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[76] 血管を画像で診る

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

-ここまできた血管撮影法-

元国立循環器病研究センター
病院長 内藤 博昭

進化を続ける画像診断
体に優しい低侵襲性
体に優しい低侵襲性

もくじ

アンジオグラフィ ─ 血管の様子を調べる画像診断法

「アンジオ」または「アンギオ」と呼ばれる検査をご存じですか? すでにこの検査を受けた方もいらっしゃるかもしれません。

正式な名前は英語の「アンジオグラフィ」です。「アンジオ」は「血管の・脈管の」という意味、「グラフィ」は「画法・写法・記録法」のことで、血管撮影法や血管造影法と訳されています。つまり、血管の様子を調べる画像診断法のことです。

血管が詰まって血のめぐりが悪くなる、血管が膨れて破裂する ─ このように、しばしば命にかかわる血管の病気の診療に「アンジオグラフィ」は欠かせません。このページでは、その発展の様子と最新の情報を、画像を見てもらいながら紹介します。

カテーテル法 ─ 血管撮影の基準となる方法

X線撮影で血管を診る

ドイツのレントゲン博士がX線を発見したのは1895年のことです。間もなく人体のX線撮影が始まり、肺の病気や骨折などの診断に大きく貢献をしたのは、言うまでもありません。

ところが普通のX線写真では、血管の様子は見えないのです。なぜかというと、血管の中の血液と、周囲の臓器や脂肪組織などとで、通り抜けるX線の減弱(減り具合)にほとんど差がなく、コントラストがつかないからです。

そこで調べたい血管にカテーテル(細い管)を入れて、そこから、X線の減り具合を強めるヨード造影剤という薬を注入し、この薬が血液に混じって流れるところを撮影すると、コントラストがはっきりし、血管の様子がわかるようになります。

例えば腹部では、普通のX線撮影<図1のA>で全く見えない腹部大動脈や骨盤部の動脈が、カテーテルからの造影剤の注入で、はっきり描き出されるようになります<図1のB、C>。

このカテーテル血管造影法は、画像の「空間分解能」(細かいものを見る能力)、「時間分解能」(シャッター速度、動くものを見る能力)ともに優れており、<図1のC>のように、病気の血管がわかりやすく、血管撮影法では、長らくこの方法が基準となってきました。

図1 X線撮影 ─ 造影剤の必要性
カテーテルを血管内に入れて造影剤を注入すると、X線撮影で血管を見ることができる
図1 X線撮影 ─ 造影剤の必要性

カテーテルを血管に入れる ─ フォルスマン氏らの貢献

「1929年、ドイツの青年医師フォルスマン氏は心臓を調べるという興味から、自らの左腕の静脈を切開して尿管カテーテルを挿入、これを右心房に進めてX線写真を撮影した。この研究は学会では認められなかったが、その後、他の研究者により心臓カテーテル法へと発展し、1956年にフォルスマン氏は、クールナン博士らとともにノーベル医学賞を受賞した。この受賞の報に最も驚いたのは、ドイツの田舎町で開業していたフォルスマン氏自身であった」(「医学を変えた発見の物語」)J.H.Comroe Jr.著、諏訪邦夫訳、中外医学社、1984年等)

血管にカテーテルを入れる方法は、本当はもっと以前から行われていたと思われますが、この方法といえばフォルスマン氏の逸話が非常に有名です。

血管を切開(カットダウン)してカテーテルを入れる当初の方法を大きく変貌させたのが、1953年のセルジンガー博士の発表でした<図2>。

これは、<図2>のように、末梢(まっしょう)血管を直接、穿刺(せんし:体に針を刺すこと)し、針の外筒を通じてカテーテルを血管内に入れる方法で、少し改良して現在も広く用いられています。

セルジンガー法の登場と、その後のカテーテルやガイドワイヤーの品質向上が、カテーテル血管造影法を普及させたと言ってもよいでしょう。

フォルスマン医師

図2 フォルスマン、セルジンガーとセルジンガー法
血管内にカテーテルを入れる方法は、外科的切開から末梢血管穿刺法へと変化している
図2 フォルスマン、セルジンガーとセルジンガー法

