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[89] 足の血管病 閉塞性動脈硬化症

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

─ 症状と治療法 ─

元国立循環器病研究センター
心臓血管内科部門・血管科 医師
岡島 年也

一生涯、自分の足で歩く

一生涯、自分の足で歩く
もくじ

動脈硬化が起こるのは、足へ流れる動脈も例外ではありません。足の動脈硬化で問題となるのは、閉塞(へいそく)性動脈硬化症(ASO)です。この冊子では、閉塞性動脈硬化症の患者さんだけでなく、家族の方にもぜひ知っていただきたい点をまとめました。

まず知ってほしいのは、足の動脈に動脈硬化がある場合、心臓や脳の血管にも動脈硬化による病変が起きていることが多いという事実です。

つまり、足の血管病とわかったら、足の動脈だけでなく、ほかの血管にも目を向けて治療したり、予防したりする必要があります。『木を見て森を見ず』ということがあってはならないのです。

閉塞性動脈硬化症(ASO)とは 

主に足(下肢)の動脈に動脈硬化が起こり、狭くなるか詰まるかして、足を流れる血液が不足し、それによって痛みを伴う歩行障害が起きる血管病です。重症の患者さんは、足を切断しなければならない場合もありますから、あなどれません。

(注)閉塞性動脈硬化症(ASO)は、Arteriosclerosis...obliteransの略

症状は? 

歩行障害が最も典型的な症状で、間歇性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれています。難しい用語ですが、この血管病の診断、治療の際、よく出てきますので覚えておいてください。

「間歇性」とは、間隔をおいて、起きたり、起きなかったりすること。「跛行」とは、びっこを引くという意味で、「間歇性跛行」は、歩くことで起きたりやんだりする歩行障害のことです。

この歩行障害は、閉塞性動脈硬化症患者さんの約30%に起こります。歩行をはじめ下肢の運動を行うことで、下肢(股関節から足首まで)特にふくらはぎに疲れ、だるさ、痛み、こむら返りなどの症状が起こり、歩行が困難になります。

ただし、こうした症状は、10分ほど休むと、軽くなるか、なくなります。ふくらはぎに起こることが多いのですが、おしりや太ももに生じることもあります。

間歇性跛行を伴う足の血管病は、ほかにも数多くありますので、この歩行障害だけで、確実に診断することはできませんが、閉塞性動脈硬化症の場合は①一定の距離以上、歩いたときに歩行障害が起こりやすい、②症状が毎回、同じように出てきやすい、のが特徴といえます。

足に冷たい感じやしびれを伴うこともありますが、これらは背骨の異常などによる神経障害が原因のときもあり、整形外科もしくは神経内科での精密検査が必要な場合もあります。

図 閉塞性動脈硬化症患者の生存率

なお、閉塞性動脈硬化症は、他の血管疾患を合併している場合もあり、胸に痛みなどの自覚症状(狭心症)や、身体の片側の運動麻(ま) 痺(ひ) (片麻痺、一過性脳虚血発作)が起きなかったかなどを確かめることも大切です。

閉塞性動脈硬化症の患者さんは、人口の1割以下ですが、70歳以上になると約20%に達するといわれ、高齢者に多い血管病です。

この病気は、5年の経過で約20%が歩行障害(跛行)の悪化、約10%が足の動脈の血液不足が深刻になる「重症下肢虚血」となるものの、足の切断にまで至るのは数%で、予後は比較的よいようにも思えます。

しかし、すでに説明しましたように、他の動脈疾患(冠動脈疾患:約50%、脳血管疾患:約20%)を合併する可能性があるため、閉塞性動脈硬化症の患者さんは、5年後には約20%が心臓や脳の血管疾患を発症し、このことが原因で約15%が死に至るといわれていますから、軽くみるのは禁物です。

これらの合併疾患が閉塞性動脈硬化症の主な死因になっていますから、足の血管病とわかったら、他の血管疾患は大丈夫かを念頭においた診療や日々のケアが重要です。

〈図〉は、閉塞性動脈硬化症の患者さんを追跡調査して生存率を見たものです。やはり「間歇性跛行」や「重症下肢虚血」がある場合は、生存率に大きく影響します。この点もよく知っておいてください。

危険因子は何か

閉塞性動脈硬化症の下地となり、悪化させる危険因子はなんでしょうか。喫煙、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、慢性腎不全などです。

