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[116] 大動脈瘤と解離 ─ 最新情報

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター 血管外科
医師 清家 愛幹
元部長 湊谷 謙司

大動脈瘤の破裂防止が大切

もくじ

  1. はじめに
  2. 大動脈瘤とは?
  3. 大動脈瘤の原因と種類
  4. 大動脈瘤の症状は?
  5. 大動脈瘤と診断されたら...日常生活での注意
  6. 大動脈瘤の治療は?
  7. 大動脈瘤の部位別の主な治療法
  8. 新しい試み:皮膚小切開手術
  9. 終わりに


はじめに

さまざまな医療機器の発達によって、体で最も大きな血管である大動脈の病気がよく見つかるようになってきました。また、それまでお元気で暮らしていたのに、突然あっという間に命を奪われた方の原因の一つが、急性大動脈解離という大動脈の病気であることもよく知られるようになってきました。

大動脈の病気ができていても、実はその症状が出ない場合がほとんどです。この病気は、知らず知らずの間に病気が進行する"沈黙の病気"であり、しかも、突然命にかかわる深刻な事態になる切実であなどれない病気です。

しかし、大動脈の病気がどのようにできるのか、さらに大動脈の病気が見つかったときに、その病気とどうつきあっていくかなどについての知識を身につけておけば、この病気の危険性をより低くすることができ、適切な治療をタイミングよく受けることができるのです。

この小冊子では、大動脈の病気の中で最も多い大動脈瘤と大動脈解離についてぜひ知っていただきたいポイントを解説します。

大動脈瘤とは?

大動脈は、心臓から押し出された血液が最初に通る、人体の中で最も太い血管です。大動脈は樹木のように細かく枝分かれしながら、体のすみずみまで血液を運んでいます。

その樹木の幹に当たる大動脈は、〈図1〉のように心臓から出てまず頭側に向かいます。英語の疑問符"?"のように弓状に曲がりながら脳や、左右の腕に栄養を運ぶ3本の動脈に枝を出し、幹の部分は背中側に回り下半身へ向かいます。その途中でもさまざまの重要な臓器へ枝分かれしていきます。

大動脈瘤は、この大動脈(通常は20~30mm程度)が"こぶ"のように病的にふくらんだ状態(30~40mm以上)を指します。この"こぶ"は、大動脈のあちこちの場所にでき、それぞれの場所によって○○大動脈瘤(例えば上行大動脈にできた場合は上行大動脈瘤)と呼ばれています〈図2〉。

図1 大動脈の流れ


図2 部位別の大動脈瘤


 〈図2〉は、後半で解説する、動脈瘤の部位別の治療のところでも必要になりますから、よく見ておいてください。

大動脈瘤の原因と種類

なぜ"こぶ"ができるのでしょうか。大動脈瘤は大動脈の壁が弱くなっている部分がふくらんでできると考えられています。

その理由は完全に解明されたわけではありませんが、動脈硬化、高血圧、喫煙、ストレス、高脂血症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、遺伝などのさまざまな要因が関係すると考えられています。その他にも外傷や感染・炎症などによる特殊な大動脈瘤があります。

大動脈瘤はそのでき方から、〈図3〉のように、「真性」、「仮性」、「解離性」の3種類に分けられています。真性瘤は大動脈の壁があたかも風船がふくらんだように薄くなったものです。仮性瘤は本来の大動脈の壁がなくなり周囲の組織が新たな壁となっているものです。ですから、すでに破裂している状態とも言えるので、早急な処置が必要です。

図3 大動脈瘤の3つのタイプ


解離性瘤は、大動脈の壁が解離(二つの層に壁が剥がれること)し、弱くなってしまった結果として発症します。急激に動脈が拡張し破裂することが知られています。

大動脈解離のこと

とくに深刻なのは解離性瘤で「大動脈解離」と呼ばれ、よく理解していただく必要があります。〈図3〉を見てもらいながら話を進めます。

動脈は内膜、中膜、外膜の3層に分かれています。中膜がなんらかの原因で裂けて、もともとは大動脈の壁であった部分に血液が流れ込むことで大動脈内に二つの通り道ができる状態が大動脈解離です。