CTやMRIで類似の画像が得られる

カテーテルを動脈に入れる穿刺部位は、足の付け根の部分や腕の動脈が用いられています。

最近は細い高品質カテーテルの開発によって、腕の動脈の穿刺の場所は脇の下からひじ、そして手首へと、どんどん末梢側の動脈へ移動してきました。それに伴い「カテ」(カテーテル検査)後に安静にする時間が短くてすむなど負担が軽くなってきました。

確かに「カテ」は楽になってきたのですが、それでも血管を傷つける・破る・血栓(血のかたまり)が飛ぶ・出血するといった合併症の可能性はゼロにはなりません。

これに対して最近、X線CT(コンピュータ断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像診断法)を使って、従来のカテーテル法とほぼ同じか、もしくは同質の情報を持つ血管の画像を得る方法が登場し、注目を集めています<図3>。

CT血管撮影法(CTアンジオグラフィ;CTA)、MR血管撮像法(MRアンジオグラフィ;MRA)と呼ばれるもので、これらの三次元血管撮影法について、次に説明します(以下、CT血管撮影法はCTA、MR血管撮像法をMRAと略して記します。なお、CTとMRIについては、「知っておきたい循環器病あれこれ」64号「心臓病の新しい画像診断CTとMRI」で詳しく紹介しています)。

図3 脳動脈の撮影 ─ カテーテル法とCTA・MRA
これまでのカテーテル血管造影法と同様の画像が、CT検査やMRI検査で得られるようになった
図3 脳動脈の撮影 ─ カテーテル法とCTA・MRA

三次元血管撮影法 ─ CTAとMRA

三次元の撮影法とは

まず<図4>をご覧ください。ちょっと難しい説明になりますが、調べたい血管を含む立体的なデータ(体積データ)をCTやMRIで収集し、コンピューターで後処理して血管の情報を抽出し表示する方法が、三次元血管撮影法です。

図4 三次元アンジオグラフィの原理と特徴
CTやMRIによる三次元血管画像は、対象の血管を含む体積データの後処理で作られる
図4 三次元アンジオグラフィの原理と特徴 

CTAでは、ヨード造影剤を静脈内に注射し、短時間に、薄い断面で広い範囲を撮影して、体積データを集めます。これは「ヘリカルスキャン法」と「マルチスライス装置」という二つの新技術を組み合わせることで可能になりました。

MRAでは、厚い断面を用いた高速三次元撮像を行って、コンピューター計算でそのデータを薄い断面に分解します。MRI用のガドリニウム造影剤の静脈注射を併用する場合(造影MRA)と、しない場合(非造影MRA)の両方があります。

血管の画像表示には、カテーテル法に似たもの<図3のC>、立体的なもの<図3のB>、血管を縦割りにした断面の表示などがあり、目的に応じて使い分けています。

三次元血管撮影法の画像の性能は、まだカテーテル法には少し及びませんが、それでも、細かいものを見る能力(空間分解能)は1mm程度かそれ以下、動くものを見る能力(時間分解能)は0.2秒かそれ以内となって、かなり追いついてきました。

さらに、長い血管も、よく動く血管のデータも短時間で得られるようになり、例えば<図5のA>のように、下肢動脈の撮影が可能となりました。

心臓の筋肉に栄養を与える冠動脈は、細くてよく動くために最後の難関とされていましたが、これも最近ではCTAやMRAで診断可能な画像が撮れるようになっています<図5のB>。

図5 長い血管も・よく動く血管も
広い範囲や超短時間でのデータ収集から、下肢動脈や冠動脈のCTA・MRAも可能になった

図5 長い血管も・よく動く血管も

特徴は負担が少なく優しい検査

カテーテル法と比べて、CTAやMRAの大きな特徴の一つは、低い「侵襲(しんしゅう)性」 ─ つまり、検査を受ける人にかかる身体的負担が少なく、優しい検査であることです。

CTAでは、ヨード造影剤を使う、X線の被ばくがある、撮影中に息を止めてもらう、などはカテーテル法と同じですが、何よりも造影剤を静脈内に注射するだけで、カテーテルを動脈に入れないところが決定的に違います。