喫煙者が閉塞性動脈硬化症になると、非喫煙者に比べ、間歇性跛行が生じる割合が約3倍も高まるといわれています。

糖尿病の患者さんは、そうでない患者さんに比べ、閉塞性動脈硬化症が重症化しやすく、治療のため足を切断する下肢切断率は5.10倍もアップすると報告されています。

写真1

ですから、糖尿病の早期診断・治療は、足の血管病の予防・治療の面からも重要で、積極的に行われるべきです。

高血圧症は、喫煙や糖尿病に比べ発症の危険性は低いのですが、十分な注意が必要です。

検査は

足の血管病が疑われる場合、〈写真1〉のように、足の皮膚や筋肉の状態、足の動脈の拍動を触れることができるかどうか、痛みはどうかなどをチェックし、必要に応じて次の検査をします。

1)足関節上腕血圧比(ABI)

ABIは、足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った値で、この値が低い場合、心臓と足関節との間の動脈が狭くなっているか、または閉塞性動脈硬化症が起きている可能性が高いことを示します〈写真2〉。

ABIが1.0以上の場合は正常ですが、0.9以下であれば、足の動脈に病変があると断定できます。この数値が低いほど重症です。

ただし、糖尿病や慢性腎不全(特に透析患者さん)では、ABIが1.0以上であっても必ずしも正常だとはいえませんので、注意を要します。

写真2
写真3

現在、自動ABI測定器〈写真3のA〉が普及し、この血管病の早期診断に役立っていますが、より正確に診断するには、超音波をあてて測定するドプラ血流計で、動脈(後脛骨動脈と足背動脈)の流れ具合を測定してから、ABIを計測することが望ましいと考えられています。

(注)ABIは、Ankle-Brachial pressure...Indexの略

2)血管エコー検査〈写真3のB〉

超音波をあてて調べる関係で、体に負担を与えません。閉塞性動脈硬化症の診断に、自動ABI測定器とともによく使われています。

血管エコー検査は、検査中すぐに下肢全体を描き出すことができ、カラードプラ法などを併用することで、詳細に血管病変をとらえることができるのが利点です。

3)運動負荷試験〈写真3のC〉

運動をしてもらいながら行う検査です。わが国では、回転ベルトの上を歩行するトレッドミル歩行負荷試験が、「ベルトの速度:時速2.4km、勾配:12%、歩行時間(負荷時間):5分間」の条件でよく行われています。

この検査の特徴は、運動前後のABIの変化、どれくらいの歩行距離で歩行障害(跛行)が起きるか、その程度はどれくらいかなどから、血流不足の重症度を客観的に調べることができることです。

私どもの病院では、運動負荷試験のとき、両足のふくらはぎに近赤外線分光法(NIRS)プローブという装置を取り付け、足の血流不足状態を客観的に調べています。

4)動脈造影検査、CTアンギオグラフィ、MRアンギオグラフィ〈写真3のD〉

 カテーテルでヨードの入った造影剤を注入し、エックス線をあてて動脈の形態を調べる動脈造影検査は、閉塞性動脈硬化症の確定診断に欠かせない大切な検査ですが、ごくまれに重度の合併症が起こる難点があります。

そこで、近年はCTやMRIの装置を使うCTアンギオグラフィや、MRアンギオグラフィが活用されています。

CTの方は、高速で広範囲にわたり、判別能力の高い画像が得られるのが特徴です。ただし、この検査は、ヨードおよびヨード造影剤アレルギーや慢性腎不全の患者さんにはできません。

MRの方は、放射線も造影剤も使わずに、血管の様子を描きだすのが特徴です。ただし、強い磁場を使うので、ペースメーカや除細動器を埋め込んだ患者さん、人工内耳を埋め込んだ人などには、原則としてこの検査はできません。

表 閉塞性動脈硬化症の重症度分類

治療は

閉塞性動脈硬化症は、足への血流不足によって運動が制限されますから、患者さんの生活の質(Quality of life:QOL)は低下します。

閉塞性動脈硬化症の重症度は、〈表(Fontaine分類)〉のように分類されていて、治療法も重症度に応じ異なります。

Ⅰ度には、動脈硬化危険因子の管理(禁煙も含む)および薬物療法、Ⅱ度には、薬物療法に加えて運動療法を行い、血流をよくする血行再建術が必要かどうか検討します。

ⅢまたはⅣ度の場合、積極的に血行再建術を行うよう検討し、これができないときは、新しい血管をつくりだす血管新生療法も考えます。

それぞれの治療法について説明しましょう。

1)禁煙

喫煙とこの動脈硬化症との因果関係ははっきりしていますので、禁煙は予防・治療の大原則です。ただし、禁煙によって足の症状が改善するという明確な根拠はなく、あくまでも進行を遅らせ、下肢切断を回避するのが目的です。