大動脈解離は、ほとんどの場合、何の前触れもなく突然の胸や背中の激痛とともに起こります。また、起こったばかりの時は、血管が裂けているため血管の壁が薄くなり、きわめて破裂しやすい状態にあります。

特に上行大動脈に解離が及ぶと、1時間に1%ずつ死亡率が上昇すると言われています。つまり、48時間以内におよそ半分の患者さんが亡くなることになります。突然、胸や背中に激痛が生じ、この病気が疑われる場合は、とにかく一刻も早く救急車を呼んで医療機関を受診し、治療を受ける必要があります。

時間がたって比較的安定した状態になっても、一度解離した大動脈は、もろく弱くなっていることが多く、大きな"こぶ"に拡大していくことも珍しくありません。ですから定期的に受診して経過をみてもらう必要があります。

いずれの大動脈瘤も、その形から、全体的にふくらんだタイプ(紡錘[ぼうすい]状瘤)と、部分的にふくらんだタイプ(嚢状[のうじょう]瘤)に分けられます。二つの形が混ざり合ったものもあります。一般的には同じ大きさであれば嚢状瘤の方が破裂の危険性は高いと考えられています。

大動脈瘤の症状は?

胸部の場合

胸部大動脈瘤は自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんどです。"こぶ"が大きくなり、周囲の組織が圧迫されるようになると症状が現 れる場合がありますが、比較的まれです。

現れやすい症状は、声帯の動きをつかさどっている神経(反回神経)が"こぶ"で圧迫されて起こるしわがれ声(嗄声[させい])や食べたものが気管に入ってしまうこと(誤嚥[ごえん])などがあります。

腹部の場合

腹部の場合も自覚症状がほとんどないので、知らない間に大きくふく らんでいることが多いのです。やせている方だと、"こぶ"が目立つようになり、"こぶ"の中を流れる血流の拍動を感じられることもありますが、大多数の患者さんには分かりません。

ですから、他の病気でたまたま腹部の超音波検査やCT検査を受けた時に初めて発見されることがほとんどです。

大動脈瘤の破裂が差し迫った場合は、胸部大動脈瘤であれば胸痛や背中の痛みが、腹部大動脈であれば腹痛や腰痛が起こります。瞬間的な痛みではなく、持続する強い痛みであることが特徴です。

破裂してしまうと、出血多量で急速に危険な状態に陥り、救命することが非常に難しくなります。症状が強い場合は、破裂や急激な拡大が疑われますので、かかりつけ医に急いでご相談ください。

最も重要なことは、大動脈瘤があると診断された場合は、定期的に受診しCT検査などで"こぶ"の大きさをチェックして経過を観察してもらうことです。破裂して緊急手術となるような事態を避け、経過を観察し適切なタイミングで手術を受ければ、成功率のきわめて高い治療となります。

大動脈瘤と診断されたら...日常生活での注意

原因の項目でお話ししたように、日常生活での高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などが大動脈瘤の発症に大きくかかわっています。その予防には、こうした危険因子を避けることが極めて重要です。 大動脈瘤と診断された場合、"こぶ"を完全に治すことは内科治療では難しく、"こぶ"とうまくつきあっていくことが肝心です。破裂する危険がある大きさになっていなければ、手術をする必要はほとんどありません。

  1. 毎日、血圧を測定し、かかりつけ医によく相談すること
  2. 暴飲暴食をしないこと
  3. 禁煙すること
  4. 便秘に注意すること(息むと血圧が上がってしまいます)
  5. 入浴の際には熱すぎる湯にはつからないようにすること(急激な温度変化を避けること)
  6. ストレスを避け、イライラしないことなどの注意点をしっかり守り、実行することです。
とにもかくにも、無理を避け、安らかな生活を心がけましょう。

大動脈瘤の治療は?

