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[97] 脚の静脈の血行障害-静脈瘤

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2013年3月1日 発行

医療法人 松尾クリニック
理事長 松尾 汎

もくじ

足か脚か肢か

からだの「あし」を漢字で表すとき、多くの方が「足」と書かれるはずです。「脚」と書かれる方、もしくは「肢」と書く方もいらっしゃるかもしれません。では「足」「脚」「肢」はどう違うのでしょうか?

手元の漢和辞典や用字用語辞典で調べると、「足」は「一般用語。主に足首から先の部分」、一方、「脚」は「主に太ももから下の部分」、「肢」は「手と足。てあし」とあります。

この冊子のテーマは、太ももから下の部分の静脈に起こる血行障害ですから、「あし」は「脚」と書くことにします。

まず、血液循環の仕組みから説明しましょう。

動脈と静脈

血液が循環する経路には、動脈と静脈があります。

心臓から臓器まで酸素や栄養を運ぶ経路が「動脈」で、いわば「上水道」にあたります。臓器から炭酸ガスや老廃物を心臓まで運ぶ経路が「静脈」で、「下水道」にあたります。これら動脈・静脈の不具合で、種々の循環器の病気が起こります〈図1〉。

動脈は、心臓の鼓動に応じて拍出した血液が、どくっ、どくっと脈打って流れているので、動脈の脈拍を触れることができます。動脈が弾力性に富んでいることもあって、力強い拍動になるのです。

しかし、静脈の方はどうでしょう? 心臓が、静脈の血液を吸引して、戻す作用はわずかしかありません。動脈の流れが静脈を「押し上げる力」として働くほか、呼吸することが圧力となって静脈の流れを助けています。

さらに、「重力」も影響し、たとえば心臓より高いところにある静脈の血液は、重力によって心臓へ戻ることができます。しかし、心臓より低いところの血液は、どうして心臓へ戻ることができるのでしょう?

図1 代表的な循環器病

静脈の循環「ふくらはぎ」が第2の心臓

静脈の循環に深くかかわっているのが、静脈内の「弁」と、ふくらはぎ(下腿)の「筋肉」です。

静脈には、筋肉の外側に位置し、体の表面近くにある「表在(ひょうざい)静脈」と、体の表面より深く、筋肉に囲まれた「深部静脈」があり、両方は「交通枝(し)」と呼ばれる静脈でつながっています〈図2〉。

図2 脚の静脈=表在静脈(大伏在(ふくざい)静脈+小伏在静脈)+交通枝+深部静脈

静脈の内側には静脈弁があり、足先に向かうほどその数が多くなります。弁は、静脈血が一方向にしか流れない"逆流防止構造"になっており、末端から心臓へ、表在部分から深部の方向へ流れるようになっています。

〈図3〉を見ていただきながら説明しましょう。

安静時には、静脈はゆったり心臓の方向へ流れています。弁の働きで、逆流しません。筋肉が収縮すると(筋収縮時)、筋肉の静脈内の血液が絞り出されて心臓に向かい、逆に筋肉が緩んだ時(筋弛緩(しかん)時)は、弁が閉じ、心臓方向から逆流しないようになっています。

図3 脚の静脈の流れ(筋肉がポンプの働きをしている)

静脈瘤とは?動脈瘤との違いは?「エコノミークラス症候群」との関連は?

さて、ここからが今回のテーマの静脈瘤(りゅう)の話です。

静脈瘤とは、静脈が伸びて、曲がって、数珠(じゅず)玉のように膨れた状態(屈曲・蛇行)のことで、主に表在静脈にできます。瘤とは「こぶ」のことで、膨れた状態が「こぶ」のかたちに似ているので、こう呼ばれています。

動脈にできる動脈瘤は、動脈の一部が膨れてこぶ状になっていますが、静脈瘤では、一部が膨れてこぶ状になるのはまれで、ほとんどの場合、数珠玉状に膨れています。その違いを〈図4〉に示しています。

図4 静脈瘤と動脈瘤の典型的な形

「エコノミークラス症候群」という病気を聞かれたことがあると思います。これは深部にある静脈に血栓(血の塊)ができて詰まり、脚が腫れたりする「深部静脈血栓症」や、その血栓が肺の動脈に飛んで、呼吸困難やショックを起こす「肺塞栓症」を引き起こす病気です。

飛行機やバスなどに乗って長時間、座ったままの姿勢でいると、静脈内の血液が滞って(「うっ滞」と言います)血が固まり、血栓ができるために起こるのです。

なぜ脚にできるのか?