2)薬物療法

薬物療法は足へ向かう血流を増やして症状を改善する一方、心臓や脳の血流もよくすることを目的として、抗血小板薬や血管拡張薬がよく使われています。

主なものはアスピリン、シロスタゾール、チクロピジン、ベラプロスト、サルボグラレート、リマプロスト、エイコサペンタエン酸などです。

間歇性跛行に有効とされているのは、シロスタゾールだけですが、最近、スタチンも歩行距離の延長に効果があるという報告が出ています。

アスピリンやクロピドグレルなど抗血小板薬の投与で、虚血性心臓病(心筋梗塞(こうそく)、狭心症)や脳梗塞の発症は減ると報告されています。ですから、閉塞性動脈硬化症の患者さんは、他の血管疾患をチェックしたうえで、積極的に心臓・脳血管疾患の予防に努めることが大切です。

3)炭酸泉療法

炭酸泉療法は、人工炭酸泉発生装置で、37℃の温水中に濃度1000ppm以上の炭酸ガスを発生させ、その中に足を10.15分間つける、つまり足浴する温泉療法の一つです。現在、閉塞性動脈硬化症、特に重症下肢虚血の場合に行われています。

効果は、皮膚に浸透した炭酸ガスが直接、皮下の微小血管を拡張させたり、交感神経活動を抑制したりして末梢血管の循環をよくするからと考えられています。

4)運動療法

写真4

初期治療として、まず行われるのが運動療法です。血液不足の足への血流を増やす一方、血液中の酸素の利用効率を高めるのが狙いです。

運動療法は、週3回行うのが普通で、回転するベルトの上を歩行するトレッドミル歩行(強度は、時速:2.4km、勾配:5%から開始)を行います〈写真4〉。ただし、患者さんの状態に応じて、運動療法室の床に描かれたコースにそって歩くトラック歩行の場合もあります。

歩行で足の痛み(下肢痛)が「中等度」になった時点で、歩行を中断し、休憩します。痛みがなくなれば、歩行を再開します。再び中等度の痛みを感じるようになったら中断し、休憩する――を繰り返し、30分間行います。運動の強さ(負荷量)は、歩行状態を確かめながら、適宜、上げていき、最低3か月間は続けます。

「運動」することは、高血圧症をはじめ脂質異常症、糖尿病などを管理するうえで、非常に効果的であることはよくご存じのはずです。患者さん自身、身体的問題がない限り、積極的、定期的に運動を続け、運動を習慣化してください。

5)血行再建術(カテーテル治療、バイパス手術)

血行をよくするのが血行再建術で、運動療法や薬物療法で十分な効果が得られなかった場合に行われます。カテーテル治療とバイパス手術とがあります。

動脈が狭くなったり、詰まったりした個所に、カテーテルを入れて操作し、血行をよくするか、もしくはカテーテルを通じてステント(金網を円筒にした人工血管)を動脈内に導き、狭くなったり閉塞したりした部分に固定して、血行をよくするのが、カテーテル治療です〈写真5〉。この方法は、近年、飛躍的に治療成績が向上し、とくに骨盤内を流れる腸骨動脈の領域の治療に成果を上げています。

写真5

バイパス手術は、狭くなったり詰まったりした個所に、体のほかの部分から切り取った血管または人工血管を〝バイパス〟として取り付け、血流を確保する方法です。カテーテル治療に比べ、患者さんの身体的負担は大きいのですが、動脈の場所によって、この方法が有利な場合もあり、こうした点も考慮し、どちらの方法がよいかを決定します。

6)血管新生療法

この療法は新しい血管をつくりだし、足の血流不足を補うのが狙いで、薬物療法がきかない、血行再建術のできない患者さんに適応が考えられる方法です。わが国では現在、この治療法として患者さん自身の骨髄、または血液中の単核球の移植が、先進医療として認可され、有効であることが報告されています。

まとめ

閉塞性動脈硬化症は、それ自体の予後は比較的よいと考えられています。しかし、繰り返し強調してきたように、この血管病は他の血管疾患(心臓・脳血管疾患)を合併する可能性が高く、これらの合併疾患が原因で死に至る場合が多いことを忘れてはなりません。

この血管病とわかったら、足の動脈だけでなく、他の血管疾患がないかを確かめ、全身的な動脈硬化コントロール対策が必要になります。

『木を見て森を見ず』では困ります。血管は頭から足の先まで存在していますから、常に『全身を診る』という視点が極めて大切です。

そうすることで、閉塞性動脈硬化症をはじめ、心・脳血管疾患の早期診断、早期治療ができ、より健康的な日々を取り戻すことができると確信しています。

この冊子を読んで、皆さんが『一生涯、自分の足でしっかり歩く』という気持ちを持っていただければ幸いです。

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