いったん大動脈がふくらんで"こぶ"となってしまうと、薬を飲んでもそれを小さくすることはできません。

原因の一つと考えられている高血圧や高脂血症に注意し禁煙するなど生活習慣を改善することで、ある程度"こぶ"を大きくなりにくくするようにはできますが、確実に大きくなるのを防げるとは限りません。

治療の原則は"こぶ"を破裂させないことです。破裂した場合、10~20%程度の方しか救命できないと言われています。運よく病院に運ばれても、成功率が低いことが知られています。

ですから、破裂の危険性がある場合は、未然に大動脈瘤を手術することが望ましいのです。破裂の危険性は"こぶ"の大きさが一番の目安になります。胸部大動脈瘤であれば55~60mm、腹部大動脈瘤であれば45~50mmがその目安となります。

手術は十分な準備をすれば、ほとんどの場合、安全に行うことが可能です。その準備として、全身の様々な検査、心臓、肺、脳などの画像検査や血液検査をして適切な手術の方針を検討します。

〈図4〉に、動脈瘤に対する治療方針を示しました。いずれに該当するかによって方針が決まります。

図4 動脈瘤に対する治療方針


人工血管置換術

従来から行われている手術に、大動脈瘤の部分を切除して人工血管に置き換える「人工血管置換術」があります。

人工血管は合成繊維のポリエステル(ダクロン)でできており、長期間にわたる十分な耐久性があります。開胸、または開腹して行う人工血管置換術は長い歴史があり、手術後の経過や起こりうる合併症などの予想がつきやすいのが特徴です。

〈図5〉は、動脈瘤のできた部位ごとに、人工血管で置き換えたことを示しています。

図5 人工血管置換術


この治療で"こぶ"はなくなり、追加の治療が必要になることはほとんどありません。"こぶ"のできた部位によっては、まだまだ体の負担が小さくない手術ですが、様々な改良が加えられて、近年は安全性の高い治療になってきました。

ステントグラフト留置術

これまで大動脈瘤手術は、人工血管置換術が大半を占めていましたが、最近は「ステントグラフト留置術」と呼ばれる、体の負担の少ない血管内治療が盛んに行われるようになりました。

人工血管置換術は、開胸、開腹して手術するので、大きな傷口(創)をつくらねば手術ができませんでした。しかし、留置術は〈図6〉のように、足の付け根(鼠径部)の小さな創から、カテーテルという細い管を使って、折りたたんだ人工血管(ステントグラフト)を大動脈瘤の中に留置する方法ですので、体の負担がとても小さくなります。

図6 ステントグラフト留置術と胸部、腹部のステントグラフト


〈図6〉は、折りたたみ、細い管として挿入されたステントグラフトが、大動脈が両足に分かれる部分のやや手前にできた腹部大動脈瘤のところで、"もともとの大きさに広がり"、つまり、動脈の太さになって留置されたことを示しています。結果として、弱くなった壁であるこぶの内側に新しい強い壁ができることとなり、破裂を防ぐことができると考えられます。

体の負担が少ない(低侵襲といいます)のが特長で、高齢の患者さんや従来の手術では危険性が高い患者さんを中心にこの方法を実施しています。以前であれば体の負担の大きさから大動脈手術をあきらめざるを得なかった患者さんにとって大きな福音となっています。

この手術は全身麻酔で行いますが、全身麻酔ですら負担になる患者さんには、局所麻酔で行うこともあります。最近では、90歳以上でステントグラフト留置術を受ける患者さんもめずらしくありません。

しかし、どの患者さんにも使えるとは限りません。また、大動脈瘤自体は必ずしもなくなるわけでなく追加の治療が必要になることも少なくありません。結果的に、従来の人工血管置換術の方が良い選択になる場合もあるのです。

ですから、患者さんのご希望を踏まえ、病状や年齢に応じた治療法をお勧めすることになります。最も重要なことは、体の負担が軽いステントグラフト治療が、患者さんの状態によっては最善の治療ではない場合もあり、医師から説明を聞き、これらの治療法の長所と短所をよく理解したうえで、治療法を選択していただくことです。

