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血管の病気|循環器病あれこれ|

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

[57]大動脈に〝こぶ″ができたら

-大動脈瘤・解離の診断と治療-

元国立循環器病研究センター
心臓血管外科
部長 荻野 均

最大の予防法は検査

イラスト:最大の予防法は検査

もくじ

※ 本ページは、知っておきたい循環器病あれこれ[23]「大動脈瘤とわかったら」に追加と改訂を加えたものです。

大動脈瘤とは?

動脈硬化などで弱くなった大動脈に、こぶ状の膨らみができることがあります。これを、大動脈にできた“こぶ(瘤)”、「大動脈瘤」と呼びます。

大動脈は、心臓の左心室から送り出された血液がまず通る、体の中で最も太い血管で、弾力があり、数ミリの厚い壁でできています。送り出された血液は、この大動脈を通って全身に運ばれます<図1>。通常、この大動脈には100mmHg以上の高い圧(血圧)がかかっているので、動脈硬化などで弱くなった部分があると“こぶ”ができやすくなります。

大動脈から枝分かれした動脈にできた“こぶ”は「動脈瘤」と呼びます。動脈にできる“こぶ”は風船と同じで、小さい時は大きくなりにくいのですが、いったん大きくなり始めると加速度的に膨らみ、最終的には壁が薄くなって破裂に至ります。

図1 大動脈の流れ
図1:大動脈の流れ

大動脈瘤は増えているか?

最近では、高齢化社会に伴い、この大動脈瘤をもつ患者さんの数が、心筋梗塞の患者さんと同様に増えています。どちらも、動脈硬化が原因という共通点があります。

大動脈瘤の他の原因には、壁が弱くなる変性疾患、外傷、炎症、感染、先天性の場合などがありますが、動脈硬化が原因のほとんどを占めています。ですから、高血圧、高脂血症、喫煙は“こぶ”ができる危険因子と言えます。特に、喫煙は“こぶ”の破裂にも関連しています。

イラスト:大動脈瘤の原因は

大動脈瘤の種類は? でき方から三つのタイプ

こぶのでき方から、「真性」「仮性」「解離性」の三つの大動脈瘤に分類されています<図2>。最後の「解離性」は、最近、「大動脈解離」と呼ぶことが多くなりました。こちらは「真性」大動脈瘤と症状、治療などがかなり異なりますので、別に説明します。

図2 でき方による大動脈瘤の分類
図2:でき方による大動脈瘤の分類

真性と仮性の〝こぶ″の違い

<図2>の下段を見ていただきながら、話を進めます。大動脈の壁は、内側から内膜、中膜、外膜の三層構造となっています。真性瘤は、大動脈の壁が三層構造のまま“こぶ状”になっていますが、仮性瘤は三層構造が裂け、漏れた血液が周囲の組織に包まれて“こぶ”を形成した状態です。言い換えれば、仮性瘤はすでに破れた状態であり、早急な処置を必要とします。

発生部位からは<図3>のように、大動脈基部拡張症、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤などの「胸部大動脈瘤」および「胸腹部大動脈瘤」「腹部大動脈瘤」に分類されています。

また、“こぶ”の形状から、全体的に膨らんだ「紡錘状瘤」と、一部が突出した「嚢状瘤」に分類できます。嚢状瘤は破裂しやすく、早めの処置が必要です。

難しそうな用語が次々出てきましたので、わかりにくいと感じられる方も少なくないと思いますが、図を見ながら、どの用語がどんな状態を指しているかをざっと理解していただければよいのです。

次に三つ目のタイプ「大動脈解離」について説明します。

図3 発生部位による大動脈瘤の分類
図3:発生部位による大動脈瘤の分類

大動脈解離とは

大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層構造となっていることをすでに説明しましたが、大動脈解離は傷ついた内膜が裂け、そこから入り込んだ血液が中膜を引き裂いた状態を指します<図2>。

