はありません。

国立循環器病研究センター(国循)は、素材の旨みや天然のだしを活かした美味しい減塩食を開発し、その普及に努めています。国循の入院食は以前より1日6g未満でしたが、栄養士さんや調理師さんの工夫でおいしい食事になっています。

この入院食のレシピは、「国循のおいしい!かるしおレシピ」として出版され、とても好評で続編も出ました。他に、牛乳を使った「乳和食」なども考案されています。減塩食は味気ないというイメージがありますが、おいしければ家族全員で続けられるのではないでしょうか。

加工食品では、食塩が多いものは避けるか、少量に留めるようにしましょう。また、食品中のナトリウム量と食塩量の表示には注意しましょう。ナトリウム量で表示してある場合には、その2.5倍が食塩の量になります。近い将来、ほとんどの食品について、ナトリウム量とともに食塩相当量が表示されると思います。

外食のメニューも一般に食塩が多く、麺類や鍋物はスープを飲むと、かなりの食塩を摂ることになります。最近は、多くの減塩の加工食品が市販されるようになり、減塩のメニューを供するレストランも増えてきました。

食塩摂取は欧米が日本より少ないように、一般的には和食より洋食のほうが食塩は少量です。パンにも食塩は含まれますが、朝か昼をパンと牛乳あるいはジュースにすれば、食塩は1~2g程度です。ご飯とみそ汁、塩魚、漬け物といった食事より、はるかに食塩は少なくなります。

高血圧の患者さんにとって、自分がどのくらい食塩を摂っているかが分かれば、食生活の大きな参考になるはずです。

1日6g未満に抑えるよういわれても、どれだけ摂っているかよく分かりませんよね。食塩を制限しているつもりでも、実際は多く摂っている人が少なくありません。そこで実際の食塩摂取量がどの程度か調べてもらうことをお勧めします。

食塩摂取量は、尿の検査や栄養士さんに調べてもらうことによってわかります。最近は、夜間の尿で簡便に調べることができる塩分摂取量測定器も開発され、家庭でも食塩摂取量を推定できるようになりました。

表3 食塩制限についての留意点

おわりに

食塩と高血圧や循環器病の関係や、食塩制限の大切さ、さらに減塩のポイントを説明しましたが、おわかりいただけたでしょうか。

もう一度繰り返します。食塩の摂り過ぎは、高血圧や循環器病だけでなく、腎結石や骨粗鬆症、胃がんなどのリスクを高めます。食塩制限は高血圧の治療だけでなく、予防にも重要で、血圧が正常な人も、また子どもたちも含め、しっかり守ることが望まれています。

日本人の食塩摂取量は減少傾向にありますがまだ多く、高血圧の患者さんも減塩を守っていない場合が少なくありません。それでも、最近では減塩の機運が高まり、減塩食品が増えてきました。また、日本高血圧学会(私は減塩委員会の委員長を務めています)や国循、他にも多くの団体が減塩活動を展開しています。

循環器病を予防し健康寿命を延ばすために、ぜひ、おいしい減塩食を取り入れ、続けていただくことをお勧めします。

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