ハイブリッド治療

心臓から大動脈が流れ出てすぐの弓状(?の形)のところや腹部では、動脈が枝分かれしています。この部分の大動脈瘤を、人工血管に置き換える時には、枝分かれした動脈にも血液が流れるようにつなぎ直します。しかし、ステントグラフトを留置した場合には、枝分れの入り口をふさいでしまうことから枝分かれへの血流がストップしてしまいます。

そこで、そのような場所にステントグラフトを留置する場合には、枝分かれした動脈がふさがれても血液が流れるよう新しい通り道を作るバイパス手術をまず行ってから、ステントグラフト留置術を行います。この方法は、複数の方法を組み合わせて行うので「ハイブリッド治療」と呼ばれています。

大動脈瘤の部位別の主な治療法

1)大動脈基部

心臓から大動脈が流れ出す場所を「大動脈基部」と言います。ここにできる大動脈瘤は「大動脈基部拡張症」や「バルサルバ洞動脈瘤」などと呼ばれています(〈図2〉①参照)。

図2① 大動脈基部拡張症


大動脈の基部が大きくふくらんだまま放置されると、"こぶ"の破裂だけでなく、急性大動脈解離が起こるリスクが高まります。特に、血縁者に急性大動脈解離を発症した方がいらっしゃる場合は、比較的早期の手術が望ましいと考えられています。

この場所の大動脈瘤は大動脈弁にも異常があることが多く、弁の手術と動脈の手術を同時に行う基部置換術が一般的です。自分の大動脈弁(自己弁)を残す方法と、人工弁(金属性の機械弁か、ブタなどの弁を使う生体弁)に取り換える手術の二通りの方法があります。ステントグラフトは使用できません。

自己弁か、それとも人工弁にするかについてもう少し説明します。

【自己弁を温存する手術】(デービット手術)

患者さん自身の大動脈弁を残し、基部を作り替える方法です。人工弁を使わないので、当然、人工弁に伴う問題がありません。比較的歴史が浅い手術ですが、これまでのところ良好な結果が報告されています。

大動脈弁が傷み、逆流が認められる患者さんの場合、以前は、人工弁を使用せざるを得なかったのですが、患者さんの弁を修復する技術が進み、近年は自己弁を活用するケースが増えています。

【人工弁を使う手術】(ベントール手術)

自己弁の使用が困難な患者さんには、ベントール手術という人工弁を用いる方法で治療します。こちらは40年以上前から行われ、安定した良好な長期成績が得られています。

ただし人工弁として機械弁を使用した場合、血液をさらさらにし血栓ができにくくするワーファリンという薬を生涯にわたり服用する必要があります。

また、生体弁を使用した場合は、ワーファリンの内服は不要ですが、生体弁が次第に劣化するので、10~15年後にもう一度手術を行って取り換えることが必要になります。

2)弓部大動脈

〈図2〉③を見てください。弓部大動脈にできるのが弓部大動脈瘤で、比較的日本人に起こりやすいと言われています。

図2③ 弓部大動脈瘤


治療の人工血管置換術は、人工心肺装置を用いて、体温を25~30度まで下げ、全身の血液の流れを一時的に止め(循環停止法)、また心臓を一時的に冬眠状態としたうえで行います。体に負担がかかり、手術後、特に脳障害(脳梗塞、脳出血など)が発生する可能性があります。

しかし、以前に比べ安全性はきわめて高くなり、この部位の大動脈瘤には確実で大多数の患者さんにお勧めできる治療になっています。

高齢の方で、人工血管置換術では体の負担が大きすぎると判断した場合に、脳へ栄養を送っている血管に新たな通り道を作った上で、ステントグラフトを留置することもあります。また、動脈瘤が広い範囲に渡り存在している場合には、これら二つの方法を組み合わせることも行っています。

3)胸部下行・胸腹部大動脈

〈図2〉④⑤を見てもらいながら話を進めます。

図2 ④ 下行大動脈瘤
⑤ 胸腹部大動脈瘤

下行大動脈は背骨に沿って比較的まっすぐに下っています。大きな枝分かれがないため、従来行われていた人工血管置換術より、ステントグラフト治療が行われることが多くなってきました。ただし、弓部に近い位置に"こぶ"ができた場合や、解離性大動脈瘤の場合は、人工血管置換手術の方が望ましいケースもあります。