この大動脈解離は、ある日突然、何の前触れもなく、通常、胸・背部の激痛を伴って発症します。内膜面にできた欠損部(内膜裂孔、あるいはエントリー=入り口=と呼びます)から解離した部分に血液が流れ込み、もともとの腔(真腔)と解離した腔(偽腔)の二腔構造となります。

いったん発症すれば、偽腔側の薄い壁が破れると同時に、大動脈から分かれる重要な動脈が圧迫されて閉塞し、重要臓器に血液が流れない状態(灌流不全あるいは虚血)が発生します。

適切な治療が行われなければ、「1時間に1%ずつ死亡する」とも言われており、48時間以内に約半数の患者さんが亡くなる極めて重篤で危険性の高い病気です。

大動脈解離は次のように分類されています。

偽腔内の血流の有無により、偽腔が血栓で閉塞し血液が流れていない型(偽腔閉塞型)と、血液が流れている型(偽腔開存型)に分類されています。

また、解離がある部位によってStanford(スタンフォード)分類A型(上行大動脈に解離があるもの)、B型(下行大動脈のみに解離があるもの)に分けられます<図4、7参照>。

時期的には超急性(発症後24時間以内)、急性(2週間以内)、亜急性(2週~2か月)、慢性(2か月以降)に分類されています。

図4 大動脈解離の分類(スタンフォード分類)
図4:大動脈解離の分類(スタンフォード分類)

大動脈瘤の症状・診断・治療

まず大動脈解離以外の大動脈瘤の説明をします。

症状は?

大動脈瘤が拡大する時に痛みを感じることもありますが、通常、無症状で経過し、破裂してはじめて激痛を感じます。

弓部大動脈瘤<図1参照>が拡大すると、声帯を動かす反回神経が麻痺して起こる声がれ(嗄声)、気管が圧迫されて起こる呼吸困難、食道の圧迫によって飲み込みにくくなる嚥下困難などの症状が見られることがありますが、決して多くはありません。だから発見が遅れがちになります。

いったん破裂すれば、激痛を伴うショック状態から、心停止、呼吸停止に至り、生命の危機につながります。幸い、緊急手術で救命できるケースもありますが、多くが救命困難となります。

診断は?

胸部レントゲン検査が胸部大動脈瘤の診断の手がかりになります。大動脈基部など、部位によっては心臓超音波検査(心エコー)のみで診断できる場合もありますが、確定診断にはやはりCT検査やMR検査が必要です。

多くの腹部大動脈瘤は腹部超音波検査のみで診断が確定できますが、CT検査を追加して、より詳細に病状を検討します。

最近は、CT検査やMR検査などの画像診断が進歩して、病変を立体的にとらえて詳細に検討できるようになり、血管造影検査は必須ではなくなりました。大動脈瘤破裂の場合には、CT検査の時間的な余裕がなく、胸部レントゲン検査ないしは超音波検査のみで診断し、緊急手術を行う場合もあります。

大動脈瘤と診断されたら?

血圧のコントロール(管理)と禁煙が重要です。血圧コントロールを患者さんだけで行うのは困難で、かかりつけの医師か専門医の診察を受け、適切な降圧剤を継続して内服することが大切です。さらに、ストレスや便秘を避け、塩分の少ない食事や運動を心がけましょう。

大動脈瘤がある部位に痛みや違和感がある場合は、速やかに専門医を受診する必要があります。激痛の場合は破裂の可能性があるので、直ちに救急車を呼んでください。

イラスト:直ちに救急車を呼んでください

治療は?