MRAでは、撮像時間や検査が長いという問題はあるものの、ガドリニウム造影剤の静脈注射はすべての場合に必要というわけではありません。例えば頭部血管のMRAのように、造影剤は使わず、撮像時の息止めもいらない場合もよく見受けられます。そして被ばくもないところから、MRAはCTAよりさらに“優しい”かもしれません。

もう一つの特徴 ─ いろいろな見方ができます

CTAやMRAでは、調べたい血管や周囲の臓器を含む体積データをまず収集し、コンピューターの後処理によって血管の様子を表示します。

ここから、カテーテル法と異なるもう一つの大きな特徴 ─ いろいろな見方ができること ─ が生まれます。

もう一度<図4>をご覧ください。具体的には (1)対象となる血管をいろんなアングルから眺めることができる、つまり視点を検査後に自由に選べる (2)対象の血管が、周囲の臓器や組織とどういう位置関係にあるかなど周囲との関係の評価が容易にできる (3)血管壁の様子が分かる、といったところが、カテーテル法にはない優れた点です。これを実例で見ていきましょう。

体を剥(は)いで血管を見る

<図6>は、大動脈の一部がこぶのように拡張した大動脈瘤(りゅう)の患者さんのCT体積データをもとに、まず体の表面から胸壁・腹壁の皮膚と筋肉を除き、次に骨を除いて、最後に大動脈を取り出すという、まさに解剖をするような作業をコンピューター画面で行っているところです。

これによって、大動脈瘤の手術の際に、体表のどこを切開して、どの肋骨(ろっこつ)の間から大動脈瘤にアプローチすれば良いかが一目瞭然です。

図6 あたかも解剖をするように
CT検査の体積データから皮膚や骨を取り除いていくと、病気の血管の位置がよくわかる(立体表示像)
図6 あたかも解剖をするように

いろいろな方向から血管を見る

血管の病気を立体的に把握することも、治療の方針を立てるうえで非常に重要です。立体像として見るには、両眼の視差を利用する方法もありますが、もっと簡単で実用的なものが、立体的な血管画像の回転表示という方法です<図7>。

大動脈瘤の手術やステントグラフト(金属フレーム付きの折りたたみ式の人工血管)をカテーテルで挿入する治療では、瘤と血管の枝分かれした部分との位置関係の診断が特に重要で、それには多くの方向から観察しておくことが大変有効です。

図7 血管像を回転させる
血管の立体表示像を回転させると、病変部と周りの臓器や血管との関係がわかりやすくなる
図7 血管像を回転させる

血管の中から見る

胃、腸など消化管を診る内視鏡はいろいろありますが、血管内視鏡は細い血管でしか実用化されていません。

内視鏡の先端に取り付けた風船を膨らませて、上流から流れてくる血液を完全にせき止めて、下流の血液を洗い流し、やっと血管内腔や壁の様子が見えるのです。

これに対して、コンピューター画面内の「仮想内視鏡」では、画像の色は現実のものではなく質感に乏しいものの、かつての有名なSF映画「ミクロの決死圏」のように、血管内を自由自在に動き回って、これを“中から見る”ことが可能です<図8>。

図8 ミクロの決死圏のように
仮想内視鏡によって血管の中を動き回って病変部を観察する
図8 ミクロの決死圏のように 仮想内視鏡で血管を中から見る 

血液の流れを見る

MRIの「位相コントラスト撮像法」と呼ばれる方法や、超音波検査の血流ドップラー法で得られた血流速度の情報を、CTAやMRAでの血管の三次元形状に重ねたり、それに処理を加えて血流線に変換したりすると、血管内の血液の流れを立体的に“見る”ことができます<図9>。