静脈瘤が脚に起こりやすいのは、足が心臓から遠い位置にあることや、人が立って生活していることが関係しています。足の静脈の中の血液が心臓に戻るには、重力に逆らって上昇しなければなりません。その役目を「静脈弁」と「ふくらはぎの筋肉」が担っていることはすでに説明しました。

そこで、弁が壊れたり、弁の機能が悪くなったり、筋肉のポンプ作用が落ちたり、さらに静脈の壁が弱くなったりしたら、どうでしょう?

静脈内にある血液はたまる一方で、静脈の壁にかかる圧力(静脈圧)が高くなっていきます。静脈の壁はそんなに強くはありませんので、伸びたり、曲がったり、膨れたりして静脈瘤となってしまうのです。

特に、表層にある表在静脈を支える組織は強くありませんので、静脈は膨れやすくなっています。

では、静脈瘤ができるのにどのような因子が関係しているのでしょう?関連する因子としては、高齢者、女性、妊娠、肥満、便秘、そして立ち仕事の多い人などが挙げられています〈表1〉。

これらが静脈壁をもろくしたり、静脈圧を高めたり、弁の機能障害をもたらしていると考えられています。また遺伝的な素因も関係があるとされています。立ち仕事や妊娠なども関係しているので、女性に起こりやすいといえます。

どんな症状?

静脈瘤には何も症状もないことが多いのですが、足がだるい、重い、腫れる、かゆみ、痛みなどの症状が出ることがあります〈表2〉。

静脈瘤に併せて、皮膚の色調異常(色素沈着)、発疹、皮膚潰瘍(かいよう)などもみられることがあります。その他に、こむら返りが生じたり、足のむくみの原因になったりすることもあります。

静脈瘤が太いから症状がきついとか、細いから症状がないという訳ではありません。太く長くても、まったく症状がなかったり、クモの巣状の細い静脈瘤でも、痛みを伴ったりすることがあります。

長く立っていたり、じっとしている時間が長かったりしたとき、静脈圧が上がって症状が悪化し、逆に脚を上げたり、ふくらはぎをもんだりすると症状が軽くなる傾向がみられます。

こうした症状は、静脈のうっ滞(滞り)の影響で、静脈が拡張して悪化し、もんだりして拡張をやわらげると、静脈圧が下がることで症状が軽くなります。

診断はどうするの?

静脈瘤は「脚をみればわかる」ので、診断は簡単そうですが、実は見えないところに隠れている病気が原因・誘因になっていることがあり、これを見逃さないことが大切なのです。

どんなタイプの静脈瘤が、どこにあるのか(部位と広がり)、そして瘤の原因が何かを判定することがかぎとなります〈図5〉。

図5 診断

そのためには、まず静脈瘤が起こっている静脈の部位が、脚の付け根のところ(鼠径(そけい)部)にある静脈(大伏在静脈)か、膝の裏のところにある静脈(小伏在静脈)か、またはそれら以外の静脈(骨盤内や副伏在静脈など)なのかを判定します。〈図2〉を再度、参考にしてください。

次に、その静脈が逆流しているかどうかをチェックします。太ももにゴムを巻いて調べたり、ドプラ血流計と呼ばれる血流計で検査したりする方法もありますが、最近は超音波検査で調べることが多くなっています。

その理由は、直接、静脈の太さ・形や血流状態(逆流の有無)を判定できるからです。さらに、深部静脈の状態も併せて検査できること、また動脈と静脈とが直接つながる病気(「瘻(ろう)」といいます)や、交通枝(表在静脈と深部静脈のつながった部分)の機能異常を調べることができます。

静脈瘤の種類と原因

すでに説明したことと、少し重複するかもしれませんが、ここで静脈瘤の種類と原因を整理しておきます。〈表3-a〉と〈表3-b〉を見てください。

静脈瘤が、静脈壁や弁、交通枝の異常によって生じた場合を「一次性静脈瘤」と呼び、静脈血栓症後や、動脈と静脈がつながる瘻(ろう)によってできた場合を「二次性静脈瘤」と呼んでいます。

〈表3-a〉のように静脈瘤のできている部位によって、四つのタイプがあります。

図6 二次性静脈瘤の病態

一番目は、表在静脈で最も太い本管が拡張した「伏在静脈瘤」、次いでその枝が拡張したのが「側枝(そくし)静脈瘤」です。三番目は、それより表層に近く、径が3mm程度の小静脈が拡張した「網目状静脈瘤」(青色になる)。四番目が最も皮膚の表層にできる径2mm未満の「クモの巣状静脈瘤」(赤色が多く、痛みを伴うこともある)です。

原因は、〈表3-b〉のように、静脈弁の働きが悪くなる弁不全、静脈の壁がもろくなった場合、動脈と静脈がつながる瘻(ろう)ができた場合があります。

図6 二次性静脈瘤の病態

すでに説明しましたように深部静脈血栓症の後遺症として、静脈瘤ができることもあります。深部静脈が詰まると、表在静脈が無理やり、血液の「心臓へ帰るルート」(バイパス経路)にならざるを得ず、静脈瘤ができやすくなります。これが二次性静脈瘤です。〈図6〉は、二次性の状態を示しています。

静脈瘤は放っておいてもよいか?