(1)内科治療

血圧のコントロールを行い、“こぶ”の拡大、破裂を防止します。ただし、内科治療だけで、“こぶ”を縮小させることは期待できず、したがって根本治療にはなりません。

(2)外科治療

大動脈瘤の部位によって、その“こぶ”の部分に到達するための様々な切開の仕方(胸骨正中切開、左開胸、開腹など)があります。“こぶ”の部分をポリエステル繊維などでできた人工血管で置き換えます<図5>。

胸部大動脈瘤の場合は、人工心肺によって血液を体外循環させながら、この部分をポリエステル繊維(ダクロン)ないしは樹脂(ゴアテックス)でできた人工血管で大動脈瘤を置き換えます。腹部大動脈瘤の場合、体外循環は必要としません。大動脈瘤壁は切除せず、後で人工血管を覆うために使用します。

図5 部位別人工血管置換術
図5:部位別人工血管置換術
(3)ステントグラフト治療<図6>

最近、脚光を浴びてきた治療法です。足の付け根の動脈から入れたカテーテル(管)を通じ、外側に金属のリング(ステント)がついた折りたたみ式の人工血管(ステントグラフト)を大動脈瘤のところに挿入し、“こぶ”を治癒させる方法で、その適応が広がってきています。

この方法は、局所麻酔でも可能なほど侵襲(体への負担)が少ない利点があります。しかし、その反面、人工血管がずれたり、人工血管と大動脈壁のすき間から血液が漏れたりすることがあり、確実性の点で問題があります。さらに、いまのところ長期的な成績も不明です。状況に応じて様々な方法で実施しているのが、わが国の現状です。

図6 ステントグラフト治療
図6:ステントグラフト治療

外科治療の適応は?

大動脈瘤が破裂すると、出血性ショックのため生命の危機に直面します。大動脈瘤破裂後の最終救命率は10~20%程度と言われています。“こぶ”の破裂時期を予想することはまだ困難ですが、専門的には大きさ、拡張の速度、形状などから判断します。

“こぶ”の最大短径が、胸部大動脈瘤で55~60mm、腹部大動脈瘤で45~50mmを超えれば手術適応と考えられています。また、紡錘状瘤よりも嚢状瘤のほうが破裂の危険性が高く、早期に手術適応とします。

イラスト:大動脈瘤が破裂すると

大動脈解離の場合

急性大動脈解離の診断・治療

急性大動脈解離は、適切な処置をしなければ48時間内に約半分の患者さんが亡くなる極めて危険性の高い疾患です。死亡の原因は、心タンポナーデ(心嚢内の出血)、大動脈破裂、臓器虚血(偽腔に溜まった血液で冠動脈、脳動脈などの出口を塞いで起こる)などです。とにかく迅速な診断、治療が必要です。

(1)早期発見のために:突然、発症するため発症直前の予想は不可能です。しかし“急性解離予備軍”といえる患者群が存在します。

その予備軍には、マルファン症候群を代表とする遺伝性結合織疾患、上行大動脈拡大(特に大動脈二尖弁に合併した)、炎症性血管炎(巨細胞動脈炎、ベーチェット症候群)、自己免疫疾患のほか、この疾患の家族歴がある場合や妊婦などが含まれます。こうした場合は、症状、所見と合わせ、迅速な診断へと直結させる必要があります。

(2)症状は:ほとんどの症例で、突然の引き裂くような胸・背部痛が生じます。しかし痛みがなく、意識障害、下肢麻痺、微熱、全身倦怠感のみのこともあり、注意が必要です。

(3)身体所見:心タンポナーデや破裂により、ショックを伴うことが多くみられます。脳動脈や下肢へ行く動脈が閉塞されると、意識障害や下肢虚血が起きます。特徴的な所見として、血圧の左右差がありますが、全例に認められるわけではありません。

(4)診断・検査<図7>心電図(冠動脈の流れが悪くなると心電図変化を認めるが、合併率は10%以下と少ない)や胸部X線(縦隔の拡大、心拡大、胸水をみることがある)は診断の手がかりに過ぎません。

大動脈解離を疑えば心臓超音波検査を直ちに行うことで、解離、心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈血流障害などがチェックできます。頸動脈の解離や腹部分枝の血流も併せてチェックします。診断の確定は、造影CT検査で行います。ショックのためCT検査を行う余裕のない場合は、超音波検査だけで外科治療に移ることもあります。