最近では、CTAやMRAの血管に模擬血流を流して、その血管の血流状態をシミュレーションするコンピューター実験も行われています。

図9 血液の流れがわかる
各種の検査法で得た血流情報を血管の立体像に重ねると、血流状態が“目に見える”ように
図9 血液の流れがわかる

血管の壁を見る

最近、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の発症の考え方が変わってきています。

新しい考え方は、心臓や脳に栄養を与える動脈の狭窄(きょうさく:血液の流れる内腔が狭くなること)が軽いうちに、血管壁の大きな動脈硬化プラーク(動脈硬化斑と呼ばれるかたまり)、なかでも脂質に富む柔らかいプラークが壊れて血栓ができ、動脈がふさがってしまうという説で、特に急性心筋梗塞はこの仕組みで発症することが多いとわかってきました。

CTAやMRIの血管壁の情報は、このような“壊れやすい不安定なプラーク”の診断に非常に有用です<図10>。

図10 血管壁の様子がわかる
血管の壁を内腔と分離して表示すると、動脈硬化プラークなどの状態がわかりやすくなる
図10 血管壁の様子がわかる

CTAとMRAをまとめると

良いところと気になるところ

一般にCT、MRIは、ともにそれを受ける人にかかる負担が少ない「低侵襲的検査」といわれています。それらの検査の一方法であるCTAやMRAも同じです。カテーテル血管造影法に比べると安全で、ずっと楽なことは間違いありません。

CTAとMRAに共通した問題点で一番気になるのは、造影剤の副作用です。これには検査に伴い、間もなく起こる“即時型”の全身反応、時間がかなりたって起こる“遅発型”の全身反応と、腎機能障害の3種類があります。

すぐに起こる即時型の副作用として、CTのヨード造影剤で約3%、MRIのガドリニウム造影剤で1%程度に、むかつきや嘔吐、じんましんなどが出ることがあり、重症の副作用は数千人に一人、死亡は数十万人に一人と言われています。

副作用の出現を予知するよい方法はありませんが、いくつかの危険因子が知られています。特にこれまでに造影剤で副作用のあった方や喘息(ぜんそく)の方は、ない場合に比べてずっと副作用が出やすいので、そのようなことがあれば必ず申し出てください。

また腎機能が悪い方の場合、ヨード造影剤の投与で腎機能がさらに悪化したり、ガドリニウム造影剤では遅発型の重症の副作用である腎性全身性線維症という病気を起こしたりする可能性があるので、造影剤を使わないMRAや、代わりとなる検査を考えるべきです。

CTAの中でも冠動脈のCTAはX線の被ばくが多いことが知られていて、撮影の仕方によってはカテーテル検査に匹敵するか、さらに多いとの意見もあります。もちろんすぐに障害が出るような量ではありませんが、被ばくを減らすための装置や撮影法の改良は今後の大きな課題といえるでしょう。

MRAでは、ペースメーカー装着者に検査できないなど、対象者が制限されることが問題です。またMRIに対する患者さんの訴えとして、「(検査時間が)長い」・「(検査を受ける装置の空間が)狭い」・「(検査中の音が)やかましい」の三つが多く、それぞれに対応策が検討されています。

カテーテル法はどこへ ─ 血管検査法の役割分担

「アンジオグラフィ」について、歴史のあるカテーテル法と最近、注目されているCTAとMRAを紹介しました。

CTAやMRAの画像の性能は、カテーテル法には及ばないのですが、逆にカテーテル法では不可能ないろいろな画像の見方ができます。さらに「低侵襲的」ですので、診断目的の血管検査はCTA・MRAに移行して、カテーテル血管造影は減少の一途をたどっています。

ではカテーテル法はなくなってしまったのかというと、決してそうではありません。この方法は診断から治療の方法へと生まれ変わって、さらに発展しています。

カテーテルに付いた風船を膨らませて血管の狭くなった部分を広げる、さらにステント(血管の狭窄部を広げておく金網状の筒)を留置する、カテーテルを通じて脳動脈瘤をコイルで詰めたり、大動脈瘤にステントグラフト(金属フレーム付き人工血管)を入れたりするなどの方法です。

「カテーテル・インターベンション」と呼ばれるこうしたテクニックは、血管病の治療になくてはならないものとなっているのです。

患者さんに侵襲の少ない血管の画像診断法には、他にも超音波検査という非常に優れた方法があります。これにCTA・MRAを加えてうまく役割を分担すれば、体に優しく、しかも高度の血管病の画像診断ができるにちがいありません。

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