胸腹部大動脈瘤は、文字通り胸部から腹部にわたる広範囲に発生する大動脈瘤です。"こぶ"の場所によって四つのタイプに分類します〈図7:クロフォード分類〉。手術もタイプによって人工血管に置換する範囲が変わります。

図7 クロフォード分類


腹部の重要な臓器に栄養を送る大切な動脈が枝分かれしており、人工血管置換術を行うことが多いのですが、状況に応じてすでに説明しましたようにハイブリッド治療をすることもあります。

下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の手術で、合併症として脊髄障害が起こることがあります。これは、下行大動脈または胸腹部大動脈から、背骨の中にある脊髄という太い神経の束を養う血管が枝分かれしていることに関係しています。下行大動脈や胸腹部大動脈を人工血管で置換すると、脊髄への血液の流れが悪くなってしまうからと考えられています。

この血流障害で、脊髄が部分的に壊え死しすることがあります(脊髄梗塞)。その結果、脳からの電気刺激が足へ伝わらず、足が動かなくなり(対麻痺)、排尿、排便が困難になる膀胱直腸障害が起こることがあります。

脊髄障害を完全に予防する方法は、世界中の研究者が取り組んでいますが、いまだありません。しかし、CTやMRIによる検査で、脊髄への血液の流れに大きくかかわっている血管(アダムキュービッツ動脈)を手術前に確認しておくことや、手術中に低体温、肋間動脈の再建、脳脊髄液ドレナージなどの多種多様な方法をとることで、脊髄障害の発生率は劇的に改善されてきました。

4)腹部大動脈

腎臓へ血液を送る腎動脈よりも体の下側にある大動脈です。この部位の大動脈瘤は動脈硬化がより強く関係していると考えられています。男性は女性に比べて5倍の有病率があり、特に60歳以上になると増えてきます。喫煙習慣や高血圧、家族歴がある人も腹部大動脈瘤になりやすいといわれています。

治療は、70歳代以下の方にはおなかを開ける必要のある人工血管置換術を、70~80代以上には体の負担の少ないステントグラフト治療を行うことが多くなってきました。どちらかにするかは、患者さんの状態や既往歴、あるいは大動脈瘤の形を把握した上で、ご希望を踏まえ決定していくこととなります。

新しい試み:皮膚小切開手術

胸部の大動脈手術は、体への負担が大きく、手術のための皮膚切開を小さくする必要がありますが、小さくすると、見える部分が狭くなり外科医の手術操作がしにくくなり、かえって危険になります。

実際には、のど元からみぞおちまで皮膚を切開し、さらにその下に ある胸骨を縦に切開し、心臓や大血管全体を見えるように実際の皮膚所見(上段:胸部手術、下段:腹部手術)して手術をする必要があります。しかし、その代償として手術後の創の痛みや、大きな傷跡が残り、美容上の問題が生じます。

図8 皮膚小切開手術の成果
実際の皮膚初見(上段:胸部手術、下段:腹部手術)


そこで、これらの問題を最小限に抑えるため、近年の手術成績が安定してきたことを踏まえ、安全性を損なうことなく、症例に応じて創を小さくする皮膚小切開手術が行われるようになってきました〈図8〉。

また、腹部大動脈瘤手術でも可能な範囲(動脈瘤の範囲が小さい場合など)で、皮膚小切開手術をしています。この方法で手術の侵襲を小さくすることができると考えられます。手術侵襲が軽くなれば、早期回復や手術創が小さくなるという美容的な面と共に医療費削減に貢献できると期待されています。

おわりに

繰り返しになりますが、大動脈瘤はいったん破裂すると治療は極めて困難になり、手術をしても助かる可能性は低くなります。ですから破裂の可能性がある大きさの動脈瘤が見つかれば、破裂する前に治療するのが大原則です。「手術を受ける」と決断するのは、大変困難で勇気がいることです。しかし、最近は手術の成績も飛躍的に向上しています。主治医の説明をよく聞いて、納得のいく決断をされるようお勧めいたします。

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