(5)区別すべき疾患:胸・背部痛を伴う狭心症・急性心筋梗塞、急性肺塞栓症(血栓で肺動脈が詰まる)、大動脈瘤破裂、胆石発作、尿路結石などとの鑑別、つまり類似症状のある病気と見分けることが必要です。特に狭心症・急性心筋梗塞との鑑別は重要で、解離が原因で冠動脈の血流障害をきたし、急性心筋梗塞を合併していることもあります。

(6)治療:<図7>の「急性大動脈解離の診断および治療方針」を見ていただきながら話を進めます。

スタンフォード分類A型大動脈解離<図4左>と診断された場合:上行大動脈から大動脈解離が始まっており、心タンポナーデを呈することが多く、ほとんどが緊急手術の対象となります。

手術の目的は、解離の起点となった「エントリー」(入り口)の切除にあります。エントリーは上行大動脈~弓部の近い側にあることが多く、通常、体外循環(人工心肺)を用いて、脳や心臓を保護しながら上行大動脈人工血管置換を行います。エントリーが弓部大動脈や下行大動脈にあれば、弓部大動脈全置換を行うこともあります。

近年、急性A型大動脈解離に対する緊急手術の成績が向上しているものの、全国平均の死亡率はまだ14.5%で、危険度の高い手術に変わりはありません。

スタンフォード分類B型大動脈解離<図4右>と診断された場合:B型大動脈解離は、破裂や臓器虚血などの続発症がなく、ほとんどが内科治療の対象となります。降圧剤を中心とした内科治療の30日間死亡率は10%と低く、成績は良好といえます。

ただし、破裂や臓器虚血などの続発症があり、持続する痛みがある場合(切迫破裂)は、緊急手術の適応となります。左開胸下に体外循環を用いて下行大動脈人工血管置換を行います。また、臓器虚血に対しては、カテーテルか手術による腹部大動脈開窓術や虚血臓器への各種バイパス術を選択して行います。

慢性大動脈解離の場合

手術適応は、真性大動脈瘤とおおむね同じです。一部の施設では、慢性B型大動脈解離に対するステントグラフト治療の良好な成績が報告されています。

図7 急性大動脈解離の診断および治療方針
図7:急性大動脈解離の診断および治療方針

予防法はあるか?

早期発見のために

大動脈瘤は破裂するまで無症状で、違和感や圧迫症状を手がかりに検査を進めるしか方法がありません。動脈硬化性真性瘤は60歳以上の男性に発生することがほとんどで、胸部レントゲン検査と腹部超音波検査は少なくとも数年ごとに受ける必要があります。

治療成績は?

胸部大動脈瘤手術では、数%の脳・脊髄障害と重要臓器(心、肺、腎)の機能不全などの合併症を伴います。緊急手術成績は全国平均で死亡率32%と依然として不良で、合併症の発生率も高くなります。一方、待機手術の成績は死亡率7.4%まで向上しており、大きな施設では数%以下とかなり安全な手術となっています。

また、腹部大動脈瘤の破裂に対する緊急手術も高い死亡率となっていますが、待機手術の死亡率は1%以下と良好です。

かぎは動脈硬化の予防

大動脈瘤と大動脈解離の診断と治療について説明しました。

大動脈瘤は破裂するまで無症状で、外から見ただけでは容易にはわかりません。いったん破裂すると、生命の危機にさらされることとなり、破裂前の早期発見、定期的な経過観察、および積極的な外科治療、ないしはステントグラフト治療が必要です。急性大動脈解離も突然に発症するため、予想はできません。

しかし、予防の手段がないわけではありません。どちらも動脈硬化を原因とすることが多く、その危険因子である高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病、多量飲酒などに目を向ける必要があります。循環器病に共通する、こうした危険因子の予防と適切な治療、禁煙、節酒が、ひいては大動脈瘤や大動脈解離の予防に極めて大切であることをぜひ知っていただきたいものです。

イラスト:かぎは動脈硬化の予防

 

最終更新日 2014年03月12日

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