一次性の場合、静脈瘤のために脚の切断となったり、生命に支障をきたしたりすることはまずありません。しかし、静脈瘤による痛みやかゆみなどの症状に悩まされることや、外見上(美容面)の問題から、治療の対象となります。

感染や炎症が起きたり、血栓ができたり、かゆみでひっかいたり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)(急性の化膿性炎症)を起こしたりしたときも治療が必要になることがあります。けがをして、それがかゆみや蜂窩織炎などのきっかけになることがあります。

こうした症状がかなり長期間続いていると皮膚がもろくなり、出血しやすくなってしまい、大出血をきたすことがまれにあります。日頃から悪化させないようにし、かゆみやけがなどを、軽くみないことです。

よく尋ねられる質問に「静脈瘤があるとエコノミークラス症候群を起こすのでは?」があります。起きる確率はそんなに高くはありません。しかし、静脈に血液のうっ滞が起きやすいことは、血栓ができる誘因になる場合があるので、長時間、座って旅をするといったときは、できるだけ脚を動かし、血液の循環をよくするよう心掛けることが大切です。

どんな治療があるの?

治療法には「圧迫療法」「硬化療法」「結紮(けっさつ)術」「引き抜き手術(ストリッピング手術)」などがあり、最近ではレーザーを用いた治療も行われています〈表4、表5〉。

表4 静脈瘤の治療法 表5 静脈瘤の治療選択

基本となるのが「圧迫療法」です。圧迫は、少し圧のかかったストッキングを履くことによって行います〈図7〉。市販されているサポートタイプストッキング(圧迫圧は弱いが、ファッション性に優れる)から、治療用の弾性ストッキング(中圧、強圧などがある)まであります。

圧迫圧は足首の部分の圧が最大(100%)で、太もも側に段階的に低くなる(太もも上部では40%程度)ようにしてあります。サイズがSSからLLまで、形状もハイソックス、ストッキング、パンティストッキングがあり、目的によって使い分けていますが、ハイソックスが基本的です。

その理由は、ふくらはぎの"第二の心臓"としての働きをサポートすることが大切だからですが、太ももに静脈瘤がある場合などでは、ストッキングを使います。

伏在静脈瘤での通常の圧迫圧は、足首のところの圧で20~30mmHgですが、表在型の静脈瘤ではより圧迫圧を軽くします。しかし、静脈血栓症後など二次性で起こりやすい皮膚潰瘍・色素沈着などには、圧迫療法が主な治療法となりますので、より強い圧での圧迫が必要になります。

〈図7〉の「圧迫圧と適応」を参考にしてください。

なお、圧迫療法は静脈瘤を消失させる治療法ではなく、静脈瘤の悪化予防、また治療後の再発予防などに効果があります。立っていることが多い人の場合では、基本的な治療法として圧迫療法を続けることが大切です。

積極的な治療が必要なときは?

症状が強い方、気になって悩んでいる方、タイプが伏在静脈瘤などの場合は、積極的に治療するようにします。

薬剤を使って静脈を閉じ、血液が流れないようにする「硬化療法」は、網目状や側枝静脈瘤の場合に行います。しかし、太い静脈にできる伏在静脈瘤では、静脈の血管をしばって血が流れないようにする「結紮術」と併せて硬化療法をしたり、"瘤"になって不要となった静脈を引き抜いてしまう「引き抜き手術」(ストリッピング術)をしたりします。いずれも、最近は日帰り手術ですみ、経験豊富な専門医が行えば、極めて安全な手術といえます。

図7 弾性ストッキングの特徴

最近では、伏在静脈に弁不全が起きた一次性静脈瘤には、レーザー治療が行われるようになりました。しかし、レーザー治療ができる施設は、レーザー実施医と指導医がいて、脈管専門医なども常勤している施設に限定されています。さらに血管を観察できる超音波検査装置があり、手術設備も必要とされています。

いずれにしても、静脈瘤は決して重篤な病気ではありません。しかし、日常生活の行動を支えてくれる大切な脚の病気です。脚が気になったり、症状が強かったりしたときは、その症状が静脈瘤と関係があるのか?関係があれば、どうしたらよいのか?どのような治療が適切なのか......などについて、ぜひ専門医にご相談ください。

最終更新日 2014年03